歌舞伎「勧進帳」ほか

五月大歌舞伎(夜の部)
四代目尾上松緑襲名披露

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    目 次

1. 出し物
2. 配 役
3. 夜の部・話題と見どころ
4. 歌舞伎評

5. 感 想

1. 出し物
1.1 舌出し三番叟(さんばそう)    清元連中
                      長唄囃子連中

1.2. 四代目尾上松緑襲名披露      一幕
   口 上(こうじょう)

1.3. 歌舞伎十八番の内       長唄囃子連中
   勧進帳

1.4. 岡本綺堂原作
  宇野信夫脚本
  榎本滋民補綴・演出
  半七捕物帳(はんしちとりものちょう) 三幕八場
   春の雪解

2. 配 役
2.1 舌出し三番叟
    三番叟 三津五郎
    千 歳  芝  雀
    翁    我  堂

2.2 口 上
 辰之助改め     松  緑
             幹部出演

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2.3 勧進帳
    武蔵坊弁慶 辰之助改め松緑
    富樫左衛門 菊 五 郎
    亀井六郎   団   蔵
    片岡八郎   秀   調
    駿河次郎   正 之 助
    常陸坊海尊 松   助
    源 義 経  富 十 郎

2.4 半七捕物帳
    三河町半七
    按摩徳寿     団 十 郎
    子分庄太     十   蔵
    同 長次      亀   寿
    誰袖妹おきみ   松   也
    徳寿女房おせき 鶴   蔵
    仲働きお時    右 之 助
    遊人寅松      家   橘
    花魁誰袖      時   蔵

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3. 話題と見どころ(夜の部)
3.1 舌出し三番叟 数多いめでたさを祝う三番叟。この三番叟は「目出度う栄や仲蔵を」で舌を出すことからこうよばれています。代々の三津五郎が得意にし、格調高い中にも剽軽な趣きがあるのを、当代三津五郎もよく自分のものにしています。重味のある我當の翁、美しい新之助(芝雀が代役)の千歳共々、さわやかな気分がみちあふれることでしょう。

3.2 口上 四代目松緑襲名披露

3.3 勧進帳 松緑が、勧進帳の武蔵坊弁慶の大役をつとめます。さかのぼれば父方の曽祖父七代目幸四郎から四代伝わった弁慶です。義経主従が北国の安宅関を越えた際のエピソードはあまりにも有名です。ベテラン菊五郎の富樫、富十郎の義経の共演を得て、新世紀の弁慶の登場です。

3.4 春の雪解 江戸に精通した岡本綺堂の原作『半七捕物帳』の中の一話です。初演当時、六代目菊五郎が接摩の動きを活写して大評判になりました。お話はご存じ″三千歳(みちとせ)と直侍(なおざむらい)″のもじりで、寮へ出養生に来ている誰袖花魁(たがそでおいらん)のところへ按摩の徳寿が療治に来がてら、かかえ主の若旦那永太郎の文づかいも果していました。が二人の仲はこの世界では禁じられた事でした。徳寿は按摩特有のカンで、花魁のそばに誰かいるように思います。そこから思いがけない事件がおきるのを、半七がどう解決をつけるか。時蔵の誰袖、永太郎に三津五郎、そして子分庄太に新之助(十蔵が代役)を配し、團十郎初めての半七、按摩徳寿のふた役の活躍ぶりが期待されます。(平成14年5月)
(出典 歌舞伎座発行のパンフレット)

4. 歌舞伎評
4.1 5月大歌舞伎
幕の内外 四代目松緑、客も役者も熱い期待
 尾上松緑の名前が13年ぶりに復活した。戦後の歌舞伎界を牽引した一人で文化勲章受章の先代は二代目だったが、三代目は辰之助のまま若くして亡くなった息子に追贈されて、孫の新松緑は四代目。まだ27歳の初々しい新松緑に客席の拍手は熱い。
 襲名披露の出し物は、昼が「義経千本楼」の「川連法眼館」で、義経の重臣佐藤忠信と忠信に化けた源九郎狐。夜は「勧進帳」の弁慶だ。
 共に歌舞伎の中でも人気抜群の作品で、祖父が当たり役とし、父も演じた大役である。
 2日目に見たが、緊張の中で懸命に役をなぞっている段階だった。それが逆にすがすがしく、そんな松緑を見守る先輩たちのまなざしも温かい。父と頼りの祖父を相次いで失った多感な少年左近、辰之助時代の彼を身近に見てきた人たちなのだ。
 夜の「口上」。人間国宝の富十郎が「勧進帳のけいこで『ついに泣かぬ弁慶が』の所で、泉下のおじ様(二代目)、お父様、ここまで育てたお母様のことを思うと、胸がいっぱいになって」と、話していた。
 団十郎も若くして父を亡くした人。さぞやと聞いてみると「それは運命。いい運命にすればいい」。母親の容子さんも「(大変だったことは)何もありません」とニッコリ。一瞬、間を置いてさすがに「お察し下さい」といった。
 後見の菊五郎は、新松緑は芝居も不器用とした上で「それも魅力」と言っていた。日本舞踊の大流派藤間流の家元でもある松緑が、どんな四代目になっていくか。既にせりふが、随分よくなっていた。 (朔)
(出典 朝日新聞 2002.5.9夕刊)

