Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第941夜

ここまで


 マイナビウーマンから。
 ここはよく方言に関するアンケートなんかを取り上げる。
 で、そういうところで、「聞いたことない!」てな表現が出てくることはあんまりないのだが、今回はあったので。

 最初の記事は「えー、通じない! 標準語だと思っていたら方言だった言葉『なおす』『車にしゃがれる』」。
 内容は、タイトルそのままで気付かない方言。
 聞いたことがないのは、そこにある「車にしゃがれる」。
 意味は「車に」で想像がつく。「車に轢かれる」ということ。
 使用地域はなんか、近畿から九州にかけて点在する感じ。

 この記事は地域について全く触れていない。わずかにありはするが、それが回答者が地域を明示してるときだけ。方言の話題で地域に触れないっていうのはどういう感覚なんだろう。
 マイナビの記事ってこういうのが非常に多い。
 10 月の記事では「日本各地には方言だけではなく、ある地方でしか通じない言葉もたくさんあります」と書いている。何を言いたいのかわからん。「ある地方でしか通じない言葉」を方言というのだが。
 あるいは、この記事を書いた人は、方言というのは文法や発音の領域のことであって、単語は含まれない、と思っているのかもしれない。なんでそう思うようになったのか知りたい。

 話を戻す。注目したいのは、「めばちこ」に関する (回答者の) 発言。
「もろもらいのこと」と言っている。
 おそらくタイプミスだと思うのだが、この回答者は「もろもらい」だと思っている可能性もなくはない。「雰囲気」を「ふいんき」と信じて「漢字変換できない!」と言い出す人がいるが、それと同じで、誤って「もろもらい」覚えているということも考えられる。

 もうひとつ面白いと思うのは、「うるかす」の件。
 回答者が地域を明示していないので明言は避けるが、おそらく、正しい形は「うるがす」である。で、この人は「濁音になってるのは方言だから」ということ「うるかす」と言ったのだと考えられる。

 もうちょっと記事自体にかみつく。結びの文章はこうである。
東北や九州など、人の少ない地域では、地元民でもよくわからない方言をおばあちゃん世代から使われることもしばしば。「これ知ってる?」と、その地方にしかない言葉のすりあわせで、コミュニケーションがとれるのは素敵なことですよね。あなたの地元にも、珍しい方言はありますか?
 二番目の文は、おそらく肯定的な表現をしようとしているのだと思うが、何が言いいたいのかわからない。「これ知ってる?」で始まる会話って楽しいよね、と言いたい?
 そもそも「人の少ない地域」という表現ができるセンスも理解しがたい。都会には方言はない、と思っているのかもしれないが、ほかに言いようなかったのだろうか。

「えー、通じない!…」からリンクが張られている記事にちょっと触れる。
恋人に言ってほしい方言『はぶてる』『食べるら?』『でーじ』
 触れる、というかなんというか。こういう「異性が言ったら素敵だと思う方言」というような記事はマイナビに限らず時折、見かける。正直、「で?」って感じである。そういうのは、素敵な異性が言うから素敵に聞こえるのであって、言語面からの普遍性はないわけなんで。

『じぇじぇじぇ!』に続け!私の出身地のかわいらしい方言
 タイトルでわかるように、いささか古い。去年の夏の記事である。これは、自分の方言のおすすめ表現を募っている。
 北九州の人が「〜ちゃ」という語尾を薦め、記事の筆者は「うる星やつら」のラムを引き合いに出しているが、ラムの「〜ちゃ」は「〜だっちゃ」であって、Wikipedia によれば仙台弁がベースなのであるらしい。

 マイナビウーマンは、escala cafe という名前だったころに取り上げたことがあるが、これが最後になると思う。
 正直、マイナビの記事は全体にクオリティが低い。ここに挙げたのはまだましな方。たまに小学生の夏休みの自由研究みたいなのがある。
 mixi 経由でそこの記事を見るようになって数年だが、クオリティの低さをスルーできるようになってきたのはここ最近のことである。



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