Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第63夜
湯島小学校・中学校(後)
驚いたのは「ばって」。
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これは主に秋田の県北地方で使われるのだが、「しかし」というような意味の単語であ
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る。単語とは言ったものの、「んだばって」「したばって」という形で使われることの方が多
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い。どちらも、「でも」「そんなこと言っても」という意味である(*1)。
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これが湯島でも使われている。
そるばって(それでも)
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深夜ばって(深夜なのに)
驚いた。
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とはいえ、よく考えてみれば「ばってん荒川」という芸名もあることだし、九州は「ばって
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ん」の本場(?)なのだった。
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秋田では、名詞の後に「ばって」をつけることはない。動詞句が先行する。だから、「深
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夜だばって」とは言う。
前に取り上げたのでは、「夜」を示す「よさり」。
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リエゾンしているので、正しい形がよく分からないが、
よさらぁぼと
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よさっになっぎゃ(どちらも、「夜になると」)
という表現があった。「よさり」系の単語は全国的にかなり広く使われているようだ。
どうしても気になるのだが、どこが気になっているのかすら説明できないのが、「年ば
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越ゆっとき」である。
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意味は、「年越しの時」なのだが、「越ゆ」になっているのがひっかかる。
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少なくとも東日本では、年は「越す」ものであって「越える」ものではないと思うのだが。
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しかしまぁ、そんな違いが生まれる前に東西に別々に広まったのだろうから、現在の意
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味を云々しても始まらないのかもしれない。
他に目に付いた表現をあげると。
どうやら「多い」は「う」と言うらしい。
うかごたる(多いようだ)
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うなっと(多くなると)
という例が見られた。
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ただし、他の場所で「多して(多くて)」というのもあった。この二つの単語の関係は不
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明だ。ひょっとしたら、「新方言」「ネオ方言」の仲間かもしれない(*2)。
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関連で、あるいは標準語の影響かもしれない、と思ったのが「かんなし」。これは「か
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なり」のことらしいのだが、「やっぱり」が「やっぱし」になったのと同じ形に見える。
この表現は2個所で出てきたのだが、
うーごった(大変だ)
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うーごっだったてだもん(大変だったそうだ)
これは、「大事(おおごと)」の変化したものではあるまいか。
「げん」というのもあった。
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その前に人の名前をつけて、「その人の家の」ということになるらしい。
夏美さんげん船(夏美さんの家の船)
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寛志君げん船(寛志君の家の船)
の2度、出てきた。
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これも聞いてみたら、「わっげ行ったとん、わっがおらん(あなたの家に行ったのに、
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あなたはいない)」という例を教えてもらった。
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ということは、「ん」は「の」か。「げ」はやはり「家」という意味なのだろう。「家(け)」か、
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それとも「軒(けん)」か…。
気になったといえば、「なわくり」と「なわはえ」。
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後者は、漁法の一つである「はえ縄」のことだ。
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「なわくり」については、「縄」を「繰る」ことだとは思うのだが、解説文にも「なわくり」と
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しか書いてなくて、漁業関連の単語であろう、ということしかわからなかった。
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ということは、この二つの単語が湯島独特の表現であるという意識を持っていない可能
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性がある。この二つは生活に根差した言葉だから、外から別の単語が入ってきても簡単
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にはなじまないし、逆に、湯島だけではなく周辺一帯で広く使われているのかもしれない。
そんなわけで、楽しいのである。
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ここでは、方言のことにしか触れなかったが、ケナフという植物の成長記とか太鼓とか
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話題満載である。学校の Web ページというと、内輪受けか、いかにも授業でやりました、
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というのが多い中、かなり気合いが入っている。
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まぁ、別に、彼らにだけ肩入れする謂れも無いのだが、中学生には楽しい中学生活を送
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って欲しいと思うので、ちょっと応援したくなっている。
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彼らの Web ページからは熊本県内の学校の Web ページにも飛べるようになっている。
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一度は訪問して、元気を分けてもらうとよい。
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URL 再掲:http://www4.justnet.ne.jp/~yushima1/
*1:秋田市近辺では「したって」「んだたって」となる。
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*2:誤解を覚悟で非常に大雑把な言い方をすると、「新方言」は方言自体のルールによ
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る標準語化でない変化、「ネオ方言」は標準語の影響を受けた標準語化でない変化。
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shuno@sam.hi-ho.ne.jp