「芝浜革財布ほか」

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 解説と見どころ
4. 感 想

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1. はじめに
 先月(2006年12月)は、久しぶりに歌舞伎座の12月大歌舞伎を見に行きました。最初は国立劇場に忠臣蔵を見に行こうかと思ったのですが、10月から3ヶ月の通し狂言で、役者も毎月変わるため、歌舞伎座にしました。昼の部です。
 出し物は八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし 嫗山姥[こもちやまんば])、忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの 将門[まさかど])、芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)、勢獅子(きよいじし)の四本で、松緑、菊五郎、雀右衛門などが出演しました。

2. 演目と配役

1. 八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし) 一幕
 荻野屋八重菊        菊之助
 息女沢潟(おもだか)姫   松 也
 腰元お歌           市 蔵
 煙草屋源七
 実は坂田蔵人時行     團 蔵
2. 忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)  常磐津連中
 傾城如月
 実は将門娘滝夜叉姫    時 蔵
 大宅太郎光圀        松 緑
3. 芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)  二幕五場
 魚屋政五郎        菊五郎
 女房おたつ         魁 春
 友達桶屋吉五郎     亀 蔵
 友達錺(かざり)屋金太 権十郎
 友達大工勘太郎     團 蔵
 友達左官梅吉      彦三郎
4. 勢獅子(きよいじし)  常磐津連中
 鳶頭 鶴吉    梅 玉
 鳶頭 亀吉    松 緑
 芸者 お京    雀右衛門

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3. 解説と見どころ
【八重桐廓噺】
 この作品は、本名題を『嫗山姥(こもちやまんば)』と言い、全五段の時代浄瑠璃として、近松門左衛門によって書き下ろされました。正確な初演年時は不明ですが、正徳2年(1712)9月以前に、大坂竹本座で初演されたと推定されています。今回上演の『八重桐廓噺』は、『嫗山姥』の二段目を独立させたものです。
 主人公である荻野屋八重桐は、初演当時に上方で活躍していた名女方・荻野八重桐がモデルとなつています。『嫗山姥』が初演された正徳2年の春、荻野八重桐は『ひがん桜』という作品で"しゃべり"の演技を見せて、評判を取りましたが、これを近松門左衛門が早速、自作に取り入れました。この"しゃべり"の趣向は、『八重桐廓噺』の大きな見どころとなっており、そのため、この作品は"しゃべり山姥"と通称されます。
 岩倉大納言の館の門前へ、煙草屋源七がやって来て、沢潟姫(おもだかひめ)の気を晴らすために、館へ呼び入れられます。そして源七が煙草の来歴を語り、太田十郎に女にもてると煙草を勧めて、館から追い出す件りは、最初の見どころとなっています。
 続いて源七の唄声を聴いて、八重桐が館へ入り込み、源七を前にして、互いの馴れ初めに始まり、朋輩の傾城と源七を取り合った痴話喧嘩の様子を語って聞かせます。この箇所が、最大の眼目である"しゃべり"の件りで、義太夫に合わせての派手な演技が続きます。また"しゃべり"を終えて、お茶を一杯所望する件りは、おかしみある場面になっています。
 後半の見どころは、自らの不甲斐なさから切腹した坂田時行の魂魄が、八重桐の胎内に入り、気を取り戻した八重桐が超人的な活躍を見せる場面で、勇壮な立廻りを見せて幕となります。
 女方の大役である八重桐を菊之助が初役で勤め、煙草屋源七に團蔵という配役です。

【忍夜恋曲者】
 『忍夜恋曲者』は、天保7年(1836)6月に、江戸市村座で上演された『世善知相馬旧殿(よにうとうそうまのふるごしょ)』の大詰所作事として初演されました。作詞は宝田寿助、作曲は五世岸澤式佐(後の四世古式部)です。
 この『世善知相馬旧殿』は、山東京伝の読本『善知鳥安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)』を脚色して劇化した作品で、東北地方に残る"善知鳥伝説"と、平将門の遺児である滝夜叉姫と、将軍太郎良門の暗躍を描いた作品です。
 「それ五行子にありと云う 彼の紹輿の14年」という置きの浄瑠璃が済むと、スッポンから傾城姿の滝夜叉姫が出現します。この滝夜叉の出は、初演時の資料を見ると、夏芝居ということもあり、水中から出現する演出が採られていたようです。
 滝夜叉の花道での振り事が済むと、将門の残党の詮議のために、相馬の古御所へやって来た大宅太郎光圀(みつくに)が目を覚まします。光圀は怪しい様子の滝夜叉に斬りかかりますが、滝夜叉は、その身を島原の傾城如月と偽って、光圀をかき口説きます。「嵯峨や御室の花ざかり」に始まるクドキは、前半の見どころ、聴きどころで、情趣あふれる場面です。
 やがて滝夜叉に気を許した光圀は、古御所にゆかりある平将門最期の様子を物語ります。物語の件りは、光圀の大きな見せ場となっています。この物語を聞いて滝夜叉が涙を流しますが、光圀が怪しむので、廓話をしてその疑いを晴らそうとします。
 「一つ一夜の契りさえ 二つ枕の許しなき」からは踊り地となり、賑やかに踊るうちに、滝夜叉姫の素性が顕わになります。そして滝夜叉と光圀との立廻りの末、滝夜叉姫は蝦蟇の妖術を使って、古御所の屋根の上へ逃げ、光圀がこれを追って行って幕となります。
 ぬいぐるみの蝦蟇には愛嬌があり、舞台に広がる建物全体が上下するのは、見せ場です。
 時蔵の傾城如月実は滝夜叉姫に、松緑の大宅太郎光圀という清新な配役です。

