地熱発電
飛躍できるか地熱発電 be report サイエンス
 地熱発電は、24時間安定して運転できる自然エネルギーだ。太陽光や風力に比べて地味でも、火山国の日本には多くの地熱資源が眠っている。開発の難しさや温泉地との摩擦といった問題を抱え、ここ10年は新設が頭打ちだったが、地球温暖化対策として再び脚光を浴びてきた。国は「20年までに3倍増」を視野に入れ、「飛躍」への取り組みが始まろうとしている。 (佐々木英輔)
 東京から南に290`。八丈島の南部の山腹から、湯気が立ちのぼっていた。  東京電力唯一の地熱発電所だ。発電能力は実質2千`ワット。数万`ワット級もある東北や九州の発電所に比べると小ぶりだが、約8,400人が住むこの島の電力量の3割近くをまかなっている。
 「クリーンエネルギーのモデル島」。東京都八丈町はこんな島の姿を描いてきた。
 89年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が地熱発電の可能性を調査した結果、有望だとわかり、東電が発電所を建設。99年に運転が始まった。
 地熱利用のための井戸の深さは1650b。その底にある300度、100気圧の熱水が地表に達すると、170度、7気圧の蒸気になり、発電タービンを回す。
 地熱調査の成果は温泉掘削にも生かされた。発電所の隣接地には、余熱を活用した温室施設と直売所もできた。
 島で観葉植物などを栽培する菊池義郎さん(68)は「計画を聞いたときは、そんなに熱があるのかと信じられなかった。でも、いまは地域の活性化につながっている」。
 島の電力はもともと、重油を燃やすディーゼル発電(約1万1千`ワット)で賄っていた。いまは地熱で24時間、一定量を発電し、需要に応じて残りをディーゼルで調整する。その分、輸送コストが割高な重油と二酸化炭素(CO2)排出を減らせた。
 だが、国内の地熱発電所の新設は、この八丈島を最後に途絶えた。開発事業者の撤退も相次ぎ、「冬の時代」を迎えた。現在の発電量は風力や太陽光より多いものの、総発電量の0.3%に過ぎない。
 背景には、@十分な熱水や蒸気が得られず開発リスクが伴う A発電規模が小さく送電や維持費などのコストに見合わない B火山周辺は国立公園などに指定され開発に制約がある C地元に温泉枯渇などへの不安がある−−など地熱に特有の事情がある。
 実際、NEDOが80年から調査した63カ所で、事業化できたのは5カ所だけだ。
 いま、八丈島は温泉施設との共存や離島での活用といった点で、「現状打破」に向けたヒントとして語られる。将来の重油の価格次第で、離島なら採算に見合う可能性がある。新潟県・佐渡島でも最近、調査が実施された。

温泉生かし共生を図
 昨年、草津温泉のある群馬県草津町で、隣の嬬恋村の地熱調査をめぐって町をあげた反対運動が起きた。調査地は草津温泉の泉源から3.5`。ずっと温泉の掘削を避け、自然にわき出す「自噴泉」を守ってきた歴史ある温泉地にとって、泉源に影響が出れば死活問題だ。
 草津町温泉課は「何か影響があっても、地下で起こったことの立証は難しい。CO2削減は必要でも、ほかの環境への影響や温泉文化も考える必要がある」という。
 温泉と地熱発電は、どうすれば共生できるのか。一つの解答になりそうなのが、開発中の「温泉発電」だ。
 新たな掘削をせず、既存の温泉を活用する。沸点が低いアンモニアの蒸気で発電するのがポイントだ。
 湯の熱を熱交換器を通じてアンモニアに伝えると、100度以下でも蒸気がつくれ、これで直径十数センチの小型タービンを回す。浴用には熱すぎる源泉の湯を、薄めることなく適温まで下げられる。
 出力は1基50`ワット。一般家庭20軒分と小規模だが、潜在的には既存の温泉だけで72万`ワット分との試算もある。「温泉地に複数置き、地域の電力を賄うイメージ」と開発会社、地熱技術開発の大里和己部長。今年度から長野県小谷村などで実証試験をし、実用化へ道筋をつける。
 日本地熱学会も今春、共生策の検討委員会を設けた。
 国内で温泉への影響がはっきりと現れた例はないとされる。「発電後の温水は地下に戻すので循環する」 「温泉との間に水を通しにくい層がある」などと説明されてきた。
 とはいえ、地下は見えにくく不安は残る。温度や成分を継続的に観測し、水や熱の出入りを精度よくつかむ−−。そんな地下の管理の高度化も模索されている。
 委員長の野田徹郎・産業技術総合研究所顧問は「地下の能力に応じて使わなければ発電も続かない。地下の様子をつかんでおけば、別の原因で温泉に変動があっても一緒に対策を考えられる」と話す。

国の支援で「3倍増」
 2020年までに67〜113万`ワットの開発が可能−−。14日、経済産業省資源エネルギー庁の研究会は地熱発電の可能性をこう見積もり、具体的な支援策を求めた。  最大限、利用拡大に取り組めば、原発1基の新設と同程度の電力が確保でき、合計出力はいまの53万`ワットの3倍になる。このうち温泉発電と、既存発電所の拡張で、各12万`ワット増と見積もる。  既存発電所の拡張は、開発が厳しく制限される国立公園の特別地域などの扱いが焦点だ。発電所から斜めに井戸を掘り、地下から区域内に入れれば、5地域で計9.7万`ワットが得られるという。  もともと発電用の井戸は斜めに掘る場合が多く、技術の進歩で掘削の精度も高まってきた。この方法なら、地表の環境や景観に影響を与える可能性はずっと低くなる。  秋田県湯沢市では三菱マテリアルなどが今年度、新設の最終判断に向けた調査をする。温泉発電のように、やや低温の熱水を使う新方式「バイナリー発電」を検討中の場所も複数ある。  地熱発電の拡大は、こうした動きの採算性を、国の今後の制度改定の検討でどれだけ後押しできるかにもかかる。電力会社に再生可能エネルギー利用を義務づけるRPS制度で従来方式の地熱発電は対象外。建設時の補助率も低めだ。
(出典 朝日新聞 2009.5.30 be on Saturday)



(出典 朝日新聞 2009.5.30 be on Saturday)

「会津若松旅行」に戻る

「散歩コース」に戻る

トップページに戻る

総目次に戻る

[Last Updated 6/30/2009]