「荒川の佐吉」ほか

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 解説と見どころ
4. 感 想

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1. はじめに
 2012年3月は、新橋演舞場に歌舞伎昼の部を見に行きました。演目は真山青果作「荒川の佐吉」と「仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居」の2本です。役者としては染五郎、梅玉、菊五郎、幸四郎、藤十郎などです。2作品ともに初見でした。

2. 演目と配役
1) 荒川(あらかわ)の佐吉 四 幕
     序 幕 江戸両国橋付近出茶屋 岡もとの前の場より
     大 詰 長命寺前の堤の場まで
[配 役]
   荒川の佐吉   染五郎
   成川郷右衛門     梅玉
   相模屋政五郎 幸四郎

2) 仮名手本忠臣蔵    一 幕
   九段目 山科閑居
[配 役]
  戸無瀬    藤十郎
  大星由良之助      菊五郎
  大星力弥 染五郎
  お石 時蔵
  加古川本蔵 幸四郎

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3. 解説と見どころ
荒川の佐吉
 この作品は、昭和7(1932)年4月に東京の歌舞伎座と大阪の中座で同時初演されました。歌舞伎座では『江戸絵両国八景』という外題で、15世市村羽左衛門の佐吉、中座では『天晴(あっぱ)れ子守やくざ』という題で、新国劇の島田正吾が佐吉を勤め、東西同時初演として話題となりました。これは作者の真山青果が、15世羽左衛門の依頼によって、新国劇が募集したプロットの入選作を基に、この作品を創ったという事情に因ります。
 この時期は、「股旅物」が流行りましたが、真山のこの作品も股旅物に通じ、一本気な男のドラマとロマンを描いた世話物です。
 序幕では、堅気の大工職人だった佐吉がやくざの子分となり、三下ながらも勝負が明確なやくざの世界に憧れと希望を抱く姿が生き生きと描かれます。一方、「勝つ者だけが強い」と言う佐吉の言葉に触発された浪人成川が両国の親分仁兵衛を襲うことから、物語が展開していきます。
 第2幕では、零落した親分仁兵衛の姿が悲哀を持って描かれると共に、その親分に忠節を尽くす佐吉の侠気は、青果作品らしい男性像です。他方で、佐吉は子煩悩という面も持っており、やくざの三下が赤ん坊をあやす姿は印象的です。
 第3幕では、佐吉が育てた盲目の卯之吉を中心にして、血縁以上に繋がりが強い佐吉の親心や、佐吉と辰五郎との深い友情関係などが細やかに描出されます。 さらに、捨身になった人間こそが強いことを悟った佐吉が、親分の仇討ちをする件は眼目です。
 続く第4幕では、卯之吉の産みの親お新に対して、佐吉が卯之吉を育てあげた苦労や愛情を切々と訴える台詞が聴きどころです。お新の懺悔や政五郎の懐の深さなどがドラマに深みを与えます。
 最後は、最愛の卯之吉との別れを決意し、江戸を去る佐吉の姿が、桜が散る舞台と重なり、その美しい幕切れが印象深く心に余韻を残します。
 爽快さと人情味に溢れた真山青果の名作をご覧ください。

山科閑居
 義太夫狂言の3大名作のひとつ『仮名手本忠臣蔵』は、寛延元(1748)年に大坂竹本座で初演されました。2世竹田出雲、並木千柳、三好松洛の合作によるこの作品は、赤穂浪士の討入りを題材にしたもので、「独参湯(どくじんとう)」と呼ばれるほどの人気作です。全11段の内、特に9段目の「山科閑居」の場は、丸本歌舞伎の中でも屈指の大作と言われています。
 前半では、桃井家の家老加古川本蔵の妻戸無瀬と、元塩冶家の家老大星由良之助の妻お石との対決が描かれます。大星力弥との祝言をあげさせるため、娘小浪を伴って山科までやって来た戸無瀬。最初の眼目は、一面雪景色の中、赤一色の戸無瀬と白無垢姿の小浪、そしてお石の鼠色の衣裳という色彩美です。
 続いて、愛する娘のために必死になる戸無瀬の親心と、武士道を貫くお石の親心が対比的に描かれ、張り詰めたやりとりとなります。一方、お石から祝言を認められない小浪は、力弥を一途に思う純真さを表現します。
 その後、死を覚悟した戸無瀬が小浪を 手にかけようとする件(くだり)は、前半部の見どころとなります。尺八の「鶴の巣籠もり」が流れる中、母親としての悲しみや嘆き、武士の妻としての気概など、戸無瀬の複雑な心情表現は、立女方としてのしどころです。また、お石の「御無用」という台詞も難しく、その後の本蔵の首を所望する件まで、緊張感が高まります。
 後半では、本蔵と由良之助との対峠となります。表に控えていた虚無僧が、本蔵として姿を顕した途端、三方を破って由良之助を罵(ののし)ります。ですが、敵と見えた本蔵がわざと力弥に討たれ、無念の思いを述懐する長台詞は、後半部の聴きどころです。自分の首と引き替えにしてまで娘を思う本蔵の親心が胸に響きます。
 その他、由良之助が討入の心を雪の石塔に託して見せる場や、絵面図を手に入れた力弥が軍略を語る場、本蔵の死など、最後まで見どころが続きます。
 重厚な義太夫狂言の傑作を豪華な顔合わせで上演する期待の一幕です。
  (出典 新橋演舞場発行のプログラム[平成24年3月])

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4. 感 想
 今回の演目は2作品とも楽しめました。「荒川の佐吉」は真山青果の作品だけあって、筋しっかりしていて楽しく見ることができました。「閑居の場」も初めての芝居で、忠臣蔵の中でも見ごたえのある内容でした。各々の役者が、ぶつかり合い、歌舞伎の醍醐味を感じました。

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[Last Updated 4/30/2012]