Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第985夜

最後のなまりうた (後)



 2013 年 10 月放送分の「なまりうた選手権」を今更取り上げる企画の後半は、予選C組から。石川で「道」。
 俺の場合、「」って言うと「この道をこうやって歩くのも 君が幼い子供だからだ」ってやつだが、なまりうたとは関係ありませんね。
 石川の方言については「まれ」で散々聞いてきたが (放送順はこっちが先だ)、ここでも「まんで」「〜げん」などが出て来る。
ちゃわちゃわ」という語が面白い。「落ち着きがない」という意味らしいが、元歌詞の「幼くて」の訳語となっている。

 次、茨城。曲は「やさしいキスをして」。
「そばにいられたら」が「そばさいれたっけ」になっている。なんか北海道弁的な感じ。
 茨城は方言としては「南東北」なのでこういう比較をするのだが、同じ「〜たら」でも、「〜っけ」は、秋田弁では仮定ではなく条件である。「朝起きだっけ、頭痛くてさ (朝起きたら頭が痛くてね)」という風に使う。今回のように、「もしそばにいられたら」という場合、「〜っけ」は使えない。
「肩を抱いてそばにいるね」の「髪を撫でっぺ、肩を抱くべ」が興味深い。「撫でる」が「」、「抱く」が「」である。音便だからか、音便化の結果、無声音になっているからか。

 長崎は「糸」。
「なぜめぐり逢うのかを」が「なして出っかすとかば」。「出っかす」は「出くわす」であろう。
「私たちはなにも知らない/私たちはいつも知らない」が「うったちはいっちょん知らんとうったちはいつでん知らんと」で形も揃ってて上手い。
 俺のメモに「なんかかわいくない?って聞こえるごと変換しました」とあるのだが、これはおそらく、歌った人がこう言ったのであろう。なかなか気を配っている。
 もう一つ、「すごく相性がいいんですね/すごい、って言ってるぞ」というメモもある。これはおそらく、前半が審査員の言葉で、方言との相性について触れているのだと思うだが、審査員が「すごい」って言ってるのに、字幕が「すごく」になっていることを書いてるのだと思う。
 なんで、こういうことするんだろうね。確かに、「間違った日本語」かもしれないけど、そう言ってるんだからそれはそのまま字幕にすればいいだろう。放送局の責任ではないし、そんな権利もあるまい。こういう番組で日本語矯正する必要はない。

 熊本が「蕾」。
「だからあなたの涙を」が「だけん、あたん涙ば」。
 この「だけん」については、時々勘違いをする。逆接の接続詞だと思ってしまうことがある。おそらく「だけど」と混同しているのだと思う。
「消えそうに咲きそうな」が「消えるごて咲くるごた」。これも元の歌詞が形を揃えているのを踏襲している。

 決勝戦。
 どうも4組らしいんだが、ここまでの予選は3グループだったから、誰か一人が敗者復活戦なんだと思われる。

 青森が「少女A」。
「じれったい」が「かちゃくちゃね」。んー、「かちゃくちゃね」は、一言でいうのは難しいが「気持ちがゴチャゴチャして苛立っている様子」という意味。訳に困ったんだろうね。まぁ、音数は合ってるからいいか。同様に、「思わせぶり」が「わんざと」になっているのもずれていると言えばずれている。
「(きっかけぐらいは)こっちで作ってあげる」が「わーがつぐってけるね」。この「ける」は、東北弁としては正しく「あげる」に対応する語なのだが、標準語的感覚で「くれる」の変形として受け取ると、突き放した感じが出てきて、歌の趣旨にぴったりはまってくるのは面白い。

 秋田が「大空と大地の中で」。
「つらい」が「きっぢ」。「きつい」が「きぢ」になって、強調しようとすると「きっぢ」になる。口語というか砕けた表現。
「ふきすさぶ北風」が「このましい北風」になっていたのだが、これがわからない。
「息をふきかけて」が字幕では「いぎどごふぎかげで」となっていたが、発音は「がげで」だった。なお、「」は“gi”ではなく息もが漏れる“ghi”である。

 広島は“M.”
「となりで笑ってたかった」が「ねきで笑うときたかった」。この「ねき」は面白い表現だといつも思う。Web 日本語記事によれば、「根際」とのこと。
「自然に消えて」が「ええがいにみてて」。これは説明しないとわからない人が多かったのではないか。この「みてる」は、「見てる」ではなく、「〜がなくなる」という意味。ひろしまナビゲーター記事によれば、「パッとなくなるのではなく、継続的に使っているものが、ついになくなった」状態を指すのであるらしい。「満てる」とは逆の状況というわけ。

 ラスト、熊本は「思い出がいっぱい」。
「君はまだシンデレラさ」が「あたはまだおてもやんたい」。
 これはサービスであろう。「おてもやん」の歌詞を調べてみたのだが、どうも「シンデレラ」のように耐える性格とは対極という感じである。大人になってない、というのは合ってるようだが。実在の人物がモデルだとは知らなかった。

 優勝したのは秋田代表。

 というわけで、超駆け足で紹介してみた。
 それにしても、あれ以来、やってないな。賞取ったりして話題になってたと思うんだけど。手間かかる番組なのかもしれないね。



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