院内感染の最近の動向
1989年3月1日号 No.38
近年、医療の進歩にも関わらず、院内感染は増えつつあり、さらに大きな問題に発展し得る情勢にあります。 2000年注;この時点で筆者はまだMRSAという言葉すら知らなかったのです。この年(1989年)の数ヵ月後に我々はMRSAに直面することとなります。 院内感染とは、病院内で起こる感染であり、患者はもちろん、新生児、未熟児、さらに医療従事者にも起こり得るものです。また、院内で感染発症したものはもちろんのこと、院内で感染し退院してから発症したものも含まれます。 |
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従来、院内感染といえば外因生感染が主でしたが、最近は宿主の抵抗力に減弱によって引き起こされる内因性感染(いわゆる日和見感染)が多くなっています。このような感染症の変貌には、微生物と宿主の相関関係ばかりではなく、抗生物質の使用と高齢化社会の到来という新しい局面が要因となっていると考えられます。
<感染症サーベイランスの対象疾患>
麻疹様疾患、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、百日咳様疾患、溶連菌感染症、異型肺炎、乳児嘔吐・下痢症、その他の伝染性下痢
手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹、ヘルペンギーナ、咽頭結膜炎、流行性角結膜炎、細菌性随膜炎、無菌性随膜炎、急性出血性結膜炎
川崎病、インフルエンザ様感冒、ウイルス肝炎
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<院内感染防止対策の原則>
感染源対策、職員の定期検診、感染経路対策、対策委員会の設置、被感染者対策
<現在(1989)日本で注目されている感染症(MRSA)を除く>
*呼吸器感染症:マイコプラズマ、レジオネラ、ニューモシスカリニー
*感染性下痢症:カンピロバクター腸炎、輸入性感染性下痢症
*偽膜性腸炎、クラミジア
*TSS:Toxic
shock syndrome、STD:Sexually transmitted
disease
*成人T細胞白血病
*AIDS(エイズ)
*ウイルス肝炎
*ヘルペス、ウイルス感染症
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アウトブレイクとは
〜〜〜感染症の疫学(2つの視点)〜〜〜
2011年10月15日号
No.554
感染症アウトブレイクとは、疫学的な因果関係がある症例群が、通常みられないレベルまで増加した状態をさすことが普通です。
疾病の発生動向を平時から観測していないと、早期の察知は難しく、アウトブレイク発生が疑われたときは、まずその信憑性を評価し、現場での対応と実地疫学調査をバランスよく進めることが必要です。
{参考文献} 薬事 2011.5
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Outbreakとは、辞書を引くと、「(悪いことの)突発、発生。暴動、反乱」と訳されています。感染疫学でいうアウトブレイクは、主に感染症の集団発生をさします。疫病の集団発生は、まさに悪事の勃発と言えます。
専門用語として、アウトブレイクとして抑えておかなければならない点が2つあります。
1つは、「アウトブレイクは、日常より多く発生している状態」という量的な違いです。例えば風邪症候群は普通アウトブレイクとは呼びません。なぜなら日常から数多く発生している感染症だからです。
では、どういうときに日常ではない(非常である)と判断するのでしょうか。諸説はありますが感染管理ナース(ICN)のテキストでは、「日常時の2SD(標準偏差の±2倍)超」と記述されています。
国立感染症研究所の疫学週報では、定点把握対象となる各5類感染症について、過去5年間の前週、当該週、後週の合計15週の平均を基準に±1SD、±2SDと発生度合いをランク付けしています。いずれにしても重要なことは、「平時よりいかほど多い」という基準値ベンチマークベースライン(benchmark,baseline)が必要で、そのためには日常から感染症の発生動向を監視(サーベイランス)していないとアウトブレークは察知できません。
