☆とらわれの館☆

 

「失礼します」

 

だらしない格好の青年が、

その姿に似つかわしくない気品溢れる豪勢な部屋に入った。

目の前には威厳溢れる老人が座っている。

 

「む、あいかわらずじゃな有人、おまえだけは・・・」

 

また愚痴が始まった、いつものことだ、僕はそう思っていた。

日本で最強の財閥と言われている菱大路家、僕はそこの3男坊、 

こんな家に生まれたくて生まれた訳じゃない。 

長男の麻人兄さんは今、財閥の跡継ぎとして立派に君臨している。 

次男の寛人兄さんは今、兄のサポートができるようにハーバード大学へ留学している。

二人とも帝王学をマスターし、日本を大きく動かす存在になるのだろう。 

 

「おじいさま、僕のことは今に始まったことではありません、 

それより僕の一人暮らしの件は考えてもらえましたか?」 

 

三男の僕・有人はというと、両親の教育方針で兄たちとは違い、 

音楽や絵などの芸術を極められるように育てられた。 

確かにこういう巨大な財閥の家系には、

そういう芸術の世界で名をはせる子供も必要なのだろう。  

結局僕は、現在高校2年にもかかわらず、そういった世界で名をはせている。

100年に1人の才能と言われているが、僕はそんな地位や名誉に興味はない。 

もっと自由になりたいそう思って財閥の長であるじいちゃんに、 

一人暮らしを申し出たので、もちろん高校卒業後は家と縁を切るつもりでいる。 

 

「うむ、そのことじゃがな・・・条件がある」 

 

僕は驚いた。 

いつもならあっけなく断られるはずなのに、 

今日に限って違う言葉が聞こえたからだ。 

 

「条件・・・ですか?」 

「うむ、もしこれができたら、お前を自由にさせてやろう、 

金も好きなだけ持っていくがよい」 

 

白い髭をなでながら張りのある声で話すじいちゃん、 

やはり威厳に満ち溢れている。 

 

「・・・どうしろというのです」 

「なーに、簡単じゃ、美麗家は知っておろう」

 

美麗家・・・あそこはそこそこの名家だ、

それほど大きい訳ではないが、うちの財閥の傘下で、

歴代、大きな名家の息子や娘を養子にして大きくなっていった、

悪い言い方をすればコバンザメみたいなところだ、

今でもうちの財閥の援助がなければ、あっけなく潰れるだろう。

 

「あそこがどうかしたんですか?」

「美麗家に娘が3人いるじゃろ」

「ああ、あの3姉妹でしたら、たまに家で目を通しますね」

 

といってもあまり印象にない、

親戚やうちの財閥の関係者は五万といる、

兄たちならまだしも、僕はいちいち憶えていられない。

 

「うむ、あの姉妹じゃがな、昨日、お前の許嫁にしてきた」 

「は???」 

 

突拍子のないことを言うじいちゃんだ・・・ 

まあ、この強引さがなければ財閥の頂点には立てないのだろう。 

 

「今夜から1週間、美麗家に住むのじゃ、 

そして3姉妹の内、気に入った娘と婚約、結婚するがいい、 

まあ、お見合いみたいなもんじゃな」 

「ちょ、ちょっと待ってください!僕は・・・」

 

じいちゃんは喝を入れるように僕の言葉を遮る。 

 

「もし!もしも1週間経って、誰とも結婚したくないというのなら・・・ 

その時は自由にしてよい、どこへとでも行け」 

「おじいさま・・・本当ですか???」 

「わしはお前に嘘はつかん」 

 

僕の前に薔薇色の人生が開けた。 

あと1週間でこの堅苦しい家とも別れられる、 

しかもお金には困らない、なんという幸せなのだろうか。 

 

「おじいさま、約束しましたよ?」 

「・・・今夜、美麗家に行くがよい、 

すでに向こうの高校への手続きは済ませてある、 

何もかも揃えさせてあるから手ぶらでいいじゃろう」 

「はい!おじいさま、感謝します!!」 

 

僕は天に舞うような気持ちで部屋を後にした。 

ドアが閉まると、じいちゃんはにやりと笑い、 

受話器に手をかけた。 

 

「おう、わしじゃ、全て手はずは整った。 

あとは有人があの家に食われるだけじゃ・・・ 

なあに、あの家系はそうすることでしか大きくなれん・・・ 

まあ3日で落ちるじゃろ、1週間もあれば充分すぎるわ、 

こうしてあいつもこの財閥からは永久に離れられん、 

もし失敗したら・・・潰すだけじゃ、美麗の家も人も、な」 

 

僕はこれが自由になるための最終関門だと思っていた。 

しかし、僕はじいちゃんの提案を受け入れた瞬間、 

もう永遠にここの血の呪縛から離れられないということは、 

想像もつかなかったのだった・・・ 

 

もどる めくる