「仮名手本忠臣蔵」

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 解説と見どころ
4. 新聞歌舞伎評
5. 感 想

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1. はじめに
 今月(2013年11月)は、新装なった歌舞伎座に夜の部を見に行きました。演目は「仮名手本忠臣蔵」で、通し狂言として昼の部は
大 序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
三段目  足利館門前進物の場
      同   松の間刃傷の場
四段目  扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
      同  表門城明渡しの場
浄瑠璃  道行旅路の花聟
       清 元 連 中
であり、夜の部は以下に記すように五段目から十一段目までです。

2. 演目と配役
[演 目]

竹田出雲
三好松洛  作    「仮名手本忠臣蔵」
並木千柳

五段目  山崎街道鉄砲渡しの場
       同    二つ玉の場
六段目  与市兵衛内勘平腹切の場
七段目  祗園 一力茶屋の場
十一段目 高家表門討入りの場
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場

[配 役]
〈五・六段目〉
   早 野 勘 平   菊五郎
   女房おかる        時 蔵
   千崎弥五郎    又五郎
   斧定九郎     松 緑
   不破数右管門   左團次

〈七段目〉     
  大星由良之助      吉右衛門
  遊女おかる         福 助
  寺岡平右衛門   仁左衛門

〈十一段目〉  
  大星由良之助    吉右衛門
  小林平八郎     錦之助
  原郷右衛門   歌 六

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3. 解説と見どころ
 当月の夜の部は、昼の部に引き続き、『仮名手本忠臣蔵』の「五段目」、「六段目」、「七段目」、「十一段目」をご覧いただきます。
「五段目」
 この場面は、早野勘平と千崎弥五郎が出会っての「鉄砲渡し」と呼ばれる前半部と、おかるが身売りして得た五十両の金を巡る物語が展開する「二つ玉」の後半部から成っています。ここでは特に、黒御簾音楽が効果的に用いられていることが、特徴のひとつとなっています。雨音、雷の音、山颪(やまおろし)、風音などの自然現象をはじめ、猪が登場する際の「テンテレック」といわれる鳴物が臨場感を醸し出します。
 また、「二つ玉」では、与市兵衛が殺されてから後、斧定九郎の「五十両」、早野勘平の「こりゃ人」という台詞以外、無言の内に登場人物の心の動きを洗練された演技で表現するのがみどころとなります。
「六段目」
 原作において、「金」という字が合計四十七字用いられているとも言われるこの場面は、おかるの悲哀、また、勘平の悲劇が繊細に描かれます。
 前半はおかるの身売りを描く場面。この件でおかるの乗る駕籠を止めての勘平の「狩人の女房が…」の台詞は有名。また、この場の勘平は典型的な二枚目の役柄で、彼が着用する浅黄色の紋服は、武士としての矜持と威厳を現すと共に、彼の悲劇を象徴する効果を有しています。紋服に着替えた後、縞の財布を見た勘平は、舅を殺したと思い込みます。その複雑な心理を美しい形と動きで見せるのが、勘平役を演じる演出のひとつの音羽屋型の特徴であり、みどころです。特に紋服の袖を巧みに使い、財布と煙管を用いてふたつの財布を見比べる件は、勘平のしどころのひとつで、思わず煙管を取り落とすことで、彼の驚きの大きさを表現します。そして、勘平と廓へ向かうおかるが別れを惜しむ場面では、夫婦の切ない思いが描かれます。
 おかるが去り、与市兵衛の遺骸が運び込まれると、勘平は後悔に苛まれる辛抱一筋の役どころとなります。義母に疑われ、さらには、仇討ちの一味に加わることを拒絶され、絶望の末に勘平が切腹する件は最大のみどころ。また、「いかなればこそ勘平は…」からの勘平の述懐は歌舞伎の入れ事ですが、その台詞は歌舞伎の代表的な名台詞のひとつ。さらに「色に耽ったばっかりに」という名台詞と共に、白塗りの顔の頬に血汐をつける演出は、勘平の無念さを表すと共に、「五段目」の定九郎の最期と同様、視覚的にも美しい演出となっています。
「七段目」
 通称、「茶屋場」と呼ばれるこの場面は、仇討ちを志す大星由良之助の真意が明かされると共に、寺岡平右衛門とおかる兄妹の情愛、また、平右衛門の忠義心、おかるの悲哀が描かれています。
 この場での大星由良之助は、歌舞伎で演じられる役柄の中でも難役のひとつと言われています。また、初めは紫色、後に鴬色の着付で登場しますが、これは由良之助という人物が表現すべき要素を色によって象徴したものとされています。紫は廓で遊ぶ男の色気と大らかさ、鴬色は仇討ちを志す忠臣であることを示し、演者にはそれに見合う技量が要求されます。一方、寺岡平右衛門は、明るく、きびきびとした直線的な役で、妹への情愛と主君への忠義の板ばさみになる篤実さを併せ持つと共に、身分の低さゆえの哀感も示さなければならないしどころの多い役柄。また、おかるは「道行」で腰元、「六段目」は女房、「七段目」では遊女として登場しますが、「六段目」では腰元、「七段目」では女房の心で演じるという口伝のある女方の大役のひとつ。