さらに1類感染症に代表されるウイルス性出血熱などは日常みられない感染症なので、標準偏差の多寡で判定するのは無意味です。1例でも察知されれば、疑い症例であっても感染対策上、アウトブレイクと表現されます。
2つ目に重要なことは、「ただ発生数が増加するだけでなく、疫学的な関連が証明(または示唆)されている」質的な観点も重要です。
疫学的な関連とは、「ヒト、場所、時間」の要素が関連している症候群という意味で、集団発生事例のなかには実地調査でこのような関連が否定され、アウトブレイクでないと判定されることもあります。感染疫学では、感染症の発生が増加しているが疫学的な関連が認められない状況を「流行」と呼ぶことがあります。
2009年に発生した新型インフエンザA/H1N1などは、疫学的な関連が追えなくなった段階で「流行拡大期」とされました。ちなみに、いったん流行した感染症は、新型インフルエンザのようにピークを迎えた後、終息に向かうものが多くあります。なかには一定の発生数を維持し続ける場合もあります。MRSAやHIV感染施用などが
一例ですが、このような状況を「蔓延」と使い分けることもあります。
アウトブレイク時に重要となるのが、感染症の時間的な経過です。感染が成立し発症に至るまでの期間を潜伏期といいます。まず、起炎菌となる微生物に「曝露」されます。この微生物が体内で増殖する機会を得た状態が「感染」です。しかし感染すれば必ず「発症」するわけではなく、感染症によってはキャリアや無症候性感染者が存在します。
ヒトに感染させる可能性のある時期を感染性期といいます。潜伏期であってもすでに感染性であることが多く、できるだけ早期に接触者調査を行い、「感染した可能性のある人」を見つけ出し隔離する場合もあります。加えてアウトブレイクの全体像を把握する為に疫学調査を実施します。
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感染症の感染様式
感染疫学には3つの要素があります。1)感染源、2)、感受性、3)感染経路です
感染源は、ヒトの病気でも、ヒト固有の場合と動物などヒト以外が主要な感染源の場合とがあります。
感受性とは病原体のかかりやすさであり、病原体への免疫の有無、基礎免疫力の多寡が影響します。
感染経路は、アウトブレイク調査で最も重要な要素です。多くの場合、今まで知られていなかった感染経路により、集団発生事例が勃発するからです。(下記参照)
感染症は大気や飲食物に不直した微生物が、口気道、皮膚、粘膜などに付着して感染するものと媒介昆虫などによって人体内へ注入されるもの、さらには寄生虫のように幼虫が人体内へ入り込むものなど、取り込まれ方は様々です。
施設内で集団感染した病原体感染経路の例
(複数の感染形式があるものは主要な経路)
・食事 〜腸管出血性大腸菌O157
・手指接触〜MRSA,ノロウイルス、疥癬ダニ、蟯虫(ぎょうちゅう)
・医療器具〜緑膿菌などグラム陰性杆菌、B型肝炎ウイルス
・リネン類〜セレウス菌
・飛沫 〜インフルエンザ、クリプトコッカス
・換気 〜レジオネラ菌、クリプトコッカス
・空気 〜結核菌、麻疹ウイルス
{参考文献} 薬事 2011.5
Clostridium difficile
〜〜今、注目の“熱、消毒薬に耐性”の病原体〜〜
2012年8月1日号 No.572
Clostridium difficile(以下CD)は、偏性嫌気性グラム陽性杆菌で、通常、酸素の存在下では増殖しません。CDは芽胞形成菌であるため、芽胞の状態では、乾燥や熱、消毒剤(エタノール、クロロルヘキシジン)に耐性です。
病院内では芽胞の状態で環境や医療従事者の手指に長く存在し続け、院内感染の感染源になり得ます。
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CDは、健康成人の5〜10%、新生児の15〜70%に無症候性保菌がみられ、また、抗菌薬使用中の患者では、約20〜30%が保菌しているとの報告があります。
保菌者に抗菌薬が使用され、町内の常在細菌叢が乱れることで発症する内因性発症と施設内で発症患者から直接または医療従事者を解して伝播発症する外因性発症とがあります。
CD感染の最大のリスクファクターは抗菌薬の使用で、診断治療のプロセスに従って行うことが重要です。
*CD感染の定義(米国医療疫学会・米国感染症学会)
