Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第931夜

やばたんやこっせん (前)


 NHK 宮崎放送局では、「宮崎熱時間」というローカル番組を持っている。隔月位で宮崎にまつわるいろんなテーマを特集しているらしいのだが、こないだ方言に関する特集をやっていた。去年、今年の初めと続いて三回目だそうだ。
 そもそも「やばたんやこっせん」とは何か。
 最初と最後はわかる、というか見当がつく。「やば」は「やばい」であろう。若者の言葉がテーマの番組らしいし、これは確実。
こっせん」は若者の方言で、「〜じゃない?」。大阪弁だと、「〜なことあれへん?」というような表現があるが、これの「こと」と同じであろう。
 だから、おそらく「やばくね?」という意味ではないかと思われるのだが、中央の「たんや」がわからない。どこで切れて、どこまでが「やばい」にくっつき、どこからが「こっせん」にくっつくんだろう。
 ま、見ればわかるか。

 高校生を 15 人ほど集めている。まだ自治体の配置を把握してないんだが、延岡日向宮崎小林都城串間日之影ってことだとおおむね全域をカバーしてる、と言っていいのかな。
 まずは、相槌の言葉。
それなー」あたりは秋田でも使ってる人がいるが、聞くところによるともう古いらしい。今は「あーね」なんだとか。
 これについては、「まじな」「あね」「あよ」などのバリエーションがある。どういう違いがるのかというと:
 延岡 (の子) 大宮 (の子)
それな テンションが高い そこで会話が終わる
だからよ テンションとしては中間 次に文が続く
あーね 興味がない 納得するとき
 というわけで、少しずつ違う。あるいは、個人的な印象かもしれない。
 この番組によれば「あー」は福岡が発祥なんだそうで、上の「今は『あーね』」という情報自体も実は怪しい (ネットのアンケートサイトで見た。どこの人かは不明)。
 この辺は、単なる若者言葉でなく、流行の側面も持っていそうで、ほかの表現よりも寿命が短いと思われる。
 面白いと思ったのは「じゃかいよ」「だからよ」で、「そうなんだよ」という意味だと思うが、形としては秋田弁の「したがら」も同じか。ただし「したがら」は、呆れているときなど、ネガティブな内容に使われることが多い。あれ、「だからよ」もそう?

 怒りの宮崎弁ということで、とある家族の様子を映していた。子供が夏休みの宿題をやってない、ってことで怒られてるのだが、こういう家庭ってどうやって見つけるんだろうね。
くらすぞ、マジで」など、ひとしきり怒られたところにキャスター (とカメラマン) が入っていくのだが、それって教育的にどうなんだろう、と思った。
 宮崎弁で怒る、という趣旨なのに「マジで」が入ってるのに笑う。
 小林市の高校生が、父親が怒ると、出身地のえびのの方言が混じって、何を言ってるのかわからないことがある、と言っていた。感情的になってコード切り替えの制御がうまくいかなくなったせいなのだろうが、そういう状況でも「マジで」が出てくるってのは、それがその人の深いところに入っちゃってる、ってことだよね。

 宮崎弁を世界に広げよう、ついては隣の大分から、ということで、大分の高校生がゲストに呼ばれている。
「暑い/寒い」が、宮崎では「あつか/さむか」なのに対して、大分では「あちー/さみー」になる、という概略説明の後、大分でも使ってほしい宮崎弁の紹介。
「よりかかる」という意味の「なっかかる」は、大分では「なんかかる」となる。草刈正雄が好きな言葉として挙げているのを紹介した。
ちゃ/ちゅ/ちょ」は、「ている」の活用形の音便化。「やっている」なら「やっちょる」もしくは「やっちゅう」となるが、大分では「やっちー」なんだそうだ。
 あとは、冒頭で紹介した相槌のうち「じゃとよー」。「そうなんだよ」ということ。
 妙に「美しい」表現が出てこないのがよかった。たとえば「ありがとう」系の、方言が美しいのではなくて、それが示す内容が美しい、ってやつのことだが、それを地域と絡めて称賛することは、そういう表現を持っていないほかの地域を dis ることになるんだってことにそろそろ気づいて欲しい。

 正直、焦点がはっきりしない、という印象を持ってしまった。
 それはおそらく、これが第三回で前の二回を踏まえているらしいことと、俺がよそ者だからってことの二つが理由だと思われる。




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