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 遊興に耽る姿を見せ、所謂「三人侍」や平右衛門とのやりとり、さらには斧九太夫との「蛸肴」と呼ばれる件まで、由良之助は仇討の本心を隠しています。しかし、子息の力弥が届けた顔世御前からの文を読む件から、その本心が次第に明かされます。「釣燈籠」の通称で知られる件では、上手二階のおかる、縁側に立つ由良之助、縁の下に潜む斧九太夫の三人の配置が歌舞伎の様式美溢れるみどころ。これに続く、由良之助とおかるとのやりとりは、廓の艶やかな雰囲気が溢れる場面です。
 後半のみどころのひとつは、平右衛門とおかるのやりとり。再会を喜ぶふたりですが、由良之助のおかるの身請け話から物語は急展開を始めます。おかるの身売りの経緯を知った兄としての優しさ、由良之助の真意を探る心の動き、そして、由良之助の本心を察しておかるを手に掛けようとする実直なまでの忠義心を描く平右衛門のしどころ。一方、平右衛門から勘平の死を聞かされたおかるのクドキは、おかるのしどころであると共に大きな見せ場のひとつです。
 やがて、おかるを手にかけようとする平右衛門を押し止めた由良之助か、縁の下に潜む九太夫をおかるに討たせ、彼を打擲した上、その本心を明かす由良之助の長台詞は聞かせどころとなっています。
「十一段目」
 今日では原作にとらわれず、河竹黙阿弥の『四十七刻忠箭計(しじゅうしちこくちゅうやどけい 通称『十二時忠臣蔵[じゅうにときちゅうしんぐら]』)』、三世河竹新七の『忠臣蔵年中行事』などを基にして、実録風に上演されているこの場面は、塩冶浪士が本懐を遂げる場面。まず「表門」は由良之助の山鹿流の陣太鼓を合図に、浪士たちが吉良邸に討ち入る様子を描きます。続く「泉水」は、小林平八郎と竹森喜多八ら浪士たちとの激しい立廻りがみどころ。そして「炭部屋」では、いよいよ浪士たちが、高師直を討って無事に本懐を遂げて幕となります。
(出典 「歌舞伎座新開場柿葺落 吉例顔見世大歌舞伎」プログラム [平成25年11月] )