1)症状(通常は下痢)の存在
2)「便検査でのCD毒素陽性または毒素産生性CD陽性」および「偽膜性大腸炎を示す大腸内視鏡または病理組織所見」
患者の大多数に、先行する8週以内の抗菌薬、または抗腫瘍薬の既往。
症候性のCD感染患者のうち96%が下痢の発症前14日以内に抗菌薬を使用しており、96%が下痢が先行する3ヶ月前に抗菌薬を使用していたことが報告されています。
CD感染の症状は通常、定着の直後に始まり、発症までの期間の中央値は2〜3日といわれています。
* 抗菌薬関連下痢症
抗菌薬関連下痢症(AAD:antibiotic-associated diarrhea)は腸内正常細菌叢が撹乱された結果、耐性を細菌へ菌交代が起こり発症するものがあります。
使用した抗菌薬に耐性の菌種が異常増殖して発症するもので、このなかで最も頻度が高く、重要な病原体がCDで、CDが関与した下痢症をあるいは腸炎をCD-assosiated diarrhea/desease)CDADといいます。また内視鏡所見で偽膜が確認されたものを偽膜性腸炎と呼びます。
AADの10〜25%、抗菌薬関連腸炎の50〜75%、偽膜性腸炎の90%以上がCDが原因となっています。
* CD感染の治療
1)誘因と考えられる抗菌薬を中止、あるいは変更。必要な場合は、電解質の補正
2)抗菌薬〜メトロニダゾール;日本では未承認
バンコマイシン(約20〜25%の症例ではバンコマイシンを必要とせずに回復する。
3)糞便腸注法 〜日本での資料なし
4)毒素吸着剤、免疫グロブリン 〜 資料なし
5)プロバイオティクス〜腸内フローラの正常化
サッカリミセス属、酪酸菌、乳酸杆菌、腸球菌で報告有、血流感染の潜在的リスクが存在するため、原発性CD感染の予防法としては推奨されていない。
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CD(Clostridium difficile)のリスクファクター
・薬剤性因子
a.抗菌薬(高リスク)クリンダマイシン、カルバペネム系、第2,3セフェム、
フルオロキノロン系(シプロキサン、クラビット、ガチフロ、アベロックス)、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン
b.中リスク〜アミノG系、メトロニダゾール、テトラサイクリン系
c.低リスク〜マクロライド系、バクタ、バンコマイシン、第1世代セフェム、アンピシリン
d.抗悪性腫瘍剤(高リスク)〜メトトレキサート、5Fu、ドキソルビシン、シクロホスファミド等
e.その他〜制酸剤(H2拮抗薬、PPI)、注腸、経管栄養剤、緩下剤
・患者因子
入院期間、高齢、免疫能低下、消化管手術、低アルブミン血症、内視鏡検査 等
・環境因子〜介護施設での長期滞在
* CDの感染予防
発症例では、通常の手指消毒では効果が期待出来ない為、石鹸と流水による手指衛星を徹底する。
糞便の衛生的処理、経管チューブや内視鏡の清潔管理
<CDの水平伝播を予防する感染制御対策>
環境清掃は、次亜塩素酸ナトリウムを使用
CDを保有している患者には、標準予防策に加え接触予防策を遵守する。
*CD関連腸炎では消化管の蠕動運動を止める。薬剤は使用しない。また、無症候性キャリアーには治療しないことが原則です。
{参考文献}薬局 2012.6
慢性疼痛について考える。
2008年8月1日号 No.480 関連項目:慢性疼痛もご覧ください。
急性痛は、警告反応として重要な役割を持っています。そして急性痛はその原因が明確になれば引き続き痛みを残存させる意味はなくなります。
一方、組織損傷が治癒したにもかかわらず訴え続けられる痛みや明らかな原因が見当たらないのに訴え続けられる痛みが存在し、このような痛みが、慢性疼痛(無用な痛み、異常な痛み)と呼ばれます。
慢性疼痛とは、「疾患が疾患が通常治癒するのに必要な期間を超えているにもかかわらず訴え続けられる痛み」とされていますが、様々な考え方があり、今日的には「6ヶ月以上にわたって持続するまたは断続する痛み」と幅広く考えるのが良いようです。
一般に慢性疼痛は、侵害受容器が内因性発痛物質などにより持続的に刺激されるために生じる侵害受容体性疼痛、神経伝達・抑制機構に係わる神経線維の働きに異常をきたした結果である神経障害性疼痛および感情・情動面に重きがおかれる心因性疼痛に分類されます。
