「籠釣瓶花街酔醒」
(かごつるべさとのえいさめ)

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 筋書き
4. 解 説
5. 感 想

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1. はじめに
 先月(2004.4)は、十八代目中村勘三郎の襲名披露があったので、久しぶりに歌舞伎座へ行きました。
 家内も最近は歌舞伎が好きになり、特に襲名披露は華やかだし、想い出にも成るので良い機会でした。毛抜きも、変わった趣向ですが、歌舞伎十八番とあって、楽しめる内容でした。籠釣瓶花街酔醒も判りやすい筋なので、派手な舞台も加わって、襲名披露の演目として良い舞台だと思います。

2. 演目と配役
1) 歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)            一幕

2) 十八代目 中村勘三郎 襲名披露 口上(こうじょう) 一幕
   金子國義 美術

3) 三世河竹新七 作
  籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいさめ)   四幕七場
       序幕 吉原仲之町見染の場より
       大詰 立花屋二階の場まで

◆毛抜
粂 寺 弾 正  團十郎
勅使桜町中将  海老蔵
民部弟秀太郎  勘太郎
秦   民 部  権十郎
八 剣 玄 蕃  團 蔵
小 野 春 道  友右衛門
腰 元 巻 絹  時 蔵

◆口上
 勘九郎改め  勘三郎
 幹部俳優出演

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◆籠釣瓶花街酔醒
佐野次郎左衛門 勘九郎改め勘三郎
八 ツ 橋     玉 三 郎
九   重     魁  春
繁山栄之丞    仁左衛門
立花屋長兵衛  富十郎

3. 書き(すじがき)
【毛 抜】
 小野小町の子孫、春道の館。天下が干ばつに苦しんでいるため、小町の雨乞いの唄の短冊を差し出すようにとの勅諚が下ります。ところが短冊はなくなっており、春道が短冊の行方探索を命じている時、あらわれたのは文屋豊秀の家臣粂寺弾正。小野家の姫君錦の前は髪の毛が逆立つ病に悩んでいましたが、弾正は毛抜が一人でに動くことから推理して病気の根源を突き止め、小町の短冊も悪人から取り戻してゆうゆうと館を後にするのでした。
 歌舞使十八番の一つで、科学作用を持ち込んだ奇抜な趣向がユニークです。弾正が毛抜がひとりでに立って踊り出すのを見入るときの見得が見どころの一つ。弾正は悪事を見やぶる才知あふれた人物ですが、腰元や若衆に戯れる一面ももつ魅力あふれる主人公。團十郎が家の芸を演じる、おおらかで楽しい舞台をお楽しみください。
【籠釣瓶花街酔醒】
 下野佐野の次郎左衛門は、商売一筋の真面目な絹商人。下男の治六とともに吉原を訪れ、美しい花魁八ツ橋に一目惚れします。八ツ橋に次郎左衛門は通いつめ、身請けをするところまで話が進みます。ところが、間夫の浪人繁山栄之丞から次郎左衛門と別れるよう迫られた八ツ橋は、満座の中で心ならずも次郎左衛門に愛想づかしをします。八ツ橋のことを深く恨んだ次郎左衛門は、四か月後に妖刀籠釣瓶で八ツ橋を切り殺してしまうのでした。
 縁切物として人気の高い世話物。序幕の吉原仲之町では、田舎者の次郎左衛門が花魁八ツ橋を見初めます。ここでの八ツ橋の花道での微笑みが見のがせません。一番の見せ場は、八ツ橋による縁切りの場面。胡弓が流れるなか、次郎左衛門の「おいらん、そりやあちとそでなかろうぜ」の名台詞が聞きどころです。新勘三郎の次郎左衛門、玉三郎の八ツ橋、富十郎の立花屋長兵衛、仁左衛門の繁山栄之丞をはじめとする豪華な舞台にご期待ください。
(出典 「イヤホンガイド 2005.4」 歌舞伎座で配布されるビラなど)

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4. 解説
 『毛抜』。粂寺弾正(團十郎)は小野家の息女、錦の前(坂東亀寿)が髪の毛が逆立つ奇病と聞き、畳においた毛抜が踊り、小柄(こづか)は踊らないことから、悪家老、八剣玄蕃(市川團蔵)のたくらみを見破ります。加えて弾正は腰元、巻絹(中村時蔵)や秦民部の弟、秀太郎(勘太郎)に戯れかかって振られ、お客様にお詫びするなど、おおらかで愛嬌のある役。
 二代目市川左團次が復活させた演し物ですが、十一代目團十郎は弾正の衣裳・化粧、毛抜が踊るのに見入る仕草などに独自の工夫をし、今回はその扮装・型で演じられます。
  『口上』では團十郎、海老蔵、時蔵、中村七之助など先月出なかった役者とともに、勘三郎が画家でイラストレーターの金子国義に依頼した襖絵も注目されます。
 夜の部の襲名披露演目は『籠釣瓶…』。江戸時代に実際にあった事件をもとにした演し物です。序幕で八ツ橋に見とれる佐野次郎左衛門(勘三郎)とそれを見て微笑む八ツ橋(坂東玉三郎)、豪華な花魁(おいらん)道中、満座の中での八ツ橋の愛想尽かしとそれに対する次郎左衛門の「花魁、そりやあちと然(そ)でなかろうぜ」に始まる名セリフ、大詰で次郎左衛門が妖刀、籠釣瓶で八ツ橋らに斬りつける妖しさなど絵になる見所が続きます。

