「摂州合邦辻」ほか

    目 次

1. はじめに
2. 演目と配役
3. 解説と見どころ
4. 新聞評
5. 感 想

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1. はじめに
 2010年12月は、日生劇場に歌舞伎を見に行きました。演目は「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」と「達陀(だったん)」の2本で、役者としては尾上菊之助、尾上松緑、尾上菊五郎、尾上松緑、中村時蔵などです。2本とも初見で、「摂州合邦辻」は通し狂言のため筋が良くわかり、尾上菊之助が好演でした。達陀は、所作なので、少しわかりにくい部分もありましたが楽しめました。

2. 演目と配役
1. 摂州合邦辻 四幕
  通し狂言
   菅専助(すがせんすけ)および
   若竹笛躬(わかたけふえみ) 作
   今井豊茂 補綴
    序幕  住吉神社境内の場
    二幕目 高安館の場
          同 庭先の場
    三幕目 天王寺万代池の場
    四幕目 合邦庵室の場
  玉手御前 尾上菊之助
  奴入平  尾上松緑
  俊徳丸  中村梅枝
  合邦道心 尾上菊五郎

2. 春を呼ぶ 二月堂 お水取り
  達陀(だったん)
   萩原雪夫 作
   平岡定弥 監修
   守屋多々志 美術監修
   藤間勘斎 振付
    第1場 二月堂階段
    第2場 同  回廊
    第3場 同  礼堂
    第4場 同  内陣
  僧集慶  尾上松緑
  青衣女人 中村時蔵

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3. 解説と見どころ
摂州合邦辻
 『摂州合邦辻』は、安永2(1773)年、大坂北堀江座で初演された時代物浄瑠璃です。菅専助(すがせんすけ)、若竹笛躬(わかたけふえみ)の合作によるこの作品は、盲目の俊徳丸を題材にした謡曲「弱法師(よろぼし)」や説教節「しんとく丸」の系譜と、継母の恋を絡めた「愛護の若」などの作品群を巧みに取り入れ、年若い継母による「継子への恋」という異色の物語になっています。
 通常、文楽や歌舞伎の上演の際には、下巻の切りの「合邦庵室(がっぽうあんしつ)の場」のみを上演するのが通例ですが、今回は通し狂言として上演されるのも注目されるところです。
 前半は、高安家の御家騒動を背景に、高安家の当主通俊(みちとし)の後妻になった玉手御前が、同じ年頃の継子の俊徳丸に恋心を抱き、俊徳丸に毒酒を飲ませて業病にし、これを苦にして出奔した俊徳丸の後を追うという物語です。継子に恋心を打ち明ける妖艶な玉手御前と継母の邪恋に困惑する俊徳丸との対比が見ものです。
 後半では、娘の玉手御前を心配する母おとくと、娘の不義に憤る父の合邦道心とのやりとりが、義太夫狂言らしい台詞回しで展開します。一方、両親の心配も省みず、なおも俊徳丸への烈しい恋慕を現す玉手御前のクドキは大きな見どころとなり、特に俊徳丸と再会した後は、より情熱的な恋心と色気を見せます。しかし、その後、合邦が玉手御前を手にかけてから、俊徳丸への邪恋の意外な真実が明らかになります。そこに至までの玉手御前の心情や恋心をどう表現するかは、演者の工夫が必要になります。苦しい息の内で、真実を語る玉手御前の台詞は最大の聴きどころです。
 このように女方の大役と言われる玉手御前を、本年5月に初演して好評を得た菊之助が、再び勤めるのをはじめ、合邦道心を菊五郎が初役で演じます。東蔵のおとく、時蔵の羽曳野、松緑の入平、團蔵の高安左衛門、権十郎の桟図書(かけはしずしょ)の共演による通し狂言をお楽しみ下さい。
達 陀
 「お水取り」として有名な東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)を舞台化した舞踊劇『達陀』は、昭和42(1967)年、歌舞伎座において、二世尾上松緑の僧集慶、七世尾上梅幸の青衣(しょうえ)の女人(にょにん)という配役で初演されました。「お水取り」を舞踊化したいという二世松緑の求めに応じて、萩原雪夫によって描かれたこの作品は、修二会(お水取り)の神秘的な悔過法(けかほう)を巧みに取り入れることで、幻想的でダイナミックな舞踊劇となりました。
 前半では、まず、手松明を持った童子たちによる国土安穏や天下泰平を祈る踊りに続き、練行衆たちによる華やかな散華(さんげ)の行法となります。その後、二月堂の礼堂の中で、僧集慶が高らかに過去帳を読み上げますが、そこに青衣の女人が現れます。これは、東大寺に伝わる青衣女人伝説を取り入れたものですが、作者はこの女人を、荒行に疲れた集慶の心の隙に現れた煩悩として捉えます。俗世を思い出した集慶と妖艶な女人とが踊る場面は、幻想的で見どころのひとつとなります。
 中盤、集慶が煩悩の象徴である女人を断ち切った後は、練行衆たちによる走りの行法となります。三味線の音にあわせ、リズミカルに展開する力強い群舞は、二世松緑(藤間勘斎)による振付の醍醐味と言えます。また、続く五体投地の荒行も、トンボの技法を用いながらの派手やかな演出となります。
 最後は、集慶と練行衆たちによる達陀の行となり、この作品のクライマックスとなります。「達陀」とは、梵語で「火による苦行」の意味であるとされ、火天と水天が激しく立廻ります。やがて、松明の火の粉が飛び散り、まるで火の海のような中で、烈しい群舞が繰り広げられ、圧巻となります。昨年、藤間流の会で集慶を演じた当代の松緑が、歌舞伎公演としては、初めてこの役に挑みます。時蔵の青衣の女人の共演による静と動、暗闇と炎、といったコントラストが美しい舞踊劇をご堪能下さい。
(出典 日生劇場発行のプログラム「12月大歌舞伎」)