<機序による分類>
・侵害受容性〜腰背部痛、リウマチ性関節痛、骨関節炎、筋筋膜炎など(下記参照)
・神経障害-末梢性〜帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、神経損傷など
・神経障害性-中枢性〜脊髄損傷、脳卒中後痛、多発性硬化症など
・混合性〜脊椎術後症候群(FBSS)、癌疼痛、根症を伴う腰背部痛など
<DSM-IV-TR:米国精神医学会による診断基準>
・1つ以上の解剖学的での疼痛が臨床像の中心を占めており、臨床学的関与に値するほど重篤
・その疼痛は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、またはそのほかの重要な領域での機能の障害を引き起こしている。
・心理的要因が、疼痛の発症、重傷度、悪化または持続に重要な役割を果たしていると判断される。
・その症状または欠陥は(虚偽性障害または詐病のように)意図的に捏造されたものではない。
・疼痛は、気分障害、不安障害、精神病障害ではうまく説明できず、性交疼痛症の基準を満たさない。
<ポイント>
・痛みには生体警告系としての生理的意義がある
・慢性疼痛は生体警告系としての役割がない。
・慢性疼痛は治療に要すると期待されている時間の枠組みを超えて持続する痛みである。
・慢性疼痛は疾患が治癒した後、3ヶ月を目安として急性疼痛から移行する。
・慢性疼痛は身体的要因や心理社会的要因などから構成されることが多い。
・慢性疼痛の身体的要因は、神経障害性疼痛と持続する侵害受容体性疼痛を機序とする。
・慢性疼痛の診療では痛みの原因を解明するのではなく、痛みが生じている病態を明らかにすることが重要である。
<アセスメント>
慢性疼痛のアセスメントについては、その程度(強度)、持続期間、影響(活動障害、病的行動障害など)の3つの局面から行うことが推奨されています。慢性疼痛は、きわめて主観的な経験であることから、有効な対応の実践を可能にするには、これらの要素を組み合わせて評価することが必要です。
急性疼痛には原因や損傷の治癒に焦点を合わせて治療しますが、慢性疼痛では機能の最大化を含む効果と活動障害や心理・社会的問題の管理が中心となります。
慢性疼痛では、痛みが生じている病態を多面的に解明して、それぞれに的確に対応することが重要です。
{参考文献} 治療 2008.7 関連項目:慢性疼痛もご覧ください。
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侵害受容性慢性疼痛
侵害受容性疼痛とは、継続する侵害刺激により慢性的に経過する疼痛というだけでなく、引き続く侵害刺激により神経障害性い疼痛とは異なる機序で何らかの痛覚過敏などの感作が加わったため生じた疼痛といえます。
長期にわたる耐え難い慢性疼痛により特有の抑うつ、不眠、不安感、体調不良、家庭内・社会的活動の低下、薬物依存、ドクターショッピングなど様々な問題が生じてきています。(これは、侵害受容性慢性疼痛だけでなく、他の慢性疼痛でも同じです)
侵害受容性慢性疼痛は炎症や組織損傷で生じた発痛物質による末梢の侵害受容器が持続的に刺激されることから生じます。その理由はこの痛み刺激が侵害受容器の感受性を変化させ、また知覚神経の痛覚過敏などを起こすためです。
この機序が実験的に示されているのは関節炎による関節痛が生じる際の神経線維の機能変化です。
関節炎では、痛みを伝えるほとんど全ての求心性線維が生理的運動範囲内の関節運動に反応してしまい、さらに関節炎がないときには侵害性関節運動に反応しなかった線維と休止線維も中等度の関節運動に反応することが判明しています。
さらに慢性関節炎では、末梢組織に分布する侵害受容線維の分枝は増殖し末梢での感受性が亢進しています。侵害受容性疼痛として侵害受容線維に伝わってくるインパルスが長期に及ぶと侵害受容線維末梢部から放出される興奮性アミノ酸をはじめとする伝達物質の作用により、中枢神経レベルでも痛覚過敏が生じてきます。
侵害受容性慢性疼痛は様々な部位での痛覚過敏をベースにしてある程度時間をかけて発症してきます。
慢性関節炎だけでなく、難治性腰痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、FBS(failed
back surgery
