オイディプス王


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    目 次

0. 劇場ほか
1. あらすじ
2. スタッフ
3. キャスト
4. 劇評1
5. 劇評2
6. 劇評3
7. 感想

0. 劇場ほか(出典: 特に断りのないものは(株)東急文化村発行「オイディプス王」プログラム)
東京公演 2002.6.7〜30  Bunkamuraシアターコクーン(渋谷)
新潟公演 2002.7.11〜13 りゆーとぴあ新潟市民芸術文化会館
大阪公演 2002.7.19〜24 シアター・ドラマシティ 

1
. あらすじ

 何者かに王を殺され、荒廃したテーバイの国。
 国境には巨大なスフィンクスが立ちはだかり、旅人に謎をかけては答えられぬ者を食い殺していた。
 放浪の旅を続けていた隣国コリントスの王子オイディプスは、誰一人解けなかったスフィンクスの謎を解き、前王の妻を娶って、テーバイの新しい王に迎えられる。
 輝ける日々もつかの間、再びテーバイの国を災いが襲った。疫病が蔓延し、アポロンの神の神託は、「前王ライオスを殺した者を探し出し、この国の血の穢れを払え」と告げる。
 オイディプスは、殺された王の復讐を果たすことを神前に誓い、市民たちに協力を訴える。
 案内の者に導かれて現れた盲目の予言者テイレシアスは、王と口論のうちに忌まわしい真実を語り始めた・・・・・・。

2. スタッフ
作:  ソフォクレス
翻訳: 山形治江
演出: 蜷川幸雄
音楽: 東儀秀樹
美術: 中越 司
照明: 原田 保
衣裳: 前田文子
音響: 井上正弘
振付: 花柳錦之輔

第1幕冒頭シーン中央(高橋広司)の舞楽指導:東儀秀樹

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3. キャスト
テーパイの王オイディプス    野村萬斎
テーパイの王妃イオカステ   麻実れい
イオカステの弟クレオン     吉田鋼太郎
盲目の予言者テイレシアス  菅野菜保之
コリントスの使者         川辺久造
羊飼い              山谷初男
報告者              菅生隆之
神官                塾 一久
テーパイの長老たち      沢 竜二
                  久保幸一
                  小美濃利明
                  塾 一久
嘆願者たち           衣川城二                  清家栄一
                  妹尾正文                  伊藤哲哉
                  飯田邦博                  福田 潔
                  高瀬哲朗                  高橋広司
                  今村俊一                  堀 文明
                  小石祐城                  中村正志
                  時田光洋                  加瀬竜美
                  田村 真                   杉山俊介

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4.劇評1
シアターコクーン「オイデイプス王」
伝統の身体が醸す威厳と苦悩

 チベットのラマ僧のような深紅の衣をまとったコロス(群衆)たちが、激しく嘆きながら何度も体を舞台に投げ出す。蜷川幸雄演出のギリシャ劇「オイディプス王」(ソフォクレス作、山形治江訳)は、冒頭からその悲劇性、祭祀(さいし)性を色濃く漂わせる。
 残酷な神の預言に操られ、父を殺し母(麻実れい)を妻としてしまったテーバイの王オイデイプス(野村萬斎)。彼はその罪を悔いて自らの両目をつぶし、国を追放される。
 人間心理の古層と分かちがたく結びついたこの物語を、蜷川は一種の裁判劇として構成する。国の災厄を払う"最高の生けにえ"として王の罪が明らかになっていく過程がスリリングだ。チベット風の意匠には、やや唐突感もあるが、近代の合理主義の彼方にある、儀式としての演劇の姿を強く印象づける。
 ドラマの要所要所では客席に明かりが入り、鏡張りの舞台装置(中越司)に客席が映る。ギリシャの円形劇場を思わせると同時に、観客自身が陪審員として、この裁きの場に立ち会っているような錯覚を与える、巧みな趣向だ。
 萬斎のオイディプスは、前半にやや弱さが残るものの、狂言の伝統に裏打ちされた凛(りん)としたたたずまいが、王という存在の威厳を醸し出す。また、様式の間に透けて見える生身の風情が、この青年王の苦悩にリアリティーを与えている。
 華やかさとスケールの大きさを併せ持つ麻実、王妃の弟クレオンを骨太に演じる吉田鋼太郎が舞台の緊張感を増幅する。コロスも息の合ったところを見せるが、嘆きが過剰に流れる場面があるのが気になる。
 現代ギリシャ語版に基づく山形の新訳は、装飾性を排して分かりやすく、悲劇の内実を際立たせる効果を上げている。(今村 修)
 30日まで、東京・渋谷のシアターコクーン。以後、新潟、大阪でも公演。
[出典 朝日新聞2002.6.22夕刊 演劇]

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5. 劇評2
蜷川幸雄演出「オイディプス王」
薄っぺらに権力者描く

