メインページへ

1995年4月15日号 NO.174

グレ−プフル−ツジュ−スとCa拮抗剤との相互作用

 

        〜ジヒドロピリジン系Ca拮抗剤の血中濃度が上昇〜  

 アダラ−ト、バイミカ−ド、エマベリン等のジヒドロピリジン系Ca拮抗剤の添付文書が改訂され、グレ−プフル−ツジュ−スとの同時服用で血中濃度が上昇する可能性があるので、同時服用を避けることを喚起する旨の項目が新たに、新設されました。この相互作用につきましては薬剤ニュ−スNo.164(1994年11月15日号)で既に紹介していますが、添付文書に記載となったことで、患者への 服薬指導義務が生じたことになります。      

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤と柑橘系ジュ−スの相互作用に関しては、海外でいくつかの臨床実験が行われ報告されています。その中にアダラ−ト等をグレ−プフル−ツジュ−スと共に服用した場合、水で服用した場合に比べてアダラ−ト等の血中濃度が上昇して血圧および心拍数に影響を与えたとあります。

 オレンジジュ−スでは、水と同様で血中濃度には影響を与えなかったとのことです。この差異の理由として、グレ−プフル−ツジュ−スの苦味成分であ るフラボノイド(ナリゲニン、ケルセチン、ケムフェロ-ル等)がこの相互作用に関与している可能性があげられています。

 アダラ−ト(L)やエマベリンは肝臓での初回通過代謝を受けますが、グレ-プフル-ツジュ-スに含まれるフラボノイドがこの肝臓での代謝酵素であるチトクロ-ムP450 -3A4を阻害することによってこれらの薬物の血中濃度が上昇するのではないかと推察されています。

 なお、薬物の代謝阻害についてはP450自身の阻害だけでなく他の分子種が関与する阻害反応も予想されています。

[実例]

 アダラ−ト10mgをグレ−プフル−ツジュ−ス250mlで服用した場合、水同量で服用した場合に比べ134%であるとの報告がなされています。

 現時点では重篤な副作用に陥ったという症例は報告されていません。

 これからの季節、ジュ−ス類の飲用も増えることと思われますので、飲食物・嗜好品などにも十分配慮した服薬指導が望まれます。

*その他のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤

 ヒポカ、ノルバスク、コニ−ル、ペルジピン

☆フラボノイド:ラテン語のflavus(黄色)に由来

  植物中で多くは配糖体として存在する。無色のものもある。


メインページへ

グレープフルーツジュースによる薬物相互作用

2000年10月1日号 300

 グレープフルーツジュースがCa拮抗剤などの作用を増強することは、一般に広く知られるようになってきました。その作用機序にはCYPが関与していることは既に分かっていましたが、その原因となる成分、詳細な作用機序については不明なままでした。

 最近、グレープフルーツジュースが薬物相互作用を起こす成分がDHB:6',7'-Dihydroxybergamottinであることが判明しましたが、それだけでは説明がつかない現象がみられ、それが
P糖蛋白の関与であることが分かってきました。

 DHBは、CYP3A4のMBI(注:下記)であることが、動物実験で確認されましたが、更に単なるCYPの阻害剤ではなく、CYP3A4の分解を促進しCYP3A4を消失させてしまう作用を持っていることも分かりました。

 しかし、同じCa拮抗剤でも、注射剤では相互作用は見られないという現象があり、CYP以外にもなんらかの因子がグレープフルーツジュースの相互作用に関与していると推測され研究され、その結果、小腸でのP糖蛋白質が吸収・排泄過程で関与していることが分かりました。

 P糖蛋白は、小腸上皮細胞で、有害物質などを体外に排出する作用を持っています。P糖蛋白質とCYP3Aの基質・阻害剤は相同性が高いことが分かっています。(薬剤ニュースNo.192参照)

 また、グレープフルーツジュース以外にもダイダイの1種であるSevill OrangeジュースにもDHBが含まれています。しかし、このジュースと、シクロスポリンAを、経口している患者での相互作用を調べたところ、シクロスポリンとの間に相互作用を示しませんでした。これは、DHBがP糖蛋白質を阻害しないためと考えられます。

