こばやしたけし氏の「秋田弁! 単語カード」に借りた文章、最終回。
「
ばがけ、んがー」は「馬鹿か、お前は (罵倒語) 」と説明があるが、ちょっと違うような。「
んが」は確かに「お前」だが、この場合、訳す必要ないんじゃないかな。「
ばがけ、んがー」一体で「馬鹿野郎!」のような。あえて言えば、「貴様!」「てめぇ!」とかそんな感じじゃないかな。
「バガケンガー」って言うとなんかの怪人みたいだな。
で、この「
ばがけ」なのだが、「
け」って何、ってことを調べてみた。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』で「
ばがけ」を当たると、「『ばか』に接尾辞の『け』がついたものである」としか書いてない。どういう接尾辞かが知りたいんだってば。
似たような意味の「
たぐらんけ」を当たったが同様。「『たくらた』と関係ある語か」とあるが、「たくらた」については説明なし。一方、「『たくらむ』に『け』という接尾辞がついたもの」という説も紹介している。なんじゃそりゃ、と思っていると「下手の考え休むに似たりと言うから、馬鹿者との距離は近いのかもしれない」とか薀蓄臭いことが書いてある。あんたは
新解さんか。
こっちが知りたいのは「
け」、埒が明かないので、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』に切り替える。こっちは、「タグランケのケと同じくののしりの意を表す接尾語で濁音化しない」と書いている。ほう、そんな接尾辞があるのか。
「
たぐらんけ」に行くと、こっちには「たくらた」の説明がある。中国の獣の名前で、ジャコウジカに似ており、ジャコウジカ狩りをしているとわけもなく出てきて、しかしジャコウジカではないので単に殺されておしまい、というオマヌケ様な動物のことだそうだ。
で、「ケ」については、「ケァシ」の変化か、とあるので「
かえし」を見てみると、これは「返し」で「鳥の糞」のことだそうな。つまり、「クソッ」というわけ。
そういや、厚かましい人のことを「
どぶてけし」と言うが、この「
けし」も同じであろう。
『秋田のことば』に戻ってみると、「
かえし」は載っているが、「けし」「け」については触れられていない。「
どぶてけし」には「卑語の意を帯びた接尾辞『けし』」という表記があり、やっと話がつながる。この辞書、語釈はともかく、連携・連絡がなってないんだよなぁ。
「
たぐらんけ」を調べていて気になったのは、全国で使われているこの語のバリエーションなのだが、神奈川や長野の一部で「
おたくらー」という形があるらしい。オタクの俺は、なるほどなー、と思ったことであった。いい歳して
ほじねーって、言われても言い返せないもんな。
その次が「
ばがしゃべすんなー」。「馬鹿な事を喋るな」って説明があるから、構造は見当がつくと思うけど、これも面白い成り立ちの語だよな。反対の「いいこと言った」という語はない。
「
はらつぇ (おなかいっぱい)」のローマ字表記は普通に“Haratsue”で、「
こでぇらいねー」の“Kodheraine”にあった
こだわりが見られない。
「
はらわり」の訳は「ムカツク」。上手い。
「
まがす」が「こぼす」。いや、これは一語で訳すんだとするとほかに方法はないからいいんだが、「
ドンブリをまがしたっ」という例文は気になる。「
まがす」の目的語には器は来ないような気がする。辞書の例は二つしかないが、「水」「おづけ (味噌汁)」と内容物である。
「
まなぐ」は「目」で「まなこ」の変形、というのは知っていたが、「目の子」ということから厳密には「瞳」を指すらしい。これが「目」を指すようになった。
というところで気になることもう一つ。
以前から、歌詞などにある「瞳を閉じて」というのは、瞳を自由に閉じたり開けたりはできないのだから間違いだろう、と思っていたのだが、ひょっとしてそうとも言えないのか?
というわけで、手元の辞書三冊
*1を当たってみたところ、どれも「瞳」の二番目の意味として「目」を挙げていた。そうか…。現状追認のような気もするが。
あれこれ書いてきたが、最後の語は「
んた」、意味は「嫌だ」。
この語の面白いところは、「嫌だ」という形から想像する使われ方を離れる、ということ。
「
んたがる (嫌がる)」「
んたぐなる (嫌になる)」という言い方もするのである。
ということで、売れ行きもよく話題になっているようである。
今回調べるのに使った辞典類は、2000 年代に数年おきのペースで発売されたものだが、最近は秋田弁関係の本の出版は大人しい。これを機会に、これみたいに楽しいのから真面目なのからたくさん出ればいいのになぁ、と思っている。
デスティネーションキャンペーン展開中で、
国民文化祭も近いんだしさ。