Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第2夜

ら付き言葉



 世間では「ら抜き言葉」が話題である。「食べれない」などがそうなのだが、混乱して「読めれない」などと言うのもいる。
 ま、一応、理には叶っているらしい。審議会が「容認しない」と抗ったところで無駄なのだ。
 こういう新しい表現が「軽薄だ」とか言って嫌われるのは、新しい表現を積極的に採用するのが、よく言えば因習にこだわらない、悪く言えば軽薄な人たちだからだ。表現が軽薄なのではなくて、使ってる人が軽薄に思われるから、嫌がられるのだと思う。
 あ、俺自身は「食べれない」とか「降りれませーん」は嫌いだ。

 色んな IME(Windows の漢字変換ソフト) メーカーが、文章校正機能の中に「ら抜き言葉」の使用を指摘する、というオプションをつけているのだけれども、これなどは、わざわざソフトウェアに組み込むほど普遍的な要素かどうか、ちょっとした博打だったのではないだろうか。
 尤も、(そんなことはなさそうだが) もし「ら抜き言葉」が一時的なもので消えてしまったとしても、ソフトウェアの寿命も昨今はがんばっても 2 年がいいとこのようだから、大した害はないのかもしれない。

 秋田では、「呼ばれる」を「呼ばらいる」と言うことがある。
 「い」は音便だとしても、「ら」は何だ? ひょっとして、秋田弁にしかない新しい現象、「ら付き言葉」なのだろうか! 我々は、次世代の表現が誕生する瞬間に立ち会っているのか?

 いや
 答えを言ってしまえば、なんのことはない、「呼ぶ」を「呼ばる」と言うからだ。
「あなたを呼んでましたよ」は「あだどご 呼ばってあったよ
「呼んでこい」は「呼ばってこい
「呼ぼうか?」は「呼ばるが?
 となる。
 終止形が「呼ばる」の動詞を受け身にしたら「呼ばら・れる」になるのは当然のことだ。
 困ったことに、手もとの資料をあたってもその手の論文が見当たらないので、自分で活用表を作ってみる。
未然 呼ば・ない/呼ぼう 呼ばら・ね/呼ばら 
連用 呼び・ます 呼ばる・す 
終止 呼ぶ 呼ば・る 
連体 呼ぶ・時 呼ばる・時 *1
仮定 呼べ・ば 呼ばれ・ば 
命令 呼べ 呼ばれ 
 標準語で「ば行五段活用」のところ、「ら・る・れ」の「ら行三段活用」というべき形に見えるが、実は、話はもうチョイ面倒で、連用形がちょっと違う。
 「呼びます」に対応する形は「呼ばるす」だが、「呼びたい」に対応するのは「呼ばりて」で、突然「り」が登場する。「ら行四段活用」となる。
 「四段活用」と聞いて、古語の授業を思い出す人もいるだろう。そう、方言は、実は古語と関わりが深い。単純に言えば、昔の表現がそのまま残っていることが多いのである。「呼ばる」がいわゆる四段活用の単語かどうかの裏は取ってないが。(第6夜に関連記事)

 ちょっと話がそれてしまった。
 方言というと、「発音が訛っている」とか「変な言葉を使う」という程度のイメージしかない人も多いと思うが、実は文法体系からして違う *2のだ。非常によく似た、別の言語だと思った方が適切な場合も多い。
 俺が始めてそのことを知ったとき、かなり驚いたが、皆さんはどうだろう。



注1:
 正確に言えば、「呼ばる時」の発音は「よばるづぎ」である。ついでに言えば、「呼ばる」と言う時、「よ」と「ば」の間には「ん」の音が聞こえる。周りに東北出身者がいたら、ゆっくり発音させてみると分かるかもしれない。(
)

注2:
 
@nifty の<全国ふるさと交流フォーラム>で聞いた話だが、下関では「お元気でしたか?」を「元気なかった?」というそうな。これは「元気な」+「かった」であって、「元気」「無かった」ではないのであろう。(970105 加筆)()


音声サンプル(.WAV)

呼ばらいる(13KB)
呼ばる(12KB)
あだどご 呼ばってあったよ(21KB)
呼ばってこい(15KB)
呼ばるが?(15KB)
呼ばるす(12KB)
呼ばりて(19KB)
呼ばるづぎ(16KB)


"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第3夜「できる・できない」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp