Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第945夜

また「かわいい方言」


 1/7 の宮崎日日新聞が「“かわいい方言”人気」という記事を載せていた。無署名だが、共同通信かもしれない。
 大項目は二つあり、一つは「漫画・アニメ」。
 まず、「巨人の星」の左門豊作 (熊本)、「うる星やつら」のラム (仙台弁っぽい言葉を使う)、全国各地の選手が登場する「テニスの王子様」をサラっと取り上げる。「(方言を話す人物の) 描かれ方は時代とともに変化しているようだ」として、左門は飛雄馬の引き立て役、ラムは主役だが、「テニプリ」の場合は個別にキャラが立ってバレンタインのチョコランキングに方言話者が上位に食い込む、てなことを書いている。この辺、「役割語」のことを調べてもうちょっと突っ込んでほしかった気もする。あと、いわゆる「ご当地アニメ」も。
 続いては「妖怪ウォッチ」で、岡山弁の「もんげー」。ネットでは地元のネイティブと思しき人たちから「聞いたことない」「今は使われてない」と拒否反応も多いのだが、そのことには触れられていない。

 ちょっと逸れるが、Wikipedia でチラっと見たところ、妖怪の名前はなかなか面白い。
 基本的にダジャレで、「まぼ老子」「ぎしんあん鬼」は王道、「ひつま武士/ひまつ武士」はシャレとして直球、「つづかな僧」あたりは現代風の言い回しをベースにしている。既存妖怪をひねった「一旦ごめん」には吹きだした。
「りもこんかくし」は実在すると思う。

 話を記事に戻す。
 痛いのは、「ちかっぱめんこい」を今更持ち出していること。あれが話題になったの 10 年前の 2005 年なんですが。
 確かに、記事中で田中ゆかり氏が「可愛い存在として価値が上がった」と指摘したような現象はあったかもしれないが、最近ではすっかり下火になっていた。「もんげー」を支持しているのは子供たちであり、「じぇじぇじぇ」「こぴっと」は方言よりもドラマの人気、「ちかっぱ――」とは別の現象だと思うのだがどうか。
 ただ、「本来の用途にとらわれず」に使用されているのは事実か。これは大分、オブラートにくるんだ表現だと思うが、要するにネイティブからすると噴飯ものの使われ方、ってことだが。
 尤も、「ほっこり」のようにネイティブまで本来とは違った形で使い始める、ということもないではないので、一概に否定もできないのだが。

 もう一つの大項目は「各地の注目株」。要するに、「じぇじぇじぇ」の次を探そう、というもの。
 山形の「まぐまぐでゅー」が挙げられている。「飲みすぎて『気分が悪い』」状態だそうで、秋田でも似た形があるが、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』も『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』も見出しは「まくまく」である。こちらは「めまいがする」「吐き気がする」でちょいとニュアンスが異なる。
 岡山の「てっぱらぽー (すっからかん)」は確かに音として面白く、「妖怪ウォッチ」に登場しても違和感ない。
 新潟の「じょんのび (のんびり)」の知名度ってどんな感じなんだろうね。そういうご当地ビールが出たことがあったんだけど。

 似たような内容を 1/10 の「くろしお」という一面コラムが取り上げている。「似たような」というより、題材が丸被りなので、それを受けての文章だと思われる。
 こちらは「かわいい方言が若い世代に人気という」と言ってしまっていて、更に痛い。
 不思議なのは、「外国語を訳すように、頭の中でいったん宮崎弁を共通語に言い換えた後、口に出すというしち面倒くさい手間をかけていた同級生もいた」とあること。このコラムを書いた当人はどうだったのだろう。程度の違いこそあれ、そういう作業は発生するはずなのだが。
 イントネーションのことにも触れられているが、に紹介した通り、無アクセント地域の人がアクセント・イントネーションの感覚を習得するのはかなり難しい。最近はそうでもなくなっているにせよ、そういう苦労をせずに済んだのだろうか。

 記事が言うように、今年も方言が話題になることがあるかもしれないが、それは新しい現象であるが故 (逆に、ネイティブにとっては慣れたものであるが故) 軋轢が生じる。ネットでは否定的な表現があっという間に広がるのだが、さて、どんなケチがつけられるのか、それも含めて見守っていきたい。


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