夕日が沈もうとしているころ、
僕を乗せたリムジンが美麗家の前で止まる。
降りると運転手は何も言わず、あっけなく去っていった。
「美麗」とかかれた大きな表札、目の前には豪華な洋館がそびえ建っている。
門から玄関まで距離がある・・・インターホンを押すと、上の監視カメラが僕の方へ向く。
「あのー、菱大路有人ですが」
「・・・ようこそいらっしゃいました、どうぞ」
上品な声とともに頑丈な門が開き、僕は中に入った。
玄関に向って歩き出すと、後ろで自動的に門が閉まる。
なんだか、逃げ道を閉じられたような気がした。
気がつくと、玄関の前でうっすら憶えのある女性が立っていた。
奇麗な洋服に身を包み、軽くカールのかかった長い髪に、
はちきれんばかりの胸を実らせている、美しくも可愛らしい女性・・・
長女の一美さんだ、笑顔で僕を迎えてくれている。
「いらっしゃい!会うのどのくらいぶりかしら?」
「あ、はい・・・えっと・・・」
「確か4ヶ月ぶりね、でも今日からはここが有人さま、あなたの家になるのよ」
「は、はあ・・・」
「さ、どうぞ」
一美さんは家に入る、僕もそのあとに続く。
「あの、一美さんって・・・おいくつなんでしたっけ?」
「私?私は今年、二十歳よ、年上は嫌い?」
「いや、そういう訳じゃ・・・」
「二恵は有人さまと同い年の16よ、あと三久は13歳だけど・・・」
20、16、13、よりどりみどりという訳か・・・
しかし爺ちゃんの思惑どうりにはいかないだろう、
1週間なんてあっという間だ。
そんな事を考えながら長い廊下を歩く。
家の中を見まわすと、それなりの上流家庭だなーと思う。
結構大きな家、しかしメイドは見当たらない。
「有人さまがいらっしゃったわよー」
きょろきょろしているうちにリビングについた、
そこには2人の女の子がくつろいでいる。
一人はソファーに座っているボーイッシュな女の子、
Tシャツに短パンというラフなスタイル、
ショートカットがとても良く似合っている。
もう一人はいかにも可愛らしいピンクのブラウスにミニスカート、
腰までのびた髪がひとつに束ねられ、
とても背が低くお子様といった感じで、床に寝転がってテレビを見ている。
「あー、有人おにいさまだー!」
寝そべっていた背の低い少女が、僕に飛びついた。
「おひさしぶりですぅ、三久です、憶えてますかー?」
「う、うん、お久しぶりだね」
「わー、やっぱり憶えててくださったのねー♪」
正直いうと、ほとんど憶えていない。
うちの屋敷にくる、これぐらいの女の子なんて無尽蔵にいるからだ。
いちいち名前を憶えていたらきりがない、というのが本音だ。
「有人おにいさまー」
抱きついてきた三久とは対照的に、
知らぬ存ぜぬといった感じでテレビにふけいっている、
ボーイッシュな女性。
一美さんが声を少し荒げて話し掛ける。
「二恵!ちゃんとご挨拶をしなさい、失礼じゃないの!」
その声に顔だけ僕へ向ける。
「・・・どうも・・・」
そして再びテレビに集中する。
「こめんなさい有人様、二恵ったら男性が苦手だから・・・」
フォローする一美さんをよそに、
せんべいをばりばり食べる二恵さん。
「ねぇ、有人おにいさまぁ」
三久ちゃんが上目使いで僕に質問した。
「おにいさま、今日からずっとここにいてもらえますよね?」
「い、いや、まぁ・・・あははははは」
テレビを観たまま二恵さんがつぶやく。
「何が面白いんだか・・・」
一美さんが大きな声をあげる。
「さあ、せっかく有人さまがいらっしゃったんですから、
早速お夕食にしましょう!今夜はごちそうですよ」
「わーーーい♪」
両手をあげて喜ぶ三久ちゃん、
それとは対照的に黙々とテレビに集中している二恵さん。
一美さんが少し怒った口調で再び声をかける。
「二恵!失礼じゃないの、ほら!」
「・・・・・はいはい」
仕方ないな、という表情でゆっくりと体を起こす二恵さん。
「有人さまー、はやくぅー」
はしゃぐ三久ちゃんが走っていく。
僕は一美さんに促されるまま、三久ちゃんについていく。
4人での食事、
メイドもいなければ、3姉妹の両親すらいない。
食卓は一美さんと三久ちゃんの楽しげな会話だけが、
ただひたすら付けっぱなしのラジオのように流れる。
「ごめんなさいね有人さま、父も母も仕事が忙しくって・・・」
「でも有人さまが来てくれたから、もう寂しくないねー」
すまなさそうに言う一美さんの横から口を挟んだ三久ちゃん。
突然、もくもくと食事をしていた二恵さんがポツリと話した。
「どうせまた金策に走り回ってるんだろ・・・そういう家なんだよここは」
「二恵!!!」
一美さんの声にかまわず話を続ける。
「どうせこの家は援助とか支援でかろうじて保ってるんだから・・・
今回のこの話がなかったら、今ごろみんなどうなってることやら・・・
私はこんな家、出て行くからね、有人さんとやらが私を選んでくれなければだけど・・」
ちらっと僕の方を覗く二恵さん、
どうやらこの家に反発しているようだ。
「二恵!父さんや母さんの悪口を言うんじゃありません!何度言ったらわかるの!?」
「だってそうじゃないの、父さんが母さんに婿入りしたときも、