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4.2 駿馬の勢い感じる松緑襲名
歌舞伎座「5月大歌舞伎」

 大きな名を継ぐと芸が変わるきっかけになる。襲名という行事の不思議さだ。辰之助が四代目松緑を継いだ披露公演。粗削りながら踊りと声の良さがよく発揮された。薫風の中を、今まさに走り出す若き駿馬(しゅんめ)の勢いがある。
 披露演目は「川連法眼館」(昼)の忠信と「勧進帳」(夜)の弁慶。共に流浪する義経の悲劇だ。松緑は低音部が響く口跡の良さと、力感をみなぎらせて踊る弁慶がいい。
 花道の出こそ重量感が不足しているが、後半は延年の舞いから飛び六方まで、ダイナミックに踊り抜く。引っ込みの花道で片手をあげ、片足でピタリと決める形が美しい。菊五郎は情理を備えた富樫。同情をにじます「判官どのにもなき人を」のせりふに、絶妙なニュアンスがある。松緑はいい声を生かすためにも高音を鍛え、せりふまわしを豊かにすることが課題だろう。義経の富十郎は、弁慶に片手を差し伸べる気品と形の美しさはほれぼれする。家臣、番卒も気合が入り、ゆるみがない。
 「川連法眼館」の松緑はひときわ行儀がいい。素直でいじらしい狐(きつね)忠信だ。将来は権太が楽しみ。団十郎(義経)と雀右衛門(静)が舞台を締める。
 今月は「勧進帳」を含め舞踊がいい。「素襖落」(昼)では富十郎の語りが抜群。扇を巧みに使い、体のリズミカルな動きで、風の音さえ聞こえ、合戦の風景が見えるようだ。彦三郎は顔と声が大名らしい。「舌出し三番叟(さんばそう)」(夜)では三津五郎が軽やかでひなびた踊りを見せる。
「京人形」(昼)の菊之助が美しく、男女の仕種(しぐさ)を踊り分ける人形ぶりが鮮やかだ。
 「半七捕物帳」(夜)は、2役の団十郎が貫録と道化ぶりを見せる。しかし、幕が多すぎ、犯行の全容を最後に説明するのが難だ。 (編集委員・山本健一)
(出典 朝日新聞夕刊 2002.5.11)

4.3 歌舞伎座5月公演
新松緑に天性の哀感

 なじみ深い尾上松緑の名が歌舞伎界に復活した。新しい松緑は祖父の名を四代目として継承する。祖父のイメージがまだ強く残っている中での襲名は、時に負担ともなろう。だが、芸は一代だ。臆せず、我が道を切り開いてもらいたい。
 披露の役は「義経千本桜」四ノ切の忠信と、「勧進帳」の弁慶。それぞれ現時点での持てる力を目いっぱいに発揮しての、掛け値なしの「新松緑のいま」を見せる。その果敢な精神をまず評価したい。その意気、である。
 忠信はケレンを最大限に発揮する猿之助の行き方を見慣れた目には一面、技巧が不足と映るかもしれない。だが、祖父・松緑の行き方ではケレンは狐を暗示する付け昧である。新松緑の技巧は改善進歩の余地は残るにしても、決して不足ではない。
 何より優れているのは親を慕う、人間以上に人の情を見せる狐という存在の哀れがあることで、高い声の美しさがそれを強調する。若くして父を亡くした松緑の狐忠信を、やはり若くして父を失った団十郎の義経が受け止める。巧まざる配役の妙だ。雀右衛門の静の存在感も他に求め難い。
 弁慶も懸命さの中に己を失わない落ち着きと、衆望を担う男の、頼もしさの中の哀感に、祖父以来の天性を感じさせる。終始力演のために緩急の乏しい難は将来、解決すべきことだろう。富十郎の珍しい義経の格調、菊五郎の富樫の的確さ。秀逸の出来。
 その他の演目を一口評で。「対面」で三津五郎の工藤の芸格、菊之助の十郎の品格。「素襖落」は今更ながら富十郎の妙技。「京人形」は菊五郎の左甚五郎が作った人形が菊之助という配役の面白さ。
 「舌出し三番叟」は一見単調な古風な振りの醸し出す味わい。ここでも三津五郎の芸品が光る。「半七捕物帳・春の雪解」は団十郎が半七と二役のあんまが独特のユーモア感覚で面白い。団十郎は病気休演の新之助に代わって「対面」で五郎も勤める。
(演劇評論家 上村 以和於)
(出典 日経新聞 2002.5.13夕刊)

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5. 感 想
 二代目松緑は私の好きな役者だったので、松緑の襲名披露と聞いて、駆けつけました。それに家内は歌舞伎に馴染みが少ないので、良い機会だと思ったのです。
 やはり演目の中では「勧進帳」が一番よかったと思います。筋といい能や踊りを取り入れた演技といい、歌舞伎十八番の名に合った演目です。
 「春の雪解け」は団十郎の一人二役という点を除いては、余りよい作品とはいえないと思いました。

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[Last Updated 5/31/2002]