何度か紹介している、『あきた4こまち!』などの
こばやしたけし氏の、えっと…グッズ。

見ての通りの単語帳。作ったのは
くまがい印刷*1で、奥付も ISBN もないから「本」ではない。本屋でも売ってるが、各種メディアではお土産品という紹介もされている。前書きの部分にも (本じゃないんだけどね)、「言葉のお土産」てなことが書かれている。
土産物を売ってるような場所に行く機会がないので、そういうとこではどんな感じで売られてるのかは不明。
俺が買ったのは本屋だが、ご当地ものというくくりで、赤坂憲雄氏の本や、司馬遼太郎の『街道をゆく』の東北あたりの巻と一緒に並べられていた。
というようなわけで、いくつか単語を拾ってあれこれ書いてみようと思う。
トップは「
あいー」。呆れたときに出てくる間投詞。

という表記になっている、ということはこの単語カードはヘボン式ローマ字で書く、ということになる。
ローマ字表記がヘボン式と訓令式とあることは知ってたが、Wikipedia で確認してみたら、思ったより混乱状態である。確かに、駅名なんかどっちとも違うなぁ、とは思っていた(たとえば、神保町が“Jimbochou”と、‘b’の前だから‘m’、と英語風になっていることがある。「保」が“bo”で「町」が“chou”なのはどういう理屈だろう。旗本の神保氏からきている、という語源意識?)。
以下、「
あらげる (暴れる)」「
あんべわり (状況が悪い)」「
いがった (よかった)」と続く。用例は「
機嫌悪いからって、あらげるな」「
道がぬかるんで、あんべわりーな」「
テストが赤点で無くて、いがったー」と、ちょっと秋田弁色抑え目である。もうちょっと発音に忠実に書くと「
機嫌わりがらって」「
道 (みぢ) ぬがるんで」「
テスト赤点 (あがてん) でねくて」となる。よその土地の人が買っていくことを考慮したのか。小さいから、全体の訳は載せづらいだろうし。
単語帳だからか、語釈は一語で行われている。
「
うだで」が「不快だ」になっているが、「
うだで」はもうちょっと守備範囲が広い。嫌悪感、近寄りたくない、という感じなども含む。ここでは「学校のテストがつづく状態」を例に挙げているが、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は「車にひかれた動物の死体」も挙げている。
「
えふりこぎ」は「いい格好したがり」だが、イラストではユリが新しいスマホを自慢している (上の写真でちょっと見えている)。
これ、ちょっと違和感がある。辞典の語義を上げてみる。
三つとも微妙に食い違っているが、どれにも共通するのは「見栄をはる」ことである。新しいスマホで見栄を張るんだとすると、懐に余裕がなくて、本当はそんなもの買ってる場合ではない、というケースで、そのイラストだけでは情報が足りない。俺の語感はここが中心領域らしいので、違和感を覚えるのだろう。
「派手好き」や「自慢」はそのまま当てはまる。
『秋田のことば』の「
おんばくもの」は「枉惑者」と書くらしいが、『語源探究』にも『本荘・由利のことばっこ』にも載っていない。「枉惑者」をググったら、中国語の記事が一件だけヒットしたが、中国語故「枉惑者」という一単語なのかどうかわからない。
大辞泉によれば「枉惑」自体は、「道義に反する言動によって人を惑わすこと」という意味だそうである。ちょっと「
えふりこぎ」からは遠いような気がするが。
「
おがだー (あんまりだー)」の後にワンポイントチェックがある。
「
〜っこ」をつける、という話だが、「
〜っこ」は抽象名詞にはつかない、ということはかなり
前にした。「
雪っこ」はいいが「
寒さっこ」とは言わない。また、多少なりとも親しみのもてるものに適用される指小辞なので、「
酒っこ」はいいが「
アルコールっこ」は言いづらい。言うとしたら、化学系の仕事をしてる人くらいか。
「語尾に『
〜っこ』を」とあるが、「語尾」というのは活用する語の後部や文・文節の後部を言うので、細かいことを言えば、この使い方は間違い。
裏にもう一つワンポイントがあり、「秋田では『標準語』と『秋田弁』を TPO に合わせて使い分けする人が多いです」。これはポイント高い。何度も書いたことだが、方言主流社会では、標準語を使う、というのが敬語表現の一方法となる。
「
おがる (育つ)」は“Ogaru”と表記されているが、「
が」は鼻濁音である。ローマ字表記では鼻濁音と濁音をかき分けることはできない。「ん」の後に生じる鼻濁音なら“ng”と書くこともできるが、これはそうもいかない。
と、このあたりで紙幅が尽きるわけだが、まだ全 73 語のうち、11 語までしか到達していない。
商売の邪魔になるので一語一語、全部を紹介する気はないんだが、ちょっと端折った方がいいようだ。