Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第996夜

あつあつふーふー (後)



 佐藤両々氏の4コマ『あつあつふーふー』に借りた文章、後編。

 前回、メモを取ってて一番多かったのが、「だ」が「」になって形容動詞の連体形に見える例 (「迷惑だし」が「迷惑なし」など)、と書いたが、二番目に多かったのは動詞の連用形+「て/で」の使い方に関するものである。
 最も多いのは後ろに「じゃ」が接続する形で、「行ってじゃ」「焼いてじゃし」「忘れてじゃろー」などがある。これを丁寧に言ったんだと思うが、「 () ってです」と「です」がつながるバリエーションもある。
 そうかと思うと「の」がつながる場合もある。「長居してのお客さんおってじゃけぇねー」「よぅ気が付いての人じゃと思うけど」「付き合うとっての人」などの例を拾えた。
 さらに、「よ」のこともある。ここまでのパターンを全て網羅した「(お好み焼き屋に若い女性は入りづらいし、食べきれなかったりするのでは、という意見に対して) 女性客も来てよ? カップルも来てじゃし。全部食べての人も」という表現がある。
 多分、この表現があると広島弁っぽく聞こえるのではないか。

 広島と言えば、「ぶち」「ぶり」「ばり」だが、これも登場する。
 Wikipedia によれば、本来の広島弁は「ぶち」で、言葉遊びで言い換えたパターンが「ブリ」「バリ」「ベリ」「バチ」とたくさんあり、「ばり」が残っている、とのこと。

できよう (できるだろう)」というのを拾って、「お」と思う。古語というか、格調が高い感じがする。時代劇で侍が使いそうだ。
 が、「タイプが違おう? (違うだろう?)」という表現だと、方言っぽく感じられるから不思議である。

 頻繁に出てくるのが「はぁ」で、間投詞ではなく、「もう」という意味の副詞。
 前後関係でわかるだろ、と思わないこともないが、「はぁ良えじゃろ」あたりだと、戸惑いそうな気がする。

「家」「〜のとこ」に相当するのが、「かた」。おそらく「方」であろう。
お前んかた」「うちかた」などの形で登場する。物理的な建物だけを意味するのではない、というのは「家」と同じである。

いんえのう」というのが面白い。
 意味は「どういたしまして」だから、おそらく前半は「いいえ」じゃないかと思う。

たちまち」は「すぐに」「とりあえず」で、「たちまちビール」というのを前に紹介したことがあると思う。

」という語尾も面白い。
あっという間で?」というのは「あっという間だよ?」ということで、この漫画ではよくオチ辺りで使われる。
 関西の漫才だと「やで」と言うところだろう。

 関西が出たところで、大阪弁との共通点。
来ていらん」というのは「来るな」という意味だが、全く同じ形で使われる。

 全く聞いたことがなくて、面白いと思ったのが「よいよ」。
 これは、説明がないと絶対にわからないと思う。文脈の助けがあっても怪しいような気がする。
 意味は「まったく」。「まったくわからない」の「まったく」ではなく、「まったくもう」の方。「本当にもう」のこともあろう。
「良い」ではないし、「いよいよ」と聞き違うこともあるだろう。呆れられる心当たりのある人は気を付けて聞いていた方がいいだろうね。

 この辺りは、標準語では「〜ている」でまとめてしまう完了と進行を別の形で使い分ける。
焼きよるわい」にでてくる「〜よる」は進行形なので、「今、焼いている」という意味。これが「〜とるちょる」だと完了形。
 だから、「告白しようか思いよるんじゃけど」は「告白しようかと思ってるんだけど」である。使い分けをせず、「〜よる」を使わない地域の人間からすると、ここになんか特殊なニュアンスを感じてしまうのだが、特段、重い意味は載せられていない。

 あとがきで、『わさんぼん』で使った京都弁については、特段、何も言われなかったが、この作品の広島弁については色々と指摘が来る、というようなことが書かれている。
 なんでだろうね。

 主人公の玉名は同級生たちから、男を惑わす魔性の女呼ばわりされている。
 それは、彼女からお好み焼きのソースの香りがするため、彼女が近づいたり風上に立ったりすると、お好み焼きを食べずにはいられなくなってしまうからである。
 マンガでは、おせちに飽きたらお好み焼き、というようなことも言われている。マンガ読みながら、食いたい、と思っているのだが広島風 (すいません) の店って宮崎や秋田にあんのかな。

 よいお年を。



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