Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第984夜

最後のなまりうた (前)



 随分とに、録画してあった「なまりうた選手権」を見ないで削除した、ということを書いた。方言番組を記事にする場合、メモを取ったりするため、見るのに放送時間の倍もの時間がかかり、その時間が確保できない、というのが理由だった。
 このたび、いつのだかわからないがメモが発見された。折角なのでネタにしたいと思う。
 調べてみたら 2013 年 10 月放送分のようで、二年前である。メモは不完全で、曲名がわからなかったりする。録画分がもうないので確認もできないし、紹介の時期は完全に逸しているので、以前とは違ってサラっと行こうと思う。

 A 組トップ、山形代表は、「青い珊瑚礁」。
「きらきら」を「しかしか」としている。
 Web 日本語によれば、岐阜・三重・滋賀当たりで「しかしか」と言うと「ちくちく」という意味になるそうな。
 C パートからサビの A パートに戻る部分で、「あなたが好き」という歌詞があるが、これを「おめば好ぎだ」としている。ブリッジになる部分なので印象に残りやすいのだが、文字数が同じで、かつ山形弁の特徴も出ており、上手い訳である。

 和歌山は「木綿のハンカチーフ」。
 方言的特徴としては、ラ・ザ・ダ行の混同がある。番組では「冷蔵庫」が「れいどうこ」、「座布団」が「だぶとん」という例が紹介されていたようだが、歌でも「列車」が「でっしゃ」になっていた。
「北風」が「きたげ」になっていたが、「北気」で季語にもなっているらしい。方言としても、茨城や岡山の例が見つかる。古い言葉が点で残っている、という感じか。
「からだ」を「かだら」にしていた。和歌山に限らずいい間違う人はいると思うが、前述のようにザ・ラ・ダ行の混同が普通に起こる環境ではもっと起こりやすい、ということだろうか。

 秋田は「千の風になって」。
「眠ってなんかいません」が「ねふってなんばいねえっす」になったのに、一瞬「?」と思ったが、「ねふってだばいねえっす」の「だば」が「なば」と発音されるケースもあるので、おかしくはない。
 違和感の原因は、「」の前に挿入される「」(これ自体は秋田弁の特徴)が一人前の音として音符を割り当てられていたからだと思う。

 鹿児島は曲名がわからなかったが、鹿児島弁の歌詞から標準語を復元してみたところ、花*花の「あ〜よかった」であることが判明。
 例えば「涙やケンカの後の朝日の色」が「なんだやケンカん後ん朝日ん色」になるように、撥音便化するのが特徴だが、そうなる箇所が多く「」が響いて聞こえる。うまい選曲である。それを狙ったのかどうかはわからんが。

 秋田が予選通過。

 B 組トップは青森で、“UFO.”
 これも訳が上手くて、サビ直前の「そうなのかしら」が「そんだんだべが」、最後の「近頃少し地球の男に飽きたところよ」が「近頃あんちか地球のおどごば あぎらがしたじゃ」と文字数が揃っている。最初の山形代表と同じである。
 さらに「次から次へと」が「わっつわっつ」で、これもリズムに乗って大変に楽しい。
 歌っている人の「のり緊張して」というコメントがすごくうれしかった。「のり」は津軽弁の副詞である。

 富山代表は「世界中の誰よりきっと」。
「誰より」は「どのっさん」となっていたが、厳密には「誰」の部分らしい。たとえば「このっさん」が「この人は」に相当するのだそうだ。
さいさい」が「いつも」。「いつもいつもありがとう」が「さいさい、きのどくな」であるらしい。

 高知が“My Revolution.”
 出だしの「ほいたら Sweet Pain」あたりが、ここまでにも何度か指摘した、「印象的な箇所で、音数やリズムが元の歌と同じ」という例。これがあると気持ちよく聞ける。
「見上げてるよ」が「見上げゆうよ」。アスペクトの違い、ということになろう。標準語の「〜てる」は進行形であり完了形でもあるが、それを区別する方言がある、ということ。
 時間の副詞で「ざんじ」は「今すぐ」。これは「暫時」だろうと思う。
 上手い訳としては、「たやすく泣いちゃだめさ」が「じきに泣いたらいかんや」。「じきに」は直訳としては「すぐに」なんだろうが、意味とリズムを考え合わせたいい選択だと思う。

 広島は「愛してる」(だと思う)。
「叫ぶ」が「おらぶ」は有名なところか。
 出だしの「ねぇどうして」が「ちょい なして」になってる。これは、失礼とは思いながら、音のあまりの変化に笑ってしまった。

 ここまででやっと予選の 2/3。
 サラっとは終われないかもしれんな…。



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