 権力とは、悪である。
 蜷川幸雄演出の「オイディプス王」 (ソフォクレス作 山形治江翻訳)は、こう簡潔に断定する姿勢に貫かれている。ギリシア悲劇の代表的な作品を演出するにあたって蜷川は、主役に狂言師の野村萬斎を据えた。疫病に疲弊するテーパイを救おうと、神託に従って先王殺害の犯人を捜す若き王を、蜷川-萬斎は、驕り高ぶり、俗悪で傲慢な権力者として、あえてうすっぺらに描く。義弟クレオン(吉田鋼太郎)とは対照的に、かつてスフィンクスの謎を解いたときの知性さえも、今はみるかげもなく、コロスたちに示す慈悲のことばも、うつろにしか響かない。
 テーパイが今、困難に陥っているとすれば、犯人探しをするまでもなく、この王じしんに問題があるのだと、劇の冒頭から、観客は容易に気づく。そのため、蜷川演出の「オイデイプス王」は、父を殺し、母とまじわると予言を受けた男の因果譚に終わらない。無能な権力者が、内心の幻影によって自滅していく過程を、克明に追ったリアルな政治劇としても成立している。
 しかし、出生の秘密が明らかになり、王妃としての品格を示すイオカステ(麻実れい)が死を選び、オイディプスが、みずから両の目を潰してからは、卑俗であったはずの男が、神性を帯びていく。転じて、その絶望の深さを見せたところで、萬斎の演技は最高潮に達する。王の絶望と民衆の嘆きが一体となって国を揺るがす。
 蜷川演出は、五体投地をさらに過激にした祈りの場面によって、人間の苦しみを激しく訴えかける。膝をつくことさえせずに、全身を投げ出すように床に打ち付けるコロスたちは、チベット風の赤い衣裳を身にまとい、青々と剃髪し、まるで修道僧のようだ。舞台全面をおおう鏡には、亀裂と錆がおびただしい。未来に希望を抱くことすらできずに、ただ右往左往する姿は、まさしく現在の反映というべきだろう。30日まで、シアターコクーン。
(演劇評論家 長谷部 浩)
[出典 日経新聞2002.6.20夕刊 演劇欄]

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6.劇評3
萬斎、ギリシャ悲劇に挑戦
「ベクトルの違い、財産に」

 狂言師の野村萬斎が、ギリシャ悲劇に初挑戦する。7日から30日まで、東京・渋谷のシアターコクーンで上演される蜷川幸雄演出の「オイディプス王」 (ソフォクレス作、山形治江訳)。蜷川の新演出、現代ギリシャ譜からの新訳、雅楽の東儀秀樹の音楽と話題の多い舞台だ。
 「王は下を向いて嘆かないように。ギリシャの青空を突き抜けるように大きく、上に嘆いていて欲しい」。けいこ場で蜷川の指示が飛ぶ。床に正座してこの言葉を聞いた萬斎は、かみしめるようにひと間おいて、「はい」と答えた。
 「狂言の場合、観客が見上げるという能舞台の構造上、苦悩するときはどうしても下へ下へ意識がいく。ギリシャ劇とはベクトルが違う。そこを鋭く突かれた。でも、それを変換することを学べは、また財産になる」と話す。
 運命のいたずらから、父を殺し、母を妻としてしまった英明な王の悲劇。「何よりスケール感が魅力。強大なエネルギーを持ち、最高の生けにえでもある王の存在感を示せれば」と意気込む。「狂言を骨にして、近代的、西洋的な肉を付けていく」アプローチだ。
 「ギリシャ悲劇は能・狂に近い」という。「登場する人間同士の間に、日常とは違う距離がある。リアリズムだけでは、らちがあかない世界の大きさ。そこに様式が生きてくる」
 過酷な役だ。次々と現れる登場人物や20人を超すコロス(群衆)を相手に、膨大なセリフを語らなければならない。「舞台上の人たちも、客席も王の言葉を注視している。そのすべてを引き受け、跳ね返す声と体をどう作るか。楽しみながら苦しんでいる」
 狂言のかたわら、シェークスピア劇に出たり、シェークスピアを翻案した狂言を演出したり。映画「陰陽師」に主演したかと思えば、この夏からは、東京の世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める。
 何が、こうした幅広い活躍に駆り立てるのか。「理由は単純。舞台表現とは何なのかを知りたい……。知りたい」。力を込めて言葉を繰り返した。
 麻実れい、吉田鋼太郎、菅野菜保之、川辺久造、山谷初男らが共演。
[出典 朝日新聞2002.6.4夕刊]

7. 感想
 鏡を使った舞台、嘆願者の赤い衣裳、東儀秀樹の音楽、何よりも蜷川幸雄氏の演出と野村萬斎氏の力演に、これが2千5百年前に作られた戯曲かと改めて感心しました。最初の舞楽と嘆願者の一人として出演した高橋広司君の演技も光っていました。

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[Last Updated 6/30/2002]