syndrome)なども侵害受容性慢性疼痛と考えられています。
侵害性慢性疼痛では多くの場合、プロスタグランジン(PG)が関与するため、消炎鎮痛剤(NSAIDs)が効果的です。
癌疼痛でも、モルヒネよりもNSAIDsが効果を持つ症例があり、侵害受容性慢性疼痛に分類されるべき病態が多く含まれていると考えられています。
{参考文献} 治療 2008.7
慢性疼痛について考える(2)
2008年8月15日号 No.481
〜〜回避学習型疼痛とオペラント学習型疼痛〜〜
回避学習型疼痛
外傷などの治癒過程で何らかの動作に伴って痛みが自覚されたときに「痛みを起こす動作は病変を悪化させる」と予期すると、足を引きずる、あるいは不自然な姿勢をとるなどの痛みを回避する行動をとります。
回復期での患部の安静は重要ですが、治癒後も不快な結果を伴うと予想してその行動を回避し続けると、不自然な姿勢からある筋肉がいつも収縮状態となり、そこに新たな痛みが出現します。
その結果患者の予期不安は更に強固となり回避行動が継続します。やがて筋萎縮や関節の拘縮、筋緊張の亢進などをきたし二次的な痛みの原因となることがあります。このようなメカニズムで生じた疼痛を回避学習型疼痛といいます。
この疼痛への治療としては、身体感覚に対する誤った解釈や認知的要因に対し教育的アプローチを実施し、徐々に運動を再開し、活発な日常生活を維持する方が効果的であることを体験し、理解してもらいます。
発症時には侵害受容性疼痛(前号参照)が主であったものの、発症後に学習性疼痛や抑うつなどが加わり、鎮痛薬、神経ブロック、抗うつ薬などの多様な治療を受ける中で、学習性疼痛のみが残存し、一過性の情動ストレスにより持続・増悪され、最終的には一見、心因性疼痛のようになっているケースもあります。
非常に難治化している症例を発症時、治療経過から分析すると上記のような病態像の変遷が起こっていることがあります。
この場合は、各時点で実際に痛み体験を経験してきた患者の訴えを十分に受容しながらも、次期とともに患者の体験する痛みに対する有効な対処法が変わってきていることを理解してもらうことが重要です。
{参考文献}治療 2008.7
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オペラント学習型疼痛
1968年に学習性疼痛という新たな概念が提唱され、その後の慢性疼痛の治療に大きな影響を与えました。
慢性疼痛の中でも難治化した症例の多くはこの学習性の疼痛を含んでいます。
この学習性疼痛で、痛みへの存在を周囲に知らせる随意的反応(行為)の総称を疼痛行動と呼び、この行動には、言葉、表情、目つき、体位の変化などによる痛みの訴えだけでなく、病欠、頻回の来院、薬・入院・手術の要求、労災保険の申請なども含まれています。
痛みの原因となる損傷や病変が治癒すれば、これらの疼痛行動は軽減・消失することが予想されますが、なかには疼痛行動が持続する場合があります。これを患者がこの疼痛行動を行うことによって何らかの報酬(利点)を得ているためであると仮定し、オペラント条件づけでこれを説明しました。
オペラントとは、環境状況に働きかけて反応を引き起こす随意的行為の総体を指し、その行為(オペラント)の頻度は反応の性質により変化します。例えば、母親に頼まれて(刺激)子供がご褒美(陽性反応)を貰うと、頼まれなくてもご褒美欲しさにお手伝いするようになります(報酬刺激)、同様に、疼痛行動(例えば、痛みの訴え)が陽性反応(例えば、鎮痛・快感・家族の同情・経済的報酬)などを招けば、(末梢からの)痛み刺激なしでも疼痛行動(オペラント)は増強されます。
このように成立した疼痛をオペラント学習型疼痛と呼びます。
疼痛行動を維持・増強する因子(報酬)として、1.重要な人物からの注目・関心・擁護的かかわり(擁護反応)、2.家庭又は社会生活への再適応の回避(現実回避)、3.怒り、不満、罪悪感といった心理的苦痛の抑制(葛藤回避)、4.他の家族成員間の葛藤の回避(家族システムの維持)が挙げられています。
この疼痛への対処策として、病態を患者や家族の言葉や行動パターン、患者を取り巻くシステムの詳細な分析によって理解し、そのうえで疼痛行動に中立反応をもって臨み、疼痛行動の増強を遮断する必要があります。
しかしこの遮断については、患者にとっての報酬(利点)の意味を治療側が十分に吟味し、報酬を失うことで新たな不適応状態が生じないよう本人への働きかけや環境調整と進めて行く必要があります。