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4. 新聞評
 4.1 菊之助の母親役、高い技術と躍動感
 日生劇場12月公演 歌舞伎
 にわかに騒がしくなった歌舞伎界だが、日生劇場に場を移した最後の月に傑作が生まれた。「合邦」の菊之助の玉手御前が素晴らしい。
 後妻となった若い母親が義理の我が子に恋を仕掛けるというテーマが、歌舞伎だとベテランの立女形が演じるために熟れきった女の恋のようにも見え、別種の面白さはあっても劇本来の形は見えにくくなりがちだ。菊之助の玉手は若い母親の恋というドラマ本来の姿を目の当たりに見せ、目からウロコが落ちるように新鮮な驚きと感銘を与えてくれる。そのみずみずしさこそが生命だが、脚本を読み込んだ理解が行き届き、技術の的確さと気力の充実という芸の裏付けとあいまっての成果であるところが称賛に値する。
 俊徳丸と浅香姫の仲を隔てた玉手が懐剣を振りかざし、姫がエビ反りになって耐える責め揚が一幅の絵のように美しいのは、歌舞伎の様式とドラマの内実が芸によって一つとなって顕現した、まれに見る一瞬である。俊徳丸の梅枝、浅香姫の尾上右近の好演も3者の作り出す実のトライアングルを構築する上で見逃せない。今度の上演が菊之助にとっては祖父・梅幸以来の全段通しであることも、ひたひたと積み上げた頂点にこの場面が来るという上で有効だった。
 もう一つの注目は、菊五郎が老けの立ち役・合邦を勤めること。在来の合邦役者とは肌合いが違うが、情の表出に菊五郎らしい長所がある。東蔵の女房おとく共々、元大名という前身をしのばせる品格のあるところに芸の上の用意がうかがわれる。時蔵の羽曳野、松緑入平も好演。その松禄の僧集慶(じゅうけい)、時蔵の青衣(しょうえ)の女人以下の群舞「達陀(だったん)」も好舞台だ。配役がすっかり若くなったが、この作にはその若さこそが必要だ。25日まで。 (演劇評論家 上村以和於)
(出典 日本経済新聞 2010.12.9 夕刊)
 4.2 継母の恋の謎に迫る 日生劇場「12月大歌舞伎」
 「摂州合邦辻(せっしゅうがっぼうがつじ)」の玉手御前が継子俊徳丸に寄せる恋は本 心か偽りか。合邦庵室(あんじつ)の場だけの見取り上演では、ふつう本心とされているが、今回のような通しではミステリーの趣を帯び、菊之助の玉手がその謎に迫っている。
 玉手は住吉神社境内で俊徳丸に愛を告白し、アワビ貝の杯で毒酒を勧め失明させる。この貝は片思いの徴(しるし)である。片思いでも恋は恋。だが毒酒の効果を見守る美しい玉手の顔は油断も隙(すき)もなく、本心の恋とはとても思えない。
 俊徳丸は家出し、玉手は後を追う。この時、時蔵の羽曳野(はびきの)が遮り、「不義いたずら」と決めつけるので、継母の恋は社会の目から本心とされてしまう。時蔵が手強く、2人の雪中の争いが目を奪う。
 玉手が父合邦の庵室で俊徳丸と再会し、その許嫁朝香姫に嫉妬の乱行に及ぶところは、確かに本心に近い。またそうでないと、合邦が怒って娘を刺すことができない。
 玉手は瀕死(ひんし)の重傷を負い、ミステリーの謎を明かす。俊徳丸へ愛を告白して家出に追い込んだのは、お家の悪人から守るためである。こう語ってアワビ貝で白身の血を飲ませると、俊徳丸の目は開く。不義は計略の偽の恋だった。
 それでもなお継母の隠された恋を疑いたい誘惑は強い。だが玉手の臨終の言葉を信じるのは、菊之助の演技が自己陶酔型ではなく、自分を客観的に捉え、物語に忠実であろうとするからである。
 菊五郎の合邦がいい。遊芸僧の姿を見せる天王寺境内の場があるので、庵室の陰影も濃くなり、何よりも東蔵の女房おとくと共に、娘への愛情が深い。梅枝の俊徳丸は失明してからさまになる。他に松緑主演の舞踊劇「達陀(だったん)」。東大寺のお水取りを題材に、練行衆の群舞に迫力がある。   (天野道映・評論家)
 25日まで。
(出典 朝日新聞 2010.12.22夕刊)

5. 感 想
 日生劇場で歌舞伎を見るのは初めてです。切符を貰って、下の姉と二人で行きました。昼の部でしたが、夜と演目は一緒です。
 摂州合邦辻はとても筋が良くできていると思いました。玉手御前の尾上菊之助が好演だと思っていたら、新聞の歌舞伎評(前項)にも出ていたのでうれしくなりました。
 達陀は筋がもう一つわかりにくかったのですが、プログラムを見て、ああそういうことだったのかと納得しました。

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[Last Updated 1/31/2011]