 シクロスポリンAの経口クリアランスと小腸上皮細胞のP糖蛋白発現量との間には有意な相関関係がありますが、CYP3A4量とは相関のないことが報告されています。このことから、グレープフルーツジュースとシクロスポリンAとの相互作用は、DHBによるCYP3A4のダウンレギュレート(受容体の数を減少)ではなく、グレープフルーツジュースにのみ含まれる他の成分(フラボノイド等)によるP糖蛋白の阻害に起因すると考えられています。

 <<グレープフルーツジュースの相互作用>>

 CYPが阻害されると、基質となる薬物が代謝されないため血中濃度が上昇します。そしてP糖蛋白が阻害されても、その基質となる薬物が排泄されないため血中濃度が上昇します。また、RFPは、CYPとともにP糖蛋白の誘導剤でもあるため、ジゴシン等の基質となる薬物の排出量を増大させ、作用が減弱します。

・グレープフルーツジュースを1日3回1回237mLを飲んだ場合、飲むのを止めて5日ぐらいでCYPは回復します。

・市販のグレープフルーツジュースの中でも濃縮製剤(商品名トロピカーナ等)が問題とされていて、果汁含有量が3〜10%程度のもの(ファンタなど)では問題となりません。また、DHBはグレープフルーツの果皮の白い部分に多く含まれており、果実の部分を食べても影響はありません。普通のみかんや夏みかんにはDHBは含まれていません。

・同じCa拮抗剤でも、ヘルベッサーRやノルバスク錠は相互作用(作用増強)はありません。

・作用が増強される薬剤(Ca拮抗剤:当院採用分)

 アダラート・L、アテレック、カルスロット、コニール  ニバジール、ヒポカ、ランデル、ワソラン

・Ca拮抗剤剤以外で、相互作用(作用増強)のある薬(当院採用分)

 アセナリン、サンディミュン、プレタール


CYP(チトクロームC P450)が関与する薬物相互作用の機構

1)薬物Aが薬物Bが同じCYP分子種で代謝され、薬物Aが薬物Bの代謝を阻害

2)ある薬物の特定の構造(イミダゾール基 ヒドラジド基等)などが他の薬物の代謝素であるCYPのヘム部分に配位することにより、代謝を抑制

MBI

mechanism-based inhibition

 ある薬物がCYPで代謝され、生成した代謝物が別の薬物の代謝酵素であるCYPと共有結合して複合体を作り、代謝を阻害する場合

この記事は京都薬科大学の長澤一樹先生の講演を元に編集したものです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 チトクロームP450(CYP)などの酵素を不可逆的に阻害することをMBIと呼びます。

 MBIは、薬物が代謝酵素により代謝されることにより反応性の高い代謝物もしくは代謝中間体が生じ、代謝酵素の活性部位と共有結合するなど不可逆的に結合することによって酵素の失活を引き起こすことで生じます。

 代表的な例として、マクロライド系抗生物質のCYP3A4の阻害による薬物間相互作用があります。マクロライド系抗生物質はCYP3A4で代謝され、その第3級アミンがN-脱メチル化とその水酸化によりニトロソアルカン代謝物となってCYPのヘム鉄に不可逆的に結合した複合体となり、CYP3A4を不活化します。

 この機序による相互作用は阻害薬が血中から消失しても酵素は不可逆的に阻害されているので、阻害が解除されるには不活化された酵素が分解され、新たな酵素が作られてくるまでの時間(数日から1週間程度)を要します。

 従ってもし、血中半減期の短いMBIの阻害剤を昨日で中止したからといって、その日から相互作用の心配がなくなるということではありません。

 グレープフルーツジュースの成分によるCYP3A4の阻害もMBIであるほか、臨床上強力なCYP阻害作用を持つ薬物のほとんどがMBIであることが分かってきています。

 また、薬物間相互作用のみならず、CYPへのMBIによる反応代性代謝物となることが肝毒性の原因となることなども知られています。

       出典:日本病院薬剤師会雑誌 2010.5

 


がんばらなくてもいいんだよ

◇300回記念特別エッセイ◇

 患者さんが、人に言われて一番がっかりする言葉は「がんばろう」だそうです。

 患者さんは、他人(医師、看護婦、家族、友人などなど)から会う度に「がんばろう、がんばろう」と励まされます。それがとてもつらいことと感じる患者さんがおられます。「なぜみんなは私のつらい気持ち、しんどいことを分かってくれないのだろう」とよけいに落ち込んでしまわれるそうです。

