「文七元結」ほか

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 解説と見どころ
4. 新聞歌舞伎評
5. 感 想

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1. はじめに
 2012年11月は、新橋演舞場に歌舞伎昼の部を見に行きました。演目は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」と「人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)」の2本です。曲輪日記は井筒屋、難波裏、引窓の三幕で、左団次、梅玉、時蔵、扇雀などが出演しています。文七元結は二幕四場で菊五郎、松緑、時蔵、魁春などが出演しています。仁左衛門が病気休演のため梅玉が代役を務めました。文七元結は前に見た記憶がありますが、筋は良くおぼえていませんでした。曲輪日記は初見でした。

2. 演目と配役
1) 双蝶々曲輪日記 三 幕
     序幕  九軒井筒屋の場
     二幕目 難波裏の場
     三幕目 八幡の里の場(引窓)
[配 役]
   濡髪長五郎   左団次
   放駒長吉     翫雀
   藤屋都
   後にお早
時蔵
   南与兵衛
   後に南方十次兵衛
梅玉

2) 人情噺文七元結    二 幕四場
     序幕  第一場  本所割下水左官長兵衛内の場
     序幕  第二場  吉原角海老内証の場
     二幕目 第一場  本所大川端の場
     二幕目 第二場  元の長兵衛内の場
[配 役]
  左官長兵衛    菊五郎
  長兵衛女房 お兼      時蔵
  長兵衛娘 お久 右近
  角海老女房 お駒 魁春
  鳶頭 伊兵衛 松緑

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3. 解説と見どころ
双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
 『双蝶々曲輪日記』は、寛延2(1749)年7月、大阪の竹本座で初演された、世話物の人形浄瑠璃です。作者は『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』『菅原伝授手習鑑』の作者としても知られる竹田出雲、三好松洛、並木干柳の3人。所謂、時代物の「3大名作」を生み出したこの作者たちは、本作の4年前に『夏祭浪花鑑』を著し、世話物でもその才能を余すところなく発揮しています。
 外題にある「双蝶々」は、主要登場人物である相撲取りの濡髪長五郎と放駒長吉の名にある「長」の音に由来し、また「曲輪日記」は山崎屋与五郎と吾妻、南与兵衛と吾妻の姉女郎の都という二組の恋人の廓での色模様を描いていることに拠っていると言われています。
 初演の翌月、京都の布袋屋梅之丞座で初めて歌舞伎として初演され、大坂では宝暦3(1753)年5月に角の芝居、江戸では明和9(1772)年8月、中村座で上演されて好評を博しました。
 与五郎と吾妻、与兵衛と都の恋模様を主筋とし、これに長五郎と長吉という人気の相撲取りの義理と人情が絡んで展開する全9段の原作の内、今回は三ツ目の「井筒屋」、五ツ目の「難波裏」、八ツ目の「引窓」を上演します。
 「井筒屋」は、歌舞伎での上演は珍しく、昭和28年2月中座以来、上演がありませんでしたが、去る平成22年7月に大阪松竹座で久々に上演されました。登場大物の性格と関係が詳細に描かれると共に、「小指の身代り」の趣向を用いての物語の展開が見どころです。また、濡髪と放駒の達引きを経て、濡髪が、この後、侍を手に掛けてしまう理由が明確となります。そして、「難波裏」では、侍を手に掛け、図らずも人殺しとなってしまった長五郎の悲劇を描き、これが引き金となって、最大の眼目である「引窓」へと続きます。
 「引窓」は、江戸時代には盛んに上演されていましたが、明治に入って上演が途絶えていました。これが明治29年、初世中村雁治郎が中座で復活上演し、以後東西で人気狂言のひとつとして、上演を重ねています。特に、後に南方十次兵衛となる主人公の南与兵衛は、時代世話の移り変わりが見せどころとなる役柄で、台詞ひとつで、その変わり方を如実に見せるのが演者の技巧であり、それが見どころともなっています。
 上方の匂いを色濃く漂わせる名作をご堪能下さい。