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【芝浜革財布】
 『芝浜革財布』は、人情噺の『芝浜』を劇化した世話狂言で、大正11年(1922)に二長町市村座で、六世尾上菊五郎の政五郎で初演され、好評を博しました。以降、落語種の世話狂言としては、『人情噺文七元結』と肩を並べる人気狂言となつています。
 この作品の原典となっている人情噺の『芝浜』は、一説によると名人・三遊亭円朝が"芝浜""酔っぱらい""革財布"の題から作った三題噺と言われていますが、これはあくまで伝説にすぎないようです。
 政五郎が革財布を拾う芝浜は、雑魚場(ざこば)と呼ばれた庶民的な魚市場があり、政五郎のような棒手振りの魚屋が、数多く出入りしていました。
 上の巻では、政五郎の住む長屋の様子が巧みに描かれ、近世後期の長屋の人々の生活が窺われます。また政五郎たちの酒盛りが一転して、喧嘩となつていく展開や、政五郎がおたつに言い含められて、革財布を拾ったのが夢であったと信じる件りは、客席の笑いを誘います。
 上の巻の見どころは、懲りない夫の様子を見て、女房のおたつが何とか改心して欲しい一心で、政五郎に意見をする場面で、夫婦の情愛溢れる場面となっています。
 下の巻では、店を構えるほどの魚屋となった政五郎が、おたつと三年前の大晦日を述懐する件りが最初の見どころです。やがておたつが、革財布についての真相を明かし、政五郎の許しを乞う場面は、この作品最大の眼目となっています。
 すでに定評ある菊五郎の政五郎に、魁春のおたつ、東蔵の金貸おかね、團蔵の大工勘太郎、彦三郎の左官梅吉、田之助の大家長兵衛です。

【勢獅子】 
 『勢獅子』は、本名題を『勢獅子劇場花籠(きおいじしかぶきのはなかご 籠は四冠に會)』と言い、嘉永4年(1851)5月に、江戸中村座で初演されました。作詞は三世瀬川如皐、作曲は五世岸澤式佐(後の四世古式部)です。
 現行の『勢獅子』は、日枝山王神社の祭礼を写した所作事となつていますが、初演の折はすでに絶えていた"曽我祭"の様子を見せるための所作事でした。
 この"曽我祭″とは、正月の曽我狂言が大当りをとり5月まで打ち続けると、曽我兄弟の命日である5月28日に催した芝居町の祭礼で、役者たちが揃いの浴衣を着て練り歩き、様々な余興を見せました。鳶頭たちが、曽我兄弟の仇討ちの様子を踊ってみせる趣向があるのは、こうした背景に拠るものです。
 幕が開くと、町内の神酒所に、鳶頭をはじめ、鳶の者や手古舞たちが勢ぞろいし、鶴吉の音頭で手を締めます。「ヤンレかっかれかっかれ」で、鳶の者と手古舞たちの木遣りに合わせての踊りとなり、賑やかな踊りをみせます。「夫れ建久四つの皐月闇 念のう父の仇敵」からは、前半の見どころで、鶴吉と亀吉が曽我兄弟の仇討の様子を見せます。やがて、おどけ節にあわせての"ふらぼら踊"と称される、くだけた踊りとなります。続いて芸者お京のクドキとなり、鶴吉と共に艶やかな踊りをみせます。
 「今を盛りの名取草 花の姿の扇の蝶の」から後半の見どころとなり、亀吉と鳶の者が、獅子舞を舞って獅子の狂いを見せます。そして「あの姐さんにちょと惚れて」からは、鶴吉も加わって、神楽の面を使っての可笑し味ある踊りを踊って舞い納めます。
 今回の上演では、鳶頭鶴吉に梅玉、鳶頭松吉に松緑、芸者お京に雀右衛門という配役で、華やかな祭礼舞踊を御覧頂きます。
(出典 歌舞伎座発行のプログラム[平成18年12月])

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4. 感 想
 12月の顔見せ興行で演目は充実しているのですが、期待した程の内容ではなかったように思います。
 将門は舞台の大転換や蝦蟇が出る後半が、面白いと感じました。
 芝浜革財布は落語の題材を歌舞伎化した出し物で、世話物として良くできていると思いました。

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[Last Updated 1/31/2007]