{参考文献}治療 2008.7
慢性疼痛を考える(3)
心療内科的治療〜セルフ・エフェカシーの向上
2008年9月1日号
No.482
慢性疼痛の治療では、患者と医師間の良好な信頼関係が不可欠です。
初対面からの患者との関係の全ての過程で、治療的効果を考慮します。診断は、病名の確定ではなく心身医学的病態仮説の構築によって行われます。病態仮説や治療方針の構築には、患者の納得と能動的な関わりを重視します。
* 病態仮説と治療方針の構築
患者との面談等で得られた情報を組み合わせ、疼痛が発症し持続している構造を考えます。それは解釈の仕方の1つであって本当に真実なのかどうかをはっきりさせる方法はほとんどありませんし、その必要もありません。そういう意味で「仮説」なのです。というもののこの仮説に基づく治療方針がうまく機能すれば劇的な効果を発揮します。
病態仮説を構築するに当たって特に考慮すべきことは、
1)患者(しばしば周囲の人を含む)が納得が得られる。
2)変化させる余地がある。
3)医学的に明らかな間違いを指摘し得ない。
の3点です。
治療の考え方は、正しい診断に至れば効果的な治療が決まるという通常の過程とは逆で、治療の行い易さや効果も考慮しながら病態仮設を構築するという手順になります。
そして心身医学的治療とは、心身相関を考慮した疼痛の悪循環を変化させ、別のパターンに置き換えていく作業に他なりません。
<病態仮説の例>
・原因不明→納得のいく病態説明(筋緊張による血流低下と過度の安静とによる悪循環)
・緊張→心身のリクラセーション訓練(自立訓練法、漸進的筋弛緩法など)
・過度の安静→計画的・段階的運動療法の提案
* 治療効果の促進とセルフ・エフェカシーの向上
自分が治療において目標を達成できるという考えをセルフ・エフェカシー(自己効力感)といいます。
痛みの思考反芻や焦りの強い患者では、常に痛みについて考えたり治療の取り組みを頑張りすぎることで、かえって疼痛が増強することがあります。
こういった患者には思考や行動を痛みに支配された状態に陥るということを何度も繰り返しています。しかしそのような自分の状態に繰り返し気づく練習をすると、しだいに自分の状態を客観的に見ることができるようになります。
このような練習を定型的に行う心理療法に認知行動療法があります。治療が進めば、疼痛を維持する構造に何らかの変化が起こってきます。変化とは必ずしも痛みの強さとは限らず、気分や行動また周囲の人の評価などの場合もあります。
患者自身が責任を持って能動的に取り組むような治療内容であれば、好ましい変化を患者の努力とすることができ、その後の遂行可能感を高めることにつながります。
低いセルフ・エフェカシーは疼痛による障害や抑うつに関係していて、これを高めることは治療終了に向けての自信と終了後のと再発予防に有用です。
{参考文献}治療 2008.7
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SPA〜末梢(神経)刺激療法
SSP(silver
spike point)療法
慢性疼痛の治療で、神経ブロック療法、薬物療法がその根管となりますが、刺激鎮痛療法(SPA:stimulation
produced
analgesia)が選択されることもあります。
SPAは、神経伝達を遮断して鎮痛を図る神経ブロック療法とは全く出発点を異にする治療法で、主に電気による刺激が行われています。
<末梢枝劇の分類>
I.経皮的刺激
1)経穴刺激 ・鍼治療 ・経皮的電気刺激法TEAS:transcutaneus
electrical acupuncture point
stimulatuion
2)痛みが存在する部位ないし神経の走行に沿った刺激
・経皮的電気刺激法TENS:transcutaneus
electrical nerve stimulatuion
3)経穴ないしはそのほかの部位への刺激
・SSP(silver spike
point)療法
II.手術による刺激
末梢神経刺激療法PNS:peripheral nerve
stimulation
<刺さない針治療SSP>
SSP療法では、経穴、トリガーポイント、圧痛点、神経の走行に沿った部位などを選択し、専用の電極を貼付して通電を行いますが、特に経穴への刺激を行うことが多いようです。
