Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第876夜

交通安全秋田弁川柳 13



 毎夏恒例、秋田県生活環境部県民生活課がやっている交通安全作品コンクール、あきた弁川柳の件。
 今年の応募者は 214 人。去年が 208 だから微増ではあるが、おととしの 230 には戻っていない。ここらあたりが水準なのかもしれない。
 潟上市の応募者が 10 人から 4 人と半減している。まぁ、おととしが 5 人だから、去年が多かったってことかもしれないが。
 上小阿仁村・藤里町・大潟村・東成瀬村からの応募者がゼロ、というのは今年も同じ。

最優秀賞
鍵よごしぇ飲んだら乗るなてゆってるべ
鍵をください酒を飲んだら乗るなと言っているでしょ
 似たようなのが前にもあったような気がするんだが。これとか。
 これもいつもの通り、標準語訳は丁寧な形になる。「よごしぇ」はそのまま「よこせ」であって「ください」ではない。どうしても丁寧にやりたいんなら「よこしなさい」だろう。
ゆってるべ」で別に問題ないが、「ゆってらべ」「ゆってだべ」という言い方もある。

優秀賞
田回りもせやみこがねでベルトして
田の見回り時も面倒がらないでシートベルトして
田回り」という語は初めて聞いた。意味するところはわかる。「畑回り」って語はないのだろうか。
 ググってみたら、「田回り」は 4,000 件ちょっと、「畑回り」は 3,600 件。ない単語ではないが、一般に使われている単語でもないようだ。逆に言えば、俚言形とは言いづらい感じ。
 シートベルトって、車に乗ったら、エンジンかける前にするべきなんだってね。確かに、駆動系に問題があれば、エンジンかけたとたんに事故が起こることもあるわけだからなぁ。

佳作
むりすんな人生のわっぱかまだ早い
無理するな人生を終わらせるのはまだ早い
わっぱか」「わっぱが」は秋田弁の中でも難しい部類に入ると思う。俺が単に意味を把握してないからだけなのかもしれないが。
 俺が知ってるのは「わっぱがしごど」である。「しごど」は「仕事」で、「わっぱがしごど」はいい加減な仕事という意味。
 掘ってみると、これはどうやら「割り当て」という意味らしい。『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は「割量」という語を紹介している。また、これも『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』も、「はかどる」の「はか」と共通している、と書いてある。「わっぱがしごど」は、「割り当てられた分だけをやってる、プラスアルファがない」という意味で雑なのである。
 で、この川柳の「わっぱが」だが、その人の人生についての「わりあて」で「そこで人生が終わる量」と解釈するより、それ以前に、「そこでおしまい」から「手遅れ」「どうしようもない」という意味がある、と『語源探求』に書かれている。そっちの意味だろうと思われる。
 選者は「わっぱか≠ヘ終わらせるの意味」と断言している。

飛ばしてもたいして変らねゃ着ぐじがん
スピード出してもたいして変わらないよ着く時間は
変らねゃ」が絶妙。「変わらないよ」ということで「変わらねや」という言い方もあるので、これを意図しているのかもしれないし、「変わらねぇ」の形を小さな「」で示しているのかもしれない。
 内容は、我が意を得たり、という感じ。70km/h を 80km/h にしたところで、到着時間は一割しか短縮できない。一方で、危険性が一割上がる、というのは大変なことで、しかも、俺の感覚ではスピードと危険性は等比数列の関係にあるので、全く無意味な行為だと思う。
 特に市街地。高速道路なら、スピード一割増なら時間は一割短縮だろうが、信号があってストップ&ゴーをしていたら、到底、一割には届かない。ガソリンの無駄である。
 ということで、最近は遅刻が多い。早く出ろ、って話なんだが、強迫神経症気味で、火の始末と施錠確認にものすごく時間がかかるので困っている。

ばげなたらわがる服着て反射材
夕方になったら目立つ服着て反射材をつけて
 標準語訳が苦戦しているのがわかる。「ばげなたらわがる服着て」+「反射材」という構造なので、口語形にしづらい。

わぎ見すな命どスマホどっち大事
脇見運転するな命とスマートフォンとどっちが大事ですか
 最近は、スマホの方が大事な人が多いようである。自転車なんかだと、よそ見かつ片手運転になるんだが、それが危険だってことがわからないお気の毒な人がたくさんいる。死ななきゃ直らない、のたぐいだが、直るのは本人だけで、多くの人はそこから学ばない。
 自分の愚行の写真をネットにさらして退学になったり職を失ったり訴えられたり、というのが続発しているが、「バカ発見器」とはよく言ったものである。

気付けでナ朝のひとごど事故ねエぐす
「気を付けてね」と朝の一言が事故をなくす
 効果のほどは微妙だが、ほんわりする川柳であることは確かだ。

 またすぐ見られなくなるとは思うが、一応、リンクを貼っておく…と思ったら、去年と同じ URL だった。内容が上書きされていることになる。過去は見せたくないらしい。








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