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4. 新聞歌舞伎評
■歌舞伎座11月公演「仮名手本忠臣蔵」 責任感表す「一所懸命」ぶり
 顔見世月の歌舞伎座は大一座による「仮名手本忠臣蔵」の通し。菊五郎の塩冶判官と勘平、吉右衛門の四段目と七段目を通しての大星由良之助。どれも何度も演じてきた役だが、芸の円熟に加え、いつにも増しての「一所懸命」ぶりは自分一個の芸の完成だけでなく、次代の歌舞伎を見据えて第一線に立つ者の心構えの表れだろう。菊五郎の判官の切腹の場、六段目の勘平の緊張感の持続のすごさ。吉右衛門の大星のセリフーつでドラマの奥行きが大きく広がる醍醐味。どちらも、今見ておくべき舞台である。
 大序で七之助の足利直義が一大戯曲の第一声を発する役らしい品格が出色。芝雀の顔世も品格の中から上品な色気が匂い、ドラマの発端となる役にふさわしい。左団次の師直は大序の人形身の風格が全段の充実ぶりを予知させる。石堂も老巧。歌六の薬師寺が本来この役が赤っ面の役であることを示すきっぱりした好演だが、本来は石堂の人だろう。梅枝の力弥が若手の本格派としての資質を見せる。
 梅玉が若狭助、「道行」の勘平、平右衛門と3役を勤める中で、平右衛門の情味が福助のおかるのオキャンでかわいい女ぶりと、兄妹の真実味秋の夜更けらしい情趣を醸し出し出色の七段目となった。
 道行と六段目のおかるは時蔵で、おっとりと大輪の花のような色香が福助と対照的。東蔵のおかやは、この役の一面にある怜悧(れいり)さがユニーク。四段目の原郷右衛門は有能な秘書課長というところ。新たに幹部昇進した橘三郎と松之助か昼夜を通じ斧九太夫と伴内を勤め、培ってきた力を見せる。七段目の一力茶屋の仲居を勤める女形連がよき花盛りの感。25日まで。   (演劇評論家 上村 以和於)
(出典 日本経済新聞 2013.11.7 夕刊)

■菊五郎の肚、吉右衛門の華 歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」
 新装歌舞伎座がいよいよ「仮名手本忠臣蔵」昼夜の通しを出した。来月も違う配役で上演される。今月は菊五郎の肚(はら)、吉右衛門の華に見応えがある。
 「刃傷(にんじょう)」は菊五郎の判官が亡父梅幸を偲(しの)ばせる名品で、父よりタッチが一刷毛(はけ)強い。師直の悪態を品よく受け流そうとする分別を、抑え切れぬ心がさざ波のように掻き乱していく。師直役の左団次がそれに応じて、判官がひるむとつけ込み、むっとすると引く。その呼吸がいじめのお手本のようだ。
 「判官切腹」の判官は、やはり平常心を装いつつ、大星の到着の遅さに焦れる心を端々に滲(にじ)ませる。吉右衛門の大星は間一髪で駆け付け、ここから「城明渡し」にかけて、大きな人柄で家中を掌中に納めていく。
 「道行(みちゆき)」は時蔵のおかるのクドキに色気があり、これを黙って聞く梅玉の勘平に悔いがある。すると掻き口説くおかるは、勘平の悔やむ心の鏡に映し出される幻想のように見えてくる。
 「勘平腹切(はらきり)」は、菊五郎二役の勘平が、己の運命を見定める姿が美しい。菊五郎は若い頃は絶対的な仁(にん)のよさを誇ったが、判官といい勘平といい、すべてを肚一つに納める芸を磨いた。
 東蔵のおかやが、勘平の心理を的確に、しかも相手の邪魔にならぬように追い詰めていく。又五郎の千崎が、満腔の同情を勘平に注ぐ姿がすがすがしい。
 「祇園一力」は、吉右衛門の大星が、仇討(あだう)ちの志と、それを酔態で韜晦(とうかい)する様を鮮やかに演じ分ける。最後に本心を吐露する時の華の大きさ。この人の場合は、芸の年輪が逆に仁の開花をもたらしたかのようだ。
 梅玉の平右衛門は真面目な武骨さがよい。この場のおかるは福助。薄幸に耐えてけなげに生きる姿が哀れを誘う。
 25日まで。   (天野道映・評論家)
(出典 朝日新聞 2013.11.7 夕刊)

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5. 感 想
 今回の演目は「仮名手本忠臣蔵」の後半で、家内は初めてだと思って行くことに決めました。随分前に見たので、筋でも忘れている部分がかなりありました。それでも新しい歌舞伎座で、吉右衛門が出たので充分に楽しめました。六段目 勘平腹切の場や、七段目 祗園一力茶屋の場は見ごたえがありました。休憩時間に新しい緞帳(どんちょう)を見ることができました。2階席だったこともあり、科白(せりふ)に聞き取りにくい場合がありました。エスカレータなどが付き便利になった反面、食堂の予約など新しい習慣もあり、戸惑いました。

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[Last Updated 11/30/2013]