このSSP療法の特徴は、針治療のように体内に鍼を刺す必要がないことで、鍼に過敏な患者、恐怖心を持つ患者、小児などにも使用できます。
さらに操作が簡便で、副作用が少ないことも利点です。
副作用としては、電極自体ないしは固定バンドによる皮膚炎があります。また、吸引付電極を使用した場合には、治療後に圧痕がつくことがあります。とくに若い女性の顔面や頸部などの露出部位への使用には注意を要します。また長時間の通電の吸引付電極を用いて行うと、吸引により水泡ができる危険性があり、吸引圧の調製が必要となります。
禁忌として、1)電極貼付部位に皮膚炎が存在する場合、2)ペースメーカーの埋め込みを行っている場合、3)心筋梗塞の既往、4)脳血管障害発生の直後、5)発熱時、6)妊娠初期などがあるものの、SSP療法の適応は極めて広いと思われています。
{参考文献}治療 2008.7
鵞口瘡
がこうそう
口腔粘膜や舌に、カビの一種であるカンジダ菌が寄生して多数の白い斑点ができた状態。したとぎ。
thrush
同義語:口腔カンジダoral
moniliasis
Candida
albicansによる口腔内感染で、乳児に多くみられますが、抗生物質やステロイドが長期間使用されたり免疫能の低下している年長児にもみられます。
症状は白い乳カード状のものが頬粘膜、舌、口蓋に付着し、簡単にはとれず、無理に剥離するとびらんがみられます。軽度の疼痛があるといわれます、軽症例では問題はありません。
範囲が拡大すれば食欲が低下することがあります。また重症例に合併した場合では症状を悪化させることもあります。
治療は局所に1%ピオクタニンまたはアムホテリシンBを塗布します。ビタミンB2が有効との報告もあります。乳児では乳首や哺乳瓶の消毒を行い、年長児では基礎疾患の治療上の問題もありますが、抗生物質の変更、ステロイドの減量、抗真菌薬の使用を考えます。
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アフタ
aphta
口鵞、口瘡。小潰瘍
主として粘膜面に生じる白色ないし、灰色の斑点または限局性びらんとしてみられ、周囲は赤暈を呈します。
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ファンギゾン(アムホテリシンB)の使用説明書
口の中に出来るだけ長く含ませ、舌で口腔内に広く薬を行き渡らせた後、嚥下(飲み込ませる)方法のこと。
従来行われていた含嗽法はすぐに薬を捨ててしまうため、薬との接触時間が短く、口腔内への浸透が不十分となります。従ってこの含銜法が簡便で有効です。
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OTC
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
ornithine
transcarbamylase(OTC)deficiency
同義語:高アンモニア血症II型 hyperammonemia type
II
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)はカルバミルリン酸とオルニチンとからシトルリンを生成する酵素です。本症ではこの酵素の先天障害により血中、髄液中にアンモニアが著増し、生後1週頃より嘔吐、不機嫌、意識障害を生じ知能障害を残します。
伴性優性遺伝疾患で、男子は新生児期に死亡することが多く、女子では学童期以後に発病します。
本症の酵素障害については種々の分子的異質性がみられます。
<治療薬>
・安息香酸Na
窒素含有物質を尿素以外の形で尿中排泄を増加させることにより高アンモニア血症を改善
グリシン(必須アミノ酸)を安息香酸とのアシル化により馬尿酸として尿中に排泄
急性期:0.2〜0.4g/kg/day
維持期:0.3〜0.5g/kg/day
・アルギU顆粒の薬理作用〜1.血中アンモニア濃度の上昇抑制、2.アンモニア代謝促進
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シデロフェリン
鉄結合性蛋白
血清中の鉄と結合して、細菌の育成に必須な遊離鉄を与えさせません。病原細菌はエンテロバクチンやトランスフェリンなど、自ら鉄を取り込む蛋白質を生産してこれに対抗しています。