Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第823夜

方言はビジネスに効くか?




 また HDD レコーダーが「方言」で番組を拾ってきた。NHK の「めざせ! 会社の星」である。サブタイトルは「ビジネスに効く!? “方言”7つのテクニック」。
 司会はアンジャッシュ、ゲストは安田美沙子と日大教授の田中ゆかり。そういや『「方言コスプレ」の時代』も読んだんだよな。遅ればせながら、そのうち、取り上げたい。安田美沙子は、「京都弁で荒稼ぎ」と言われていた。前に NHK の「祝女」って番組の「恋する方言」ってコーナーに出てたな。

 ところで、人間が古いせいか、日本語をクォーテーションマークで囲むの、すげぇ違和感あるんだけど。
 違和感と言えば、この番組のナレーションで「違和感を感じる」と言っていて、これも気になった。

 では、番組の流れに沿って。

テクニック (1) 方言で場をなごませる
 福岡出身で、現在、神戸の中古車屋で働いている人が紹介される。「よか在庫」「ばってん走行距離が」など、要所要所で博多弁を使って、客のハートをつかんでいるらしい。「カワイイ」とか言われてる由。
 やっぱり、素が見える感じがするからなんだろうね。「弱み」が見えている、と考えると、客が優位に立つことになるし。
 でもこれっておそらく、神戸だからいいんで、大阪だったら難しいだろうなぁ。

テクニック (2) 「場面に応じて使い分ける」
 その人は、いよいよ契約段階になると、共通語オンリーになるのだそうな。間違いをなくし場を引き締めるためだとか。
 まぁ、知らない言葉を使って行き違いが起こるとまずいだろうねぇ。
 そういや、以前、職場に、相手と話をした後、「まず、わかりました」と言う人がいた。この「まず」は「ひとまず」の「まず」で、「とりあえず」に近く、「解決はしていないが、あなたの言っていることは理解した」という意味である。電話の向こうは東京のことが多いのだが、相手はどういう風に聞いてるんだろう、といつも思っていた。

テクニック (3) 「方言で親密さを強調」
 後輩へのアドバイスは博多弁混じり。
 行き違いはここでも起こると思うんだが、それは修正可能なんだろうな。見知った者同士だし。
 内容次第ではあるよな。車の説明をするときもそうだけど。緊迫した場面でうっかり方言を出すと、緊迫の度合いが一気に上昇、ってこともありそうな気がする。
 家に帰って、故郷の友人に電話。これも抑えめだったような気がする。テレビの取材中だからか、あるいはすでにベタに方言ではない、ということなのか。
いもひき」という語が登場する。字幕で「臆病者」と書かれていたので意味は分かるのだが、ちょっとググったところでは、用例がない。ハンドルにしてる人はたくさんいるが。
 島根県浜田市では、「恥ずかしがる」「引っ込み思案」という意味でつかわれる
『仁義なき戦い』にも出てくるらしい。西日本で広く使われるのかもしれない。

 青森出身の美容師が登場する。この人も方言ネタで客のハートをつかむらしいのだが、それを「方言トリビア」と言っていた。それ、民放の番組。
 また、「しゃべればしゃべったって――」かなぁ、と思ってたが、出てきたのは「おどばげままなにす」。「おじいちゃん、夕飯は何にしましょうか」。

 もう一人、金沢出身で、大阪大好きで大阪弁を一生懸命、使おうとする、という人。
 アンジャッシュの渡部が、「大阪の人が一番嫌うパターンでしょ」と突っ込んでいたが、それって広い認識なんだな。

テクニック (4) 「方言で個性を表現」
 ここで、「方言コスプレ」の話。
 方言が恥ずかしいもの、隠すものではなくなり、誰でも使えるわけではない方言の「価値」が上がった、という話。
 ゲストが方言で自己紹介をしていたが、なんか全体的に滑っていた。

テクニック (5) 「リアリティーにこだわれ」
 ATOK って、「北海道東北」ってまとめかたらしいんだけど、「めぐせ」ってやると何が出てくるんだろう。これ、津軽では「恥ずかしい」、南部では「見苦しい」って意味なんだけどさ。両方?
 あと、各地の観光地にいる「おもてなし隊」。番組では名古屋だったが、秋田でも「清原紅蓮隊」というのが活躍中。これは、前九年・後三年の役で滅亡した清原氏。
 源義家も twitter にアカウントを持っているが、どうやら秋田弁でしゃべってる模様。

テクニック (6) 「方言ならではのフレーズ」
 方言を話す自動販売機を開発したダイドーの苦心談。
 自販機の挨拶「今日も暑いですね。冷たいジュースでリフレッシュしましょう」の大阪弁バージョンで苦戦したらしい。
 三ヶ月かけて出した結論が、「ほんま暑は夏いねぇ〜!?ってつっこんでぇや」。
 これは上手い。「翻訳」として正しい。
 名訳としてよく『カサブランカ』の“Here is looking at you, kids”が「君の瞳に乾杯」になったことが挙げられるが、翻訳の場合、重要なのは内容を伝えることであって、形などは維持しなくてよい場合が多い。「ほんま暑は夏いねぇ〜」も、「冷たいジュースでリフレッシュ」という部分はなくなっているが、大阪の人の挨拶としては正しいわけである。

テクニック (7) コジマのテク
 岡山では、「〜じゃが」という語尾があるらしい。
 アンジャッシュの二人はどちらも八王子の人らしいのだが、しきりに「方言がない」と言っていた。東京の言葉の変化は西から入ってくることが多いので、方言がない、ってことはないはずである。
 言葉遣いを使ったネタが多いらしいが、地域差は苦手ってことだろうか。

 で、方言がビジネスに効くかどうかなのだが。
 にプレジデントの話をしたが、当然、そんなものはケースバイケース。今回の方言を生かした会社員達にしても、「わざとらしくて嫌」という評価もあったようだし。
 ダイドーのようなアプローチは今後も伸びて行くんだろう。方言グッズの範疇に含めてもいいのかもしれないし。




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