 「がんばろうね」よりも「しんどいねえ、つらいねえ」と言ってあげるほうが、患者さんの気持ちにとっては楽になるそうです。

 阪神大震災の時でもそうでしたが、自分ではがんばらなければいけないことは十分に分かっていますし、毎日毎日そのつもりで100%以上に体を酷使してがんばっているのです。それなのに会う人、会う人が「がんばれ、がんばれ」と言うのです。これ以上さらにがんばらなくてはいけないのでしょうか?みんな本当に私のつらさを分かってくれているのでしょうか?

 がんばれ、がんばれと言われすぎると、次第に疑問が生じてきます。今まで、私ががんばって来たのは、なんだったのだろう。これ以上もうがんばることなんかできない。みんな私の気持ちが分かっていない。!!

 最近、薬の世界でも、強力な薬よりも作用がよりマイルドな薬が求められています。また、心不全に強心配糖体ではなく、心臓作用を弱める薬(β遮断剤)が用いられる場合があります。これも無茶な療法に思われますが、よく考えてみると、心不全(弱った心臓)に強心剤を用いるのは疲れた馬にムチを打つようなものなのです。弱った心臓には、より少ない仕事をさせて心臓に楽をさせてやろうという発想です。

 がんばっている看護婦や医師が、がんばりすぎて医療事故を起こして、社会問題となっています。忙しすぎる現場が、ミスを生み出す背景にあります。人手不足を補うために無理にがんばったためについうっかりしたことが重大なミスに繋がってしまうのです。

 日本人は、がんばることが大好きです。しかしこれは一歩間違うと戦争中の精神主義に繋がってしまいます。竹槍でB−29を撃墜せよ!ということになってしまいかねません。

 今回で、薬剤ニュースは300回をとなりました。昭和62年から13年続きました。よくがんばったというべきですが、がんばったという実感はありません。というのも元来筆者はあまり几帳面な性格ではなく、表題の「がんばらなくてもいいんだよ」をモットーとして生きてきたからです。

※ あんまりがんばらないことが物事を長続きさせるコツです。


メインページへ

2005年1月15日号 No.398

 串刺しにされた心

 末期患者の理解とコミュニケーション

この文章は、淀川キリスト教病院名誉ホスピス長 柏木哲夫氏の講演を元に再構成したものです。

 患者の「患」という漢字は‘串’に‘心’と書きます。
患者さんは、様々な要因によって心を串刺しにされていることに気づかなくてはなりません。
 「うれしい」、「楽しい」などの陽性感情はあまり隠れることはありませんが、「つらい」、「苦しい」等の陰性感情は隠れてしまうことがあります。患者が望むことは、陰性感情に気づき、それに対応して手当がなされることです。

 患者とスタッフのコミュニケーション(会話)は「内容」と「感情」から成立しています。「内容」の裏に大切な感情が隠されていることも少なくありません。

 末期の患者が「私は、もうダメなのではないでしょうか」と言われたとき、「そんな弱音をはかないで頑張りましょう」と多くのスタッフは言いますが、患者さんは「ハア」と言って会話はとぎれます。そして患者さんの心には、気持ちが分かってもらえなかったというやるせなさが残ります。

 体の衰弱を自分で感じ、頑張ろうと思いながら頑張れない状態にある患者を安易に励ますのは良い方法とは思われません。役に立たないだけでなく、害になる場合の方が多いのです。
 患者を励ますのはスタッフの努めとしてパターン化しています。回復可能な病気で励ましを必要としている場合もありますが、末期の患者では通用しない場合があります。

 患者さんがスタッフに求めるものは理解的態度です。頑張ろうとはげますことは、弱音をはきたい患者に対して弱音をはくなと言っているのと同じですから、患者さんは「ハア」といって会話はとぎれてしまいます。

 スタッフは会話を遮断せず、「理解的態度」で会話を持続させ患者さんの心に刺さった串を抜く努力をしなくてはなりません。

※会話を持続させる方法→
オープンエンドの質問


シリーズ医学・薬学用語解説(T) Tumor Lysis Syndorome:腫瘍溶解(融解)症候群 癌化学療法による腎毒性 はこちらです。

メインページへ