NHK人間講座
絵とイマジネーション

  目 次

1. 本との出会い      
2. 本の概要
3. はじめに
4. 本の目次
5. 読後感


安野光雅著

日本放送出版協会

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1. 本との出会い
 今年(2004)の10〜11月に、NHK FMの人間講座で、この本をテキストにして安野さんが講義しました。ここではテキストの内容を紹介し、絵に関心を持つ方の参考になればと思っています。

2.本の概要
 絵の世界における技術と創造力との微妙な関係は、卵と鶏の関係に似ている。東西の絵画作品を眺め、さまざまな実験や画家としての自らの体験を通して、絵とは何か、創作とは何かを掘り下げていく。

3. はじめに
 絵描きは絵を描きながら何を考えているか、というテーマはどうでしょう。しかし、絵描さはみんな同じことを考えているわけではないので、わたしは何を考えているかという話になります。
 そういった話は、とかく弁解になりがちなので、その点を割り引きして聞いてはしいと思います。
 わたしは、子どものころから絵が好きでした。絵描さになりたいと思い続けて大きくなりました。戦争中の絵の具が手に入らないころでも、看板屋のペンキをもらったり、食紅をつかったり、なんとかして、絵を描かぬ日はないと言つていいほどでした。聞いてみると、絵描きになった人は、ほとんど子どものときから好さだった人でしたが、そうでなくても、絵描きになりたかったという人はたくさんいます。
 何かの楽器を弾かなくても音楽の好きな人はたくさんいるように、絵描きにならなくても、絵が好きという人もたくさんいます。そういう人は音楽について話したり絵について感じたことを述べるとき、自分の言葉で話します。文学作品について好き嫌いや、あるいはもっとつっこんだ話をする人も同じです。
 そういえば野球でも、競馬でも好きな人は自分の考えを持っています。この 「自分の言葉」というところが大切で、間違ったり理論的に矛盾のある感じ方でも、受け売りでなかったらいいかなと思います。
 政治問題や社会事象などになると、必ずしも自分の感性だけではなくなり、テレビやラジオから聞こえてくる意見に、無批判に迎合して、世論という大きなうねりになることが、年々多くなりました。「バブルがはじけた」という、それまで誰も口にしたことの無い言葉を、どんなに多くの人が口に上らせたことでしょう。
 いま、例にあげた事例の中で、自分の経験をふりかえると、政治よりも競馬、それより野球、文学よりは音楽、それよりも絵という順序で、ことのおこりを子どもの時代にさかのぼって考えることができるように思います。つまり、なぐり描きの時代にさかのぼれば、ほとんど誰の経験の中にも絵の芽生えはあるものですが、特に「絵が好き」という感性は、好奇心、注意力、実験、観察、演劇性、空想、そして創造力になり、枝分かれして物理学、生物学、医学という具合に変化しているのではなかろうか、と勝手に考えています。
「絵が好き」だった子どもが、かならず絵描きにならなくてもいいわけです。

 主題は 「人間講座」 ですから、わたし自身を実験台にして話すことにしましょう。また、絵の話ですから、わたしの田舎の島根県津和野(つわの)や、奈良の明日香(あすか)村や、また、最近別件でヨーロッパヘ行く機会があったので、ついでにパリのモンマルトルの似額絵描きに会い、オヴェール・シュール・オワーズのゴッホのお墓まで、また行ってしまったことなども書きたいと思っています。

3. テキストの目次

 [カラー] 安野光雅 絵の世界……………1

第1回 おもしろそうないくつかの問題
 10月4日放送 /再放送10月11日/翌月再放送11月3日…………… 15

第2回 写実主義の時代
 10月11日放送/再放送10月18日/翌月再放送11月10日……………26

第3回 遠近法の実験〜風景を描く
 10月18日放送/再放送10月25日/翌月再放送11月17日……………37

第4回 よく見て描く(1) 〜自然のかたち
 10月25日放送/再放送11月1日/翌月再放送11月24日…………… 49

第5回 よく見て描く(2) 〜機能とかたち
 11月8日放送/再放送11月15日/翌月再放送12月8日 …………… 62

 [カラー] ミケランジェロからゴッホまで……………73

第6回 自画像を措いてみる
 11月15日放送/再放送11月22日/翌月再放送12月15日………… 81

第7回 ゴッホの存在
 11月22日放送/再放送11月29日/翌月再放送12月22日 …………100

第8回 イマジネーションと子どもの時代
 11月29日放送/再放送12月6日/翌月再放送1月5日………………125

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4. あとがき
 この本は、数年前のこと、鈴木稔にすすめられて、書く約束をしたのがはじまりでしたが、なんとしたことか、彼はわたしが約束をうやむやにしているうちに退職し、約束の件は一瞬放免されたかに思ったのは、表向き誠意を看板にしているわたしとして、心に呵責を招くものでありました。
 わたしは、時の過ぎゆくことの、あまりの早さを嘆くことを以て、お詫びに代えたのでしたが、彼の温顔はしかし、天網恢々にして、何ごとも漏らすものではありませんでした。
 「絵のある人生」とは、彼の言葉であり、この短い一言は、魔術にも似て、わたしを、万巻の書でも書けるような錯覚に落としたのです。文中にもし尊大な気分が読み取れたら、それは魔法のせいです。編集の仕事を引き継いでくれたのは坂巻克巳です。
 はじめ、口述をとられました。正直に言えば、老練な刑事に囲まれ、たはこを勧めたり、子どもや、女のことを聞いてみたりしたのち、「全部吐いてしまったら楽になるよ」という、よくある手口にのって、そこまで言わなくてもよかったか、と思う自白調書をとられたようなものです。
 思うにこの刑事の一人は珍しく絵を深く理解する人でした。速記で時間を縮めてくださったのは増井潤一郎でした。
 「自白(表現)は恥多きもの」なのに、それを軽減していただき、無罪放免にこぎつけられたのは、これらの方々のおかげです。
 この本は敬称略を建前としました。やむを得ず敬称を省きましたが、心中最大の感謝を秘めています。
   2003年7月1日     安野光雅

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4. 読後感
 安野さんの風景画は、教育テレビで平成7年の1月〜3月に「安野光雅風景画を描く」で講義を受けました。この時はフランス、イタリア、イギリスに旅して、風景画を実際に描いてみせながら水彩による風景画の描き方が主でした。
 それに対して今回の講義は風景に限らず静物などの描き方を教えています。そのほか近代画の歴史、ゴッホの人と絵、、写実と創作など画を描く上で大切な考え方に触れています。

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[Last updated 12/31/2004]