Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第911夜

「しづがわ」補足



 こないだ南三陸町歌津に行ってきた。毎年恒例の MTB レースである。去年は指の骨折で欠場しているので二年ぶりとなる。
 レースに行くだけではつまらないので観光もするんだが、今回は気仙沼の「海の市」に寄った。
 再建されて随分ときれいになってはいるが、テナントはシャークミュージアムと「北かつ まぐろ屋」というマグロ丼の店だけ。周囲も工事中のところが多く、復興にはまだまだ時間がかかりそうだ。
 で、その「まぐろ屋」で飯を食ったのだが、おまけでシラスをつけてくれると言う。それが「」というイントネーション。
 つづいて魚市場で海の幸類を買い込んだのだが、そのときの店員さんのイントネーションも独特。でも、残念ながら覚えてない。ああいうときは、IC レコーダーを持ち歩いてずっと録音状態にしとけばいいのかもしれないな。

 実は「まぐろ屋」には「まぐろのカツ丼」を目当てに行ったのだが、「海の市」では出してなくて、田中前の本店に行かなきゃいけないらしい。
 今回は、長芋と海鮮という「バクダン」を食ったが、十分、上手かった。飯が冷たいのが面白い。刺身の変質を避けるためだろう。

 で、歌津の宿に向かったのだが、時間が早かったので、南三陸町を突っ切って神割岬に行った。巨大な岩がパックリと割れていて、領地争いを鎮めるために神様が雷を落として割り、そこを境界とした、という言い伝えがあるらしい。
   
 途中、「清水川駅」という看板を見た。もちろん、線路は震災で壊れたまま、BRT(bus rapid transit: 要するにバスによる代替運行) が行われているのだが、この駅の名前は「しずがわ」と読む。
 そこで思い出されるのが、先週取り上げた、横手にある「清水川」。「清水」を「しず」って読む地名は多いのかなぁ、と思ったが、そこではたと気づく。
 南三陸町は北側の歌津町と南側の志津川町が合併してできた町である。つまり、清水川 (しずがわ) は志津川 (しづがわ) にあるのだ。
 いや、Wikipedia によれば、志津川町は元「本吉村」で、本吉村は志津川村・荒砥浜・清水浜の三村が合併してできたものらしい。つまり、もともとふたつの「シズ」があったわけだ。
 さて、これが同じものだったのかどうか。清水が流れていたとすれば、その流域や近隣がそれぞれに「しみず」を名乗ることも考えられるが、清水川の「ズ」が「ず」であるのに対して志津川は「づ」である。これは、「四つ仮名」という言葉が示す通り、現在の標準語では同じ音になってしまっているが、方言によっては今でもこれを区別するところがある。つまり、「清水川」と「志津川」は昔は音が違っていたと考えるべきで、同じものを指しているとはちょっと考えにくい。
 一方、「四つ仮名」の同化 (「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」が同じ音になること) は東から進んだものであることがわかっているので、「清水川」「志津川」という地名ができたときにはすでにこの二つは同じ音であった、という可能性もなくはない。
 志津川の地名の由来の調べがつかなかったので、この件は棚上げにする。町史みたいな本があれば確認できるのかもしれないんだけどね。

 ついでなので、先週の補足をもう一つ。
 食材としての牛は「ギュウ」と呼ぶことが多いような気がする、と書いたが、「松阪牛」は「うし」だ、ってことを思い出した。
 ただ、多くの場合に「ギュウ」であるのに、松阪だけは「うし」と言っている理由がわからない。さらに、これについても、別に公式に決めてるわけじゃない、という情報もあり、ちょっと混乱が見える。
 この辺は、この記事が詳しい。子供が「(「まつさかうし」だと)生きてる牛みたい!」と叫んだエピソードは面白い。

 レースの後にはいつも抽選会がある。南三陸の海の幸がふんだんに提供され、アワビのトロ箱なんてのもあるのだが、俺は基本的にくじ運が悪いので、今年も塩蔵わかめである。だが、わかめの味噌汁は好きなので、むしろこの方がうれしかったりする。
 実は、一度だけアワビが当たったことがあるのだが、一人暮らしにはどうしようもない量だったので、帰りがけに実家によって丸ごと置いてきた。一口も食えなかったわけだ。抽選用だから痩せたものかとバカにしてたら立派なもので、おすそ分けしたご近所で大変に好評だったらしい。
 いいもん。レースに参加できるだけで満足だもん。




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