 三世河竹新七作の八幕の世話狂言で、明治21年東京千歳座で初代左團次、五代目歌右衛門らが初演した。佐野次郎左衛門のいわゆる「吉原百人斬り」は享保年間に起こりすでに様々に脚色されてきた。この作品はその事件を素材にした講釈「三都勇剣伝」を脚色したもので、全体は題名になっている妖刀籠釣瓶を巡る因果話になっている。
 原作は次郎左衛門の父がかっての妻を惨殺する話に始まり、その祟りで父は悶死、次郎左衛門はあばた面になる。さらに次郎左衛門の急場を助けた侍が持っていた刀が籠釣瓶で、それを形見に譲られた次郎左衛門が刀の崇りで破滅するという構成である。
 その後、初代吉右衛門が今のような次郎左衛門と八ツ橋に絞った形に場面を整理して演じ当り役にし、そのやり方が今に伝わっている。
 序幕の「吉原見染め」は原作の五幕目に当たるが、花の吉原で田舎商人の次郎左衛門が花魁道中の華やかさに驚き八ツ橋の美しさに心奪われるまでを描いている。最初に勝手の知らぬ吉原でうろうろする次郎左衛門と治六の姿をコミカルに見せ、八ツ橋を見染めた次郎左衛門が呆然として「宿へ行くのが嫌になった」としゃがみこんでしまう姿で幕になる。八ツ橋の花道での宛然とした笑いも見ものである。次郎左衛門だけでなく観客の心も捕らえてしまう笑いなのである。

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 二幕目の「立花屋見世先」は吉原でいい顔になった次郎左衛門のおごりと、相変わらず野暮ったさが抜けぬ様子を見せる。歌右衛門はここで金に縛られた遊女の立場を見せておくことが大切だと言っている。次の「浪宅」では八ツ橋の情夫栄之丞が難しい。遊女に貢がせて世を送っている色男ではあるが悪人ではないのだ。その兼合いをどう見せるのかが芸になる。続く「引付座敷」は昔の吉原の風俗を見る面白さがある。動く風俗絵巻である。「回し部屋」では八ツ橋と栄之丞との微妙な情愛を見せる。
 「入ツ橋本部屋」はこの狂言のクライマックスである。典型的な「縁切り場」だが、通常の偽りの愛想冬かしと違って、八ツ橋が栄之丞に迫られて突如次郎左衛門に縁切りを告げるという点が異色なのである。最初は不機嫌に振舞っているが、栄之丞との約束で愛想尽かしをしなければならなくなる。思いがけないことなので周りは驚いて次郎左衛門に同情する。そんな周囲の声を開くうち八ツ橋は次第に苛立ち、遊女という身分がつくづく嫌になったという心の闇を見せるのである。
 次郎左衛門は思いがけない八ツ橋の態度にはじめは戸惑うが、縁切りの言葉を聞いて動転する。何とかこの場を切り抜けようとするが、逆に八ツ橋の言葉は鋭くなる。「おいらん、そりやあんまり袖なかろうぜ」以下は万事に察した次郎左衛門の切ない思いを聞かせる台詞で、この作最大の見どころである。主人思いの治六も活躍する。
 大詰は次郎左衛門の意外な様子にほっとした八ツ橋の安心を見せるが、それが次第に険悪な気配になっていくのが見ものである。恨みに加えて、妖刀籠釣瓶の魔力に引き摺られて殺人を重ねていく次郎左衛門の凄まじい姿が見ものである。男と女の関係は理屈では割り切れない。
(出典 狂言手習鑑 水谷 潔 歌舞伎座掌本−春季号[編集・発行 (株)東明社])

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5. 感 想
 襲名披露の口上は、いつ見ても華やかで、歌舞伎興行の目玉であることが、納得できます。
 歌舞伎十八番の「毛抜き」も判りやすい内容です。
 「籠釣瓶」も各役の性格がはっきりしていて、舞台も華やかで、襲名披露の演目として楽しめました。

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[Last Updated 5/31/2005]