目 次 1. いきさつ 2. 概要 3. 内容 4. あとがき 5. 作者紹介 6. 読後感 |
いせ ひでこ 株式会社 理論社 |
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1. いきさつ
なにがきっかけで、この絵本を知ったか、もう一つ思い出せません。多分新聞の書評欄ではないかと思います。私の友人に製本が趣味の男がいます。しかも彼はこの絵本に出てくるような職人が大好きです。もしもパリの片隅でこのような工房を見つけたら、いせ ひでこさんと同じように何日も通って、仕事や道具を見せて貰うことでしょう。
その友人に聞いたところ、この本を既に持っていました。
2. 概 要
パリの路地裏に、ひっそりと息づいていた手の記憶。本造りの職人(ルリユール)から少女へ、かけがいのないおくりもの。
作者のいせ ひでこさんが、パリにアパートを借り、何度も路地裏の工房に通って手仕事をスケッチし、絵本にまとめました。3. 内 容(絵本は絵と文章が一体のもの。それでも筋をまとめてみました)
4. あとがき
パリに住む少女(ソフィー)は、大切にしていた植物図鑑をこわして、バラバラにしてしまいました。こわした本をどこへ持っていったらよいかが判らずに町をさまよい歩きます。セーヌ河畔のブキニスト(古本屋)のおばさんが、ルリユールに持って行くことを教えてくれます。ルリユールは本のお医者さんのような人だと想像し、こんどはルリユールがどこにいるかを探します。
少女はやっとのことでルリユールを見つけます。長い間、少女が入口にいるのをみたルリユールのおじさんは少女を中に入れます。少女は作業場があまりにも散らかっているのを見てびっくりします。そこには製本に使われるいろいろな道具や材料が所狭しと並んでいます。おじさんはやさしく少女に本を直すことを約束します。製本の工程やいろいろの道具を見ながら、少女は好きな木の話をおじさんに語りかけます。
こうして製本の工程が続く間、少女とおじさんの対話が続きます。とくに「ルリユール」ということばには「もう一度つなげる」という意味もあるという箇所は、聞き慣れないことばルリユールの理解にもつながるでしょう。
一日の仕事が終わった後で、ルリユールおじさんは父親からいわれたことを思い出します。お父さんもルリユールだったのです。
明くる朝、少女は本を受取に行くとき、新しく芽の出た鉢をお礼に持って行きます。本は立派に製本され、"ARBRES de SOPHIE(アルブルズ ドゥ ソフイー[ソフイーの木たち])"と金文字で刻まれていました。
おじさんのつくってくれた本は、二度とこわれることがなく、少女は植物学の研究者になりました。
RELIEUR(ルリユール)、M氏に捧げる
パリの街の一角。路地裏の小さな窓。
窓の中で手作業をつづける老人。
ちいさな灯りの下、規則正しく揺れる白髪。
手には糸と針。
かがられていく黄ばんだ本。
窓辺に背を向けて並んだ、色や大ささの異なる本。
深紅、緑、濃紺、黒、茶色の革表紙には
金箔の文字とアラベスク装飾。
色彩と光に凝縮された時の流れ。
そこに奏でられているのは沈黙と記憶という音楽。
窓ガラスのちいさな紙片に
「RELIEUR(製本)-DOREUR(金箔)」
そして
「私はルリユール。いかなる商業的な本も売らない、買わない」
RELIEURは、ヨーロッパで印刷技術が発明され、本の出版が容易になってから発展した実用的な職業で、日本にはこの文化はない。むしろ近年日本では、「特別な一冊だけのために装帳する手工芸的芸術」としてアートのジャンルにみられている。出版業と製本業の兼業が、ながいこと法的に禁止されていたフランスだからこそ成長した製本、装帳の手仕事だが、IT化、機械化の時代に入り、パリでも製本の60工程すべてを手仕事でできる製本職人はひとけたになった。
旅の途上の独りの絵描きを強く惹きつけたのは、「書物」という文化を未来に向けてつなげようとする、最後のアルチザン(手職人)の強烈な矜持と情熱だった。手仕事のひとつひとつをスケッチしたくて、パリにアパートを借り、何度も路地裏の工房に通った。そして、気づかされる。
本は時代を超えてそのいのちが何度でもよみがえるものだと。
旅がひとつの出会いで一変する。
いせ ひでこ
5. 作者紹介
いせ ひでこ (伊勢英子)
1949年に生まれ13歳まで北海道で育つ。東京芸術大学卒業。絵本『むぎわらぼうし』で絵本にっぼん賞、創作童話『マキちゃんのえにっき』で野間児童文芸新人賞受賞後、宮沢賢治作品『水仙月の四日』で産経出版文化賞美術賞を受賞。最近では『雲のてんらん会』『1000の風 1000のチェロ』『はくちょう』『絵描き』などの絵本制作と平行して絵本原画展、アクリル画の個展を各地で開催。
チェロを弾くこと、取材の旅、子育て、犬との生活から書かれたエッセイ「グレイのシリーズ」や『ぶう』『空のひきだし』、『カサルスへの旅』『ふたりのゴッホ ゴッホと賢治37年の心の軌跡』 共著に『見えないものを見る』などがある。
6. 読後感
この絵本はソフィー(少女)とルリユールおじさんの交流が中心です。ある朝、ソフィーが大事にしていた「植物図鑑」がこわれ、木の大好きな彼女はどこへ持っていったら本が治るかパリの町をさまよいます(絵を参照)。その街角の風景がとてもよい。後半はルリユールの工房を見つけて、製本の工程や工房の内部が紹介されます。日本にはないルリユールという職業ですが、手仕事の好きな著者は愛情をもってルリユールおじさんを描きます。絵には1ページと見開き2ページの2種類がありますが、絵の描き方や色使いが素晴らしいと思います。
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[Last updated 1/31/2009]