南仏プロヴアンスの12か月

  目 次

1. まえおき
2. 概 要
3. 訳者あとがき
4. 著者紹介
5 . 読後感


ピーター・メイル著
池 央秋
(いけ・ひろあき)
河出書房新社

「本の紹介2b」に戻る

トップページに戻る

総目次に戻る

1.まえおき
 この本は大分前に読みました。今回(2005.5)のフランス旅行で、ガイドさんの説明に、何回か引用されたので、再読しました。扉の後に地図が付いています。別頁に一部切り取ったものを載せました。
 旅行に行っていない方も、南仏プロヴァンスの一端に触れ、「一度行ってみたい」と思って頂ければ、これに勝る喜びはありません。

2. 概 要
 英国から何回か訪れるうちに、南仏プロヴァンスがすっかり気に入り、住まいを買って奥さんと移り住みます。家を改造する際の職人たちとの交流、地元の人々との農業や食事(家庭料理、レストラン)を通じての交流など南仏プロヴァンスでの生活、人情、土地柄などが楽しく紹介されています。1月〜12月までの12章から成り、各章には季節に合った幾つかの話題が載っています。

「ほんとうの生活、生きる歓びとは?」
 オリーヴが繁り、ラヴェンダーが薫る豊かな自然。多彩な料理とワインに恵まれた食文化。素朴で個性均な人びととの交流。ロンドンを引き払い、南仏に移り住んだ元広告マンがつづる至福の体験。イギリス紀行文学賞受賞の珠玉のエッセイ。英米で100万部の大ベストセラー。BBCでTV化!
(本の帯より)

「羨ましい南仏プロヴァンスの生活−こんな暮らしがあれば、ほかにはなにも要らない」 エッセイスト 玉村豊男
 石造りの農家、オリーブの古木、葡萄畑。南仏プロヴァンスに移り住んだイギリス人の、ユーモアいっばいの「人間の楽園」からの報告。がっしりと土地に根を張って、日々の生活を最大限に愉しみながら生きている魅力あふれる人々のありさまが、一種の懐しさと憧れを抱かせる。それにしても、プロヴァンスはなんと素晴らしい食べものとうまい酒と愉快な時間とに満ちているのだろう。こんな暮らしがあれば、ほかにはなにも要らない。
(本の帯より タイトルはウエブ・マスター)