人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)
 この作品は、幕末から明治にかけて活躍した落語家の三遊亭円朝が、江戸時代の実在の人物である桜井文七をモデルに口演した人情噺を元に、明治35(1902)年、歌舞伎座で五世尾上菊五郎が初演した、榎戸賢治の脚色による笑いあり、涙ありの人情劇です。
 舞台は「長兵衛の家」から始まります。元は腕の良い左官である長兵衛が、博打に溺れ、裸同然の姿で家に戻って来ます。そして、愛娘のお久がいなくなったことに端を発して、女房のお兼と口論になります。この場面での夫婦のやり取りは、人情噺らしい可笑し味と切なさが相まった見せ場です。また、裏長屋に暮らす人々の生活、江戸の市井の雰囲気を醸し出す場面となっています。
 次の「角海老」は、華やかな廓の内、そこで暮らす人々の姿を写実に描き出すと共に、一心に親を思うお久の姿と娘の健気な心を知って涙する長兵衛の親子の情愛を見せて行きます。そうした父娘へ角海老の女房がかける情けある言葉の数々は、涙を誘う見どころのひとつです。
 続く「大川端」は、掛取りの金子を失い、命を捨てようとする文七に同情する長兵衛が、娘が我が身を苦界に沈める決心をして、漸くに手に入れた大事な50両を与えるという最大の見せ場です。はじめは躊躇するものの、頼る者とてない文七の姿が哀れを誘うと共に、そんな文七を見過ごすことが出来ない長兵衛の男気溢れる気質と情に厚い人柄を、巧みな台詞のやりとりで描き出して行きます。
 再び、「長兵衛の家」となり、大家を巻き込んでの夫婦喧嘩が繰り広げられる中、文七と共に和泉屋清兵衛がやって来ます。家族、他人の分け隔てない長兵衛の厚い人情ゆえに、彼とその周囲の人々に訪れるハッピーエンドの物語は、正に「人情噺」と言うに相応しい展開と共に幕となります。
 江戸の市井に生きる人々の姿を生き生きと描き出した世話物の傑作を存分にお楽しみ下さい。
(出典 新橋演舞場発行のプログラム[平成24年11月])

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4. 新聞歌舞伎評
 顔見世月の新橋演舞場は仁左衛門が2日目から病気休演となり、再登場は未定の状態のため、この評は代役の梅玉の勤めた舞台に基づくことをお断りしておく。
 「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」は、いつもの「引窓」の前に珍しい「井筒屋」と「難波裏」を出して、濡髪(ぬれがみ)が人をあやめるに至った経緯を明らかにする。「引窓」の設定が明確になり、セリフの一言、行為の一々の意味が伝わってくる。代演の梅玉の与兵衛は、仁よく柄よく、本役であっても少しもおかしくない。聞かせるセリフもうたわず明晰(めいせき)に見せる。「井筒屋」が出ると濡髪以上にお早が前身の花魁・都で登場し、仕事が増える。時蔵が柄に合い、当代ではこの人のもの。竹三郎が庶民的なお幸。
 こうした状況の中、菊五郎が2本の世話物をはらのある芸で堪能させる。近年、上演過多のきらいのある「文七元結」も菊五郎の長兵衛が菊之助の文七に50両をやって逃げるように駆け去るところなど、これでこそと納得させる。時蔵のお兼、東蔵の和泉屋など手ぞろいの配役も分厚い。
(演劇評論家 上村 以和於)
(出典 日本経済新聞 2012.11.14夕刊 昼の部のみを抜粋)

5. 感 想
 今回の演目は2作品とも楽しく見ました。「曲輪日記」は初めて見ました。引き窓が効果的に使われていました。「文七元結」は前に見たと思いますが、筋をほとんど忘れていました。現代では考えられないような話ですが、江戸の職人の気質だったのでしょう。

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[Last Updated 12/31/2012]