Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第146夜

知的生活のススメ




 Yahoo! で「方言」をキーワードに検索してみると 212 件ヒットする。「方言」に分類さ
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れているホームページは 45.(*)
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 実際は、こんなものではない。例えば、ふるさとの方言あたりを見てみて欲しい。す
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ごい数である。


 人は何故、方言に関心を持つのか。
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 各地に、方言グッズとも言うべき土産物は少なくない。暖簾・湯飲み・灰皿などなど多
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彩である。詳しい状況は知らないが、こうしたものが作り続けられているということは、
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少なくとも採算が取れる程度には売れている、ということであり、それは取りも直さず、
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方言に関心を持っている人がいることを示しているのだと思われる。


 まずは郷土愛であろう。反論はあるまい。色んな調査で、故郷への愛着と方言への愛
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着が強い相関を持つことも分かっている。
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 孫引きで恐縮だが、『図説日本語 (林大監修、角川書店、1982)』に、NHK の「全国県
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民意識調査」の結果が載っている。
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 これによれば、「生粋県人 (三代にわたってその地域に住んでる人)」の方が、一世や
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二世よりも方言に愛着が強いのは当然として、一世や二世の回答を調べても同傾向を
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示すのである。
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 この場合、偏差値を使って分析するのだが、生粋県人が方言に強い愛着を持ってい
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る都道府県では、一世や二世も好感を示すことが多い。
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 つまり、この場合の「郷土愛」とは、生まれた場所に限らず、自分が住んでいる場所も
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含みうる。
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 地元方言に対する好感度は日本の北と南で高く、中央部で低いそうだから、田舎度と
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関係あるのかなと思ったりする。ド田舎に住んでみると、都会を諦める気になって、開き
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直れるのかもしれない。


 一方で、「異国」で方言に困っている人が決して少なくないことは既に述べたとおりで
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ある。


 次に考えられるのは、好奇心であろう。
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 例えば、『砂の器』という推理小説の傑作がある。恥ずかしながら未読なのだが。
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 有名な話だと思うのでばらしてしまうが、東北方言と山陰方言に共通点の多いことがト
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リックの一部になっている。
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 こんなときに「へぇぇ」と興味を持つ人は少なくないと思われる。
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 「うだで」と「うざってぇ」の共通点と相違点に気づいたとき、三河では「おとましい
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と表現される「もったいない」が秋田・津軽では「いたましい」であることに気づいたと
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きなど、知的興奮を感じることは少なくないだろう。


 郷土愛の裏側、もしくは好奇心の延長線上に、エキゾチシズムへの憧憬、というのもあ
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るだろう。


 よく、日本人は均質性が高い、などと言われる。
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 それが本当かどうかは面倒なのでここでは触れないが、そういう中にあって、日常的
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に、簡単に、「お互いが違う」ことを再確認できる材料が、「食生活」とならんで「方言」な
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のではないか。
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 ご当地ものの食べ物など、名称自体が俚言相当のものだったりする。これなどは、何
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ものも言葉無しでは成立できない、ということを証明しているようなものではないか。


 勿論、関心がないどころか嫌いな人もいる。
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 だいぶ前に、性差別解消に熱心な女性が、「方言なんかなくなってしまえばいい」と言っ
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ているのを聞いたことがある。差別に敏感な人が、なぜ方言話者の気持ちに配慮できな
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いのか不思議でしょうがなかった。今でも、「人によって違う」ということが許せないのだ
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ろう、ということしか思い当たらない。
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 違うからこそ面白いんだけどねぇ。



*: 1999/8/31 現在。




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第147夜「耳が痛い/こらえきれずうずくまる」

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