目次に戻る

3 訳者あとがき
 今、欧米でプロヴァンス・ブームと呼ばれるちょっとした社会現象が起きている。昔から、南仏プロヴァンスは欧米人が望郷の念にも似た思い入れをもって眺める土地ではあったのだが、それと違って昨今では、現実に族行者が殺到する「札所」のひとつとしてプロヴァンスは脚光を浴びている。ニューヨークの大手の書店にはプロヴァンス・コーナーが設けられ、人が集まれば必ずプロヴァンスが話題に上るほどで、まったく新たな関心がこの土地に集まっていると言って過言ではない。それだけ市井の庶民にとってプロヴァンスが身近な土地になった故のブームとも言える。
 そのブームの火付け役が、ここに訳出したピーター・メイルの『南仏プロヴアンスの12か月』である。プロヴァンスを訪れる族行者の多くがガイドブック代りに本書を小脇に抱えているという。かってことわざに、ナポリを見てから死ね、と言われたけれど、その名所(などころ)をプロヴァンスに変えなくてはならないほど、欧米における本書の評価は高い。
 イギリス人ピーター・メイルは旅行者として何度もプロヴァンスを訪れるうちに、陽光溢れる南仏の豊かな自然と変化に富む食生活、純朴な人心・風土に魅せられて、ついにロンドンを引き払い、二百年を経た石造の農家を買い取ってこの地に移り住む。近隣の農夫や改築を請け負ってやってくる職人たちとの交流を中心に、今様に言えばカルチュア・ショックを体験しながら、次第にプロヴァンスの暮しに馴染んでいく過程を月々の気侯の移り変りに沿って十二編のエッセイにまとめたのが本書である。
 すでに本文をお読みの方々にとっては無用の論ながら、ここには日々発見の驚きがあり、生きる歓びがあり、エピキュリアンの幸福がある。脱都会の旋律線を通奏低音として、プロヴァンスの気候、風土、人情、動植物、料理、ワインがあやなす多声音楽(ポリフォニー)を聞く楽しみとでも評すれば、本書が多くの読者を捉えた秘密をかなり正確に伝えることができるのではあるまいか。ピーター・メイルとともにプロヴァンスの一年を暮す読者は葡萄の葉が若緑から夏の濃緑を経て金と赤とに色を変えるさまを眼前に見るであろう。ラヴェンダーの匂いをかぎ、肌を刺すミストラルに襟を掻き合わせることであろう。農夫や職人、市場の商人、そしてレストランのシェフたちはピーター・メイルの省略のきいた人物描写によって豊かな個性を発揮する。加えて各章で語られる料理とワインはその方面に関心を持つ読者の食欲をそそり、思いを壷中(こちゅう)の天に誘うに違いない。
 ピーター・メイルは旅行者の視点ではなく、この地に根を降ろすことを決心した異邦人の新鮮な目で物を見ている。好奇心を対物レンズとし、共感を接限レンズとする望遠鏡を彼は片時も手放さない。このことは土地者がピーター・メイルを相手に胸襟を開く上で大いに力があったと想像される。著者ほ「タイム」誌のインタヴューに答えて語っている。
「メロンの旬はいつか、走りのアスパラガスほいつ頃出回るか、もう三週間もすれば野生のキノコが食べ頃になる、といったことに絶えず気を配ることが大切だ。珍しくも何ともない食べ物だが、土地の人々はそれぞれに意見があり、秘密を知っている。的を射た質問をすれば、彼らは喜んで話してくれる」
 ことは料理やワインに限らない。ピーター・メイルの親愛の眼差しはプロヴァンスのすべてに向けられている。著者のこの姿勢故に、本書は欧米人の多くが古来プロヴァンスという土地に対して抱いている憧れによく応え、プロヴァンスを手の届く距離に引き寄せたと言えるだろう。ピーター・メイルはこの一作によって1989年度イギリス紀行文学賞を獲得した。旅行記ではない作品にこの賞が与えられるのは異例のことであるという。本書がいかに歓迎されているかがわかる。