その時からこの家、借金だらけだったから金持ちの息子だった父さんを・・・」
なんか険悪な雰囲気になってきたぞ。
「二恵お姉ちゃん!一美お姉ちゃんも!いいかげんにしてよ、
今は有人さまの前なのよ!失礼じゃないのよ、そんな話!!」
三久ちゃんの大声に、一同静かになる。
意外だ、意外と芯はしっかりしてるコなんだなと感じた。
「あ、あら、ごめんなさいね有人さま・・・」
「ご、ごめん・・・・・」
おとなしくなる一美さんと二恵さん、
手のひらを返したように笑顔になる三久ちゃん。
「有人おにいさま、おいしい?」
「う、うん・・・上手だね」
「あ・・・あら嬉しい、腕によりをかけた甲斐がありますわ」
素直に喜ぶ一美さん。
華やかに見えて、その裏はこの家庭の事情を映し出すかのような、
静かな食卓・・・
僕は自分の置かれている立場をようやく理解できた。
そう、結局は僕はこの家にお金として支援されたようなものなんだ、
冗談じゃない!とっとと1週間すごして出て行こう。
そんな決心を固め、食事を終えた。
「一美さん、えっと・・・僕の寝る部屋は・・・」
「あ、それなんですけれど、有人さま、急にいらっしゃることになったから・・・」
「?」
「ごめんなさい、開いている部屋がないんです」
「そんな・・・これだけ大きな家なのに・・・」
「本当なんです、ベッドとか、生活してる部屋にしかなくて・・・」
どうやらかなりせっぱつまった貧乏らしい、
それでも家を手放さないのは昔栄えた家のプライドなのだろうか。
「わかりました、居間のソファーで寝ます」
「そんな!有人さまにそんなことさせられません」
「では、どうしましょう」
「そのことでしたら、もう決めてありますわ、
私たちの部屋へ来て、好きなベッドで寝てください」
好きなベッドと言われても・・・
「そ、それでは一美さん達はどこで寝るんですか?」
「もちろん一緒に寝ますわ、ですから好きなベッドを選んでくださいね」
うーん・・・なんということだ・・・
そういうことか、と僕はさらに納得した。
僕は居間のソファーに座り、考え込む。
おそらく3姉妹のうち誰かの部屋に1週間住むことは、
避けられないルールなのだろう。
僕がいくら拒んでも、なんだかんだ理由をつけるだろうし、
そこのところはじいちゃんが緻密に計算しているだろう。
なら素直に1週間、何もせずに一緒に寝ればすむことだ、
この姉妹たち、いくら自分の家や人生がかかってるとはいえ、
まさか僕を犯したりはしないだろうし・・・
エプロンをしまう一美さんに目をやる。
うーん、知的な大人の女性だけあって、
僕の信念や「この家には1週間いるだけ」ということを、
ちゃんと話せばわかってくれるに違いない、
それだけしっかりした感じがする。
寝転がってテレビを見ている二恵さんい目をやる。
うーん、スポーツやってそう・・・バスケとか陸上とか・・・
二恵さんもこっちを見て、目が合う。
「な・・・なによ、じっと見て・・・
私、男は嫌いなんだから・・・あんまり見ないでよね・・・」
それは好都合だ、
彼女には悪いけれど安全地帯だろう。
少女マンガを読みふけっている三久ちゃんに目をやる。
子供だ・・・どっからどう見てもロリロリした子供・・・
13歳だから当たり前か・・・1週間あやしてればすむだろう。
幸いなことに、僕にはそういう趣味はない・・はずだし・・・
なんだ、誰を選んでも大丈夫じゃないか、
じいちゃんも甘いなぁ、
いくら16歳、女の子に興味津々といえども、
僕の独り立ちしたいという信念でいくらでも耐え切れるだろう。
・・・・多分・・・・・。
一美さんがやさしく僕に声をかけてきた。
「有人さま、もうお決まりになられましたか?」
「う、ううん、まだ・・・あ、あとで・・・」
二恵さんが強い口調で言う。
「私の部屋だったら、覚悟するんだね」
三久ちゃんが四つんばいで近づいてくる。
「おにいさま、三久と一緒に寝ましょうよ、あそびましょう♪」
うーーーーーん・・・・・
どうしよう・・・・・
1週間我慢をするとはいえ、
やっぱり好みの相手の部屋に行きたいかも・・・
間違いがおきないであろうことは、
さっき自分の中で確認済みだ。
なんてことを考えているうちに、
時計が10時をさした。
まず三久ちゃんが居間を出る。
「ふわぁ・・・ねむーい・・・有人おにいさま、私、部屋で先に寝るね・・・」
「う、うん、おやすみ・・・」
間を置いて二恵さんが立ち上がる。
「私・・・お風呂入る・・・」
「う、うん、どうぞ・・・」
アイロンをかけ終わった一美さんも、
立ち上がって僕に声をかける。
「私はこれから家計簿つけて二恵のあとにお風呂に入るわ、
有人さまはお好きな部屋へどうぞ、私の部屋だと嬉しいんですけど」
そう言い残してキッチンの方へ行ってしまった。
うーん・・・
うーーーん・・・・・
うーーーーーん・・・・・・・
結局、僕の出した結論は・・・・・
ここは大人の一美さんにしよう |
ここは男嫌いの二恵さんにしよう |
ここは可愛い三久ちゃんにしよう |
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