「職さがし」

    目 次

1. はじめに
2. キャストとスタッフ
3. 『職さがし』のための覚え書き
4. 平田オリザからのメッセージ
5. 作者紹介
6. 演出者紹介
7. 感 想

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1. はじめに
 友人の息子高橋広司君から案内をもらった「職さがし」を見に行きました。2006年5月26日に東京駒場の「こまばアゴラ劇場」での公演です。この公演には二つの背景があるようで、一つは青年団国際交流プロジェクト、もう一つが文学座+青年団 自主企画交流シリーズです。前者については3項「『職さがし』のための覚え書き」や4項「平田オリザからのメッセージ」にも説明がありますが、後者についてはシリーズ第1弾として、5月中に3会場で6作品が上演されています。
(出典 公演のパンフレットと当日配布のプログラム)

2. キャストとスタッフ
[キャスト]
高橋広司(ファージュ、文学座)
永井秀樹(ワラス、青年団)
山口ゆかり(ルイーズ、青年団)
石橋亜希子(ナタリー、青年団)

[スタッフ]
作:ミシェル・ヴィナヴェ-ル Michel Vinaver
翻訳:藤井慎太郎
演出:アルノー・ムニエ Arnaud Meunier
総合プロデューサー:平田オリザ

3. 『職さがし』のための覚え書き−−あらゆる状態におけるエクリチュール
 私は2006年10月にパリのシャイヨー国立劇場で、平田オリザの『ソウル市民』を演出するのを心待ちにしている。それに先立って、私は日本社会を「内側から生き」、感じることによって、この戯曲の深い意味をよりよく把握したいと望んだ。
 平田氏は暖かく私を東京に迎え、青年団や文学座の俳優たちとともに仕事する機会を準備してくれた。
 この仕事のために、私は平田オリザの演劇と響きあうことができるような戯曲を、より正確にいえばエクリチュールを探した。そこですぐに、ミシェル・ヴィナヴェールの『職さがし』に思い至った。この作品には平田オリザの演劇と同じように、心理描写を排除したテクストの分断がある。そのような表現は一見淡々としているので、作品のもつテーマの深刻さは背後に息を潜めているかのようだ。
『職さがし』は、ある男が解雇された後に突然陥った混乱状態を描いた作品である。自分の妻、娘、そして再就職したいと思っている会社の人事担当者とのやりとりを通じて、四人の声での問い直しがはじまる。そして、作者はこの状態、彼らの感情を、内省的なモノローグや古典的な対話によって写し取るのではなく、使い古されたドラマトゥルギーの構造を転倒させる演劇言語を用いて表現するのである。たとえば、戯曲は三十の断片から構成されているが、時間、対話の相手、問い、答え、といったすヘてのものが、ここではアトランダムに並ヘたてられている。しかし、何ひとつとして無秩序ではない。むしろ逆である。あらゆるものが綿密に計算され、構成されているのだ。
『職さがし』はリズミカルな劇であり、じわじわと、そして大いなる創意をもって、私たちが社会的な外見の背後に隠そうとしがちな人間の脆さを、すヘて露わにするのだ。                                          アルノー・ムニエ

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4. 平田オリザからのメッセージ
 今回、『職さがし』の演出を担当するアルノー・ムニエ氏は、この10月にフランスで二番目に重要な劇場であるシャイヨー国立劇場で、私の戯曲『ソウル市民』を演出することになっている。過去にも、フレデリツク・フィスバックが、『東京ノート』を演出する際に事前に来日し『われらヒーロー』(ジャン=リュック・ラガルス作)を上演し、ロラン・クツトマンが『S高原から』を演出する際にも、『インディア・ソング』(マルグリット・デュラス作)を上演した。
 これはフランス人演出家の面白いというか生真面目なところで、「日本人の作家の作品を演出するのなら、日本に行ってみる必要があるし、日本の演劇界のことも知らなければならない」「それならば、日本人の俳優たちと作品を作ることが、一番手っ取り早い」と考えるらしい。その過程では、ワークショツプやオーディションといったプロセスも、きちんとふまえてきた。
 こうしたステップを踏んで、私たち青年団はフランス演劇界と深い関係を築き上げ、フィスバック、グットマン両氏とも、その後、さらに大きなフロジェクトを進める関係に至っている。今回の、ムニエ氏との共同作業も、その大きな旅路の出発点として、足かけ3年にわたる準備を進めてきた成果である。ぜひ、多くの観客に、この出発点に立ち会っていただきたい。

5. 作者紹介
ミシェル・ヴィナヴェール Michel Vinaver
 1927年生まれ。劇作家、小説家、批評家。元フランス・ジレット社社長。現実を直接的に描く「日常の演劇」の実験に取り組む。『職さがし』(1971年)『労働と日々』(1979年)など、実業界に取材した作品も多い。彼の作品は、かみ合わない断片的な対話から構成され、そこに表象される言説や思想の交錯によって劇的な構造が構築されていく。

6. 演出者紹介
アルノー・ムニエ Arnaud Meunier
 演出家。1973年生まれ。政治学の学位を取得したのちに演劇を学ぶ。俳優として活動したのち、1997年La Compagnie de la Mauvaise Graineを設立、遊び感覚の探求を中心とした創作活動を行なう。劇団のメンバーとともに、舞台鑑賞に馴染みのない人々を劇場に向かわせる運動を行なっている。最新の演出作品は『Cent vingt trois』(作:エディ・バラロ/2005年)、『人の世は夢』(作:ヘドロ・カルテロン/2004年)。演劇作品の他に、現代オペラの演出も手がけている。2000年から2003年までの3年に渡り、サン=ドニのForum Culturel de Blanc-Mesnil(Scene Conventionnee)のレジテント・アーティストとして活動。2005年から、3年間 La Comedie de Reimsの契約演出家として毎年作品を製作している。2006年10月にパリ・シャイヨー国立劇場(Theatre National de Chaillot)で『ソウル市民』(作:平田オリザ)を上演予定。
http://www.ciemauvaisegraine.com

7. 感 想
 今回の作品は、非常に簡素な舞台で、舞台装置の転換も、登場人物の入退場もありません。主役のファージュが、会社の人事担当者ワラスから採用のための口頭試問を受けます。またファージュの妻のルイーズと娘のナタリーとの会話が同時進行します。つまり二つの場面が同時進行し、対話も脈絡なく進みます。そこで役者特に主役は普通の芝居とは違って、自分の投げかけた話に答えが直ぐに帰ってくるわけではなく、会話の脈絡やきっかけが掴みにくいのだと思います。場面の進行は背景に投影された番号(1〜30)で示されます。
 会話は緊張感に富み、脈絡さえ理解できれば、面白い芝居だと思います。
 平田オリザさんについても知りたくて、平田オリザ著「地図を創る旅 青年団と私の履歴書」(白水社)を読みました。

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[Last Updated 6/30/2006]