目次に戻る

 ピーター・メイルが日本に紹介されるのは、実ほこれがはじめてではない。
『ぼくどこからきたの?(Where Did l Come From?』の題名を挙げれば、ああ、と思い出す読者も少なくないはずである。今から19年前に書かれたこの本は幼児向けの性教育図書として画期的なものだった。日本では奇しくもこのプロヴァンスと同じく河出書房新社から谷川俊太郎氏の翻訳で出版され、現在なお類書中屈指の好著に数えられている。
 英領西インド諸島のひとつ、バルバドスの大学を出たピーター・メイルはロンドン広告業界の大立者デイヴィッド・オグルヴィの下でアドマンの修業を積み、コピーライターから身を起こして大手の代理店BBDOのクリエイティヴ・ディレクターにまで出世した。ロンドンと業界のメッカ、ニューヨークはマデイスン街の間を足繁く往復する多忙な生活が続いたが、本人の言によれば「この世界で生きるためには欠かせない情熱の衰えを意識して」あっさり地位を捨てた。
 途端に襲ってきた貧困から脱するために思い立って書いたのが先の『ぼくどこからきたの?』である。これが成功してピーター・メイルは物書きになる決心をする。以来、漫画のストーリーや童話や、新聞雑誌のコラムなど、注文があれは手当たり次第に何でも書いた。その間、度々プロヴァンスに遊んでこの土地がすっかり気に入り、スモッグに煙るロンドンと決別することになった経緯はすでに述べた通りだが、その時、彼は小説の構想を抱いていた。
 ところが、18世紀に建てられた農家を仕事にふさわしい住環境に改めるのは容易なことでほなかった。筆の遅れを著作権代理人に訴えると、それならば、現に身の回りで起こっていることを書けばいいではないかという答が返ってきた。そこで、初版はせいぜい数千部、知人友人にちょっと気のきいたクリスマスプレゼソトになればいいというほどの気持で書いたのが本書だとピーター・メイルはあるところで語っている。それが、パン・ブックスでペーパーバックになった1990年あたりから爆発的な売れ行きとなり、以来二年間、アメリカの書評誌「パブリッシヤーズ・ウイークリー」のベストセラー・リスト上位にいすわって、今では英米で百万部を超える勢いであるという。この人気に目を着けたイギリスBBC放送は著者自身の朗読で本書をカセットテープにして売り出したが、さらにはTVドラマに脚色して、1993年はじめから12回のシリーズで放映の予定であると伝えられている。いずれは何らかの形で日本のTVにも登場することだろう。ピーター・メイルの描いたプロヴァンスがどのような映像に生まれ変るか、興味深いところである。
 その経歴からも窺われる通り、ピーター・メイルは夢を売る男である。
「広告屋は誰に向かって何を話すかをはっきり知っていなくてほならない」と彼は言う。このことからも、かつて仕事から学んだ訴求の技巧がピーター・メイルの諧謔横溢(おういつ)の文体を支えていると知れる。本書によってピーター・メイルは夢を売ったのみならず、万人の心の底に隠された夢をも掘り起こした。
 ピーター・メイルは当年63歳。近くプロヴァンスで書き下ろした小説『ホテル・パスティス』が上梓の運びと伝えられている。なお、プロヴァンス体験をさらに一歩掘り下げた本書の続編『Toujours Provence』も追って河出書房新社から刊行される予定である。ぜひとも併せ読まれることをお薦めしたい。
 末筆ながら、翻訳の機会を与えて下さり、かつ何かとご助力戴いた編集部の川名昭宣氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げる次第である。
   1992年霜月                         池 央耿

目次に戻る

4. 著者紹介
Peter Mayle(ピーター・メイル)
 ロンドンとニューヨークを行き来する有能な広告マンとして15年間働いた。1973年に発表した画期的な性教育の本「ぼくどこからきたの?」(小社刊)は世界的な大ベストセラーとなった。小説を書くためにプロヴァンスに妻と犬を連れて移り住む。 200年を経た石造りの農家を買いとって、そこでの暮しに馴染んでいく過程を月々の気候の移り変りに沿って12編のエッセイにまとめたのが本書である。たちまちミリオンセラーとなり、プロヴァンス・ブームをひき起こした。ほかに続編「Toujours Provence」、金がかかる趣味をめぐる軽妙なエッセイ「Acquired Tastes」(いずれも小社近刊)がある。当年53歳。

5. 読後感
 今回(2005.5)訪れた町が沢山出てきたので、採り上げることにしました。海外旅行に行っても、土地の人々とは触れる機会が少ないので、参考になります。
 本の冒頭(P.7)に著者の家とプロヴァンスの紹介があります。「中世の村メネルブとボニューを結ぶ街道を見降ろす丘陵の、桜の園と葡萄畑を抜けて未舗装道路が尽きるところにその家は建っていた。」 地図のほぼ真ん中にメネルブとボニューがあり、この二ヶ所のほぼ真ん中にラコステがあります。更に元日の昼食を「数マイル離れたラコストのレストラン(P.5)」で摂る描写があります。またレストラン<ル・シミアーヌ>の主人が挨拶に来たときの描写で「彼は丘の頂きにサド公爵の廃墟が見える村(P.12)や、・・・」とありますが、これは勿論ラコストの描写です。
 この三ヶ所のうちメネルブとボニューは訪れた場所なので、風景を懐かしく思い出すとともに、親しみを感じます。

目次に戻る

「本の紹介2b」に戻る

トップページに戻る

総目次に戻る

[Last updated 6/30/2005]