Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第139夜

形容動詞−秋田弁講座プロジェクト−




 まず、形容動詞とは何か、を確認して置こう。ちょっと長いが、『講談社学術文庫 国語
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辞典 (初版、1979)』の定義を引用させてもらう。
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 活用のある自立語。用言の一種。「静かだ・きれいだ」のように、言い切りの形が
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みな「だ」でおわる。文語では、言い切りの形が「なり」または「たり」で、ナリ活用・タ
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リ活用の二種となる。口語には「と・たる」「に・なる」だけが残っているものがある。
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意味の上からは、物事の性質や状態を言い表す。
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 注目すべきは、この後の注釈である。
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 語幹を名詞の一種とし、語尾を断定の助動詞として、この品詞を立てない考え方
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もある。
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 言ってみれば、形容動詞は、他の品詞と違って居場所をきちんと確保しているわけでは
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ない。いわゆる「学校文法」で習うから知ってる人が多いが、言語学方面の雑誌や本を読
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んでいると、確かに、これに反対している研究者は少なくないことがわかる。
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 修飾語相当の外来語が入ってくると、「ゴージャスだ」「スノッブな」などのように形容動詞
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化する。「ナウい」などの例外を除いて、形容詞がほとんど増えないのに比べると、その造
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語力は強すぎるといってもいいくらいで、これも形容動詞の存在を疑う根拠になっている。


 さて、そうしたことの証拠となるのかどうか。
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 秋田弁には、これという形容動詞が見当たらない
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 さっきの辞書に当たると、「きれいだ」「静かだ」「沈着だ」という例が挙がっているが、
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これは多少、発音が違う (*1) 程度で、基本的にはそのままの形で使う (*2)。「沈着」
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は高級すぎて (日常会話で使いますか?) 秋田弁の語彙とは言いにくい。複数の辞書
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で「同じだ」「元気だ」というのも得たが、これも一緒。
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 方言で困ったら古語だが、付録の活用表でも古語辞典でも「堂々たり」「沈着たり」
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「豊かなり」しかなくて、ちょっといい例がない。


 「〜で」という語尾がある。「おもやみで」「うだで」の「」である。
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 ダ行だからというわけではないのだが、これがなんとなく形容動詞っぽい
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 勿論、「おもやみで」の正体は不明ながら、「うだで」の方は「うたてし」という形容詞
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が元なのであり、これが形容動詞だと断言するのは問題だろう。
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 それでも話を続けるが、例えば「どかちかで」のような、擬態語+「」のパターンは
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どうか。活用形や使い方は、共通語形の「ピカピカだ」と同じなのではないか。
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 「どかちか」が擬態語かどうか、「ピカピカだ」が形容動詞かどうかの検討も必要では
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ある。しかし、少なくとも「ピカピカだ」の方は、形容動詞の活用形に当てはめても何の
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問題もない。もし「ピカピカだ」が形容動詞であれば「どかちかで」も形容動詞という可
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能性が出てくる。
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 この話の一番の問題は連用形である。
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 例えば、「〜となる」に先行させてみると、「きれいだ」の場合は「きれいに/なる」
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であって、「に」と変化する。
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 「おもやみで」の場合は「おもやみでぐ/なる」となってしまう。これは「赤 (あげ)
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ぐ/なる
」と同じ形で、寧ろ形容詞的な変化といえる。
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 形容動詞が形容詞型変化をするのだ、という仮説を立てられないこともあるまいが、
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なんか周辺情報ばかりで、本質部分の情報が無い。ちょっとお手上げである。


 今日のところは、秋田弁には独自の形容動詞は存在しないのではないか、という甚
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だ弱腰の意見を述べるにとどめておく。




*1:「きれいだ」では「れ」、「静かだ」では「し」に強勢がくる。後者では更に、「し」
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 と「ず」の間に「ん」が入り「ずがだ」となる。
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*2:津軽では「きれがだだ」ということもあるようだ。また、「大きな」に相当する「
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 ったらだ
」というのがある。



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第140夜「サ変・カ変−秋田弁講座プロジェクト−」

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