Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第74夜
洒落と慣用句
言葉遊びはどこにでもある。
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焼き芋の「九里四里うまい十三里」なんてのもそうだし、「(バクチ等で)する」を嫌っ
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て「するめ」を「あたりめ」というのもそうだ。挙げればいくらでもあるのだが(*1)、古典落
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語を聞いてると、そこかしこに出てくるので、そういう観点で聞くのも面白かろうと思う。
「ふるあずぎ」
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これは「古小豆」で、意味は「夜更かしする子供」。
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さて、どういうことか。
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料理をする人ならすぐにわかるかもしれない。鍵は「古い小豆」の特徴にある。
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小豆の料理と言ったって、俺には餡にするくらいしか思いつかないのだが、その際ど
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うするかというと、これは砂糖で煮込むわけである。
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これが、古い小豆だとなかなか柔らかくならない。
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なかなか煮えない。
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なかなかにぇない。
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なかなかねない。
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なかなか寝ない。
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とまぁ、こんな具合である。
「かっぱとる」
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これは動詞。「河童を取る」のである。
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特に捻りもないのでバラしてしまうが、水中に落ちてしまうことである。釣りにいって
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川に入っていった辺りですっ転んでしまったとか、そんなような状況を言う。
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「転んだんじゃなくて、河童をつかまえようと思ったんだよ」と言うような強がりから
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来たもんであろうか。
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勿論、プールサイドで遊んでいていたずらで落とされた、とか言うのには使えない。
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海でも駄目だろう。河童がいないから。「にんぎょとる」「うみぼうずとる」という言い方
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は聞いたことがない。
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不本意という含みがあるので、川で泳いでいて足をつった、なんて時には使えない。
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足をつったのは不本意だろうが、始めから川に入っていたのだから駄目である。
「ごんぼほる」
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これも動詞で、「牛蒡を掘る」。
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何でそうなってしまうのかよく分からないので、これも草々に種明かしをしてしまうが、
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「駄々をこねる」。
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まぁ、子供が「買って買って」と駄々をこねる場合、座り込んで中々その場を動こうと
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しない。それが牛蒡を掘っている様子に見えるような気もしないこともないが…。(*2)
「びっきが蓮の葉さ上がる」
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この辺から慣用句になるが、これは湯沢方面で使われるらしい。前に紹介した『あ
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きた弁無茶修行(ティム・アーンスト著、無明舎出版)』に載っていた。「場違いな、晴
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れがましい場所に引っ張り出されてしまった状態」を指す。
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なんかの会で、普段は人前でしゃべったりしない人が突然指名されてスピーチをさ
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せられている、そんなような感じである。
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「びっき」とは蛙のことで、蛙がぴょんと蓮の上に乗っちゃった様子を想像してもらえ
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ばよい。
「立山さ来たもんでもねべし」
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最初の部分を「たぢやま」と言うか「たづやま」と言うかは微妙な線である。
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直訳すると「立山に来たわけでもあるまいし」となる。
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例えば、客を玄関から招き入れた時、顔を見るなり盛り上がってしまい、客間まで来
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ていながら立ちっぱなしで話を続けていた、というようなときに使う。「なんでこんな立ち
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話をしているんだろう」ということである。
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秋田市周辺に「立山」という山があるわけではない。したがって、この表現の由来も不
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明。なんか民話とかの背景があったりするのかもしれない。
「隣で蔵立でれば、おら家で腹立でる」
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これは、秋田衆の特質を説明するときによく使われる表現。「あしふぱり(他人の足を
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引っ張ること)」の好きな県民性を表している。
*1:方言でも何でもないのだが、面白いのを聞いたので紹介する。
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口先だけの奴を「うどん屋の釜」と言う。
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そのココロは。
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「ゆうばっかり」
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これを教えてくれたのは、秋田市の横町にある「紀子」という店のマスター。
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(980505 加筆)
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この店は閉店した。
(000109 加筆)
*2:牛蒡は下にまっすぐ、しかも長く延びるので掘り出すのが難しい。扱いが面倒なことを
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指したのではないかという解釈を聞いた。(000109 加筆)
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第75夜「民間語源−知恵熱再び−」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp