Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第814夜

洗濯機を再選択




 にあれこれ書いたが、結局、洗濯機を買い換えた。
 理由は色々ある。

 まず、融通が利かない。
 前にも書いたとおり、洗濯時間は 90 分・30 分・10 分の三通りしかない。マニュアル上は、独り者が一日おきに洗濯する場合、10分 コースでいいはずなのだが、すすぎが不十分のようで、洗い終わった洗濯ものからははっきりと洗剤の匂いがする。
 30 分など長めのコースで途中をスキップする、ということはできる。例えば、洗い・すすぎ・脱水が 10 分ずつだとしたら、5 分ずつで強制的に次の工程に進めれば 15 分コース相当になるが、それってちっとも「全自動」でない。
 10 分コースだと脱水も中途半端で洗濯ものが重い。洗濯とは別の簡易乾燥機能を使ってやっと、前の洗濯機で脱水したのと同じくらいになる。
 コースにはもう一つ問題があって、すすぎの工程は排水から始まる。しかもすすぎから先は蓋がロックされるため、風呂の残り水をすすぎに使うには、すすぎの工程に入り排水が完了して給水が始まったところで一時停止する必要があるのだが、ブザーが鳴るわけではないので、洗濯の状況をうかがっていなければならない。これまた「全自動」からは程遠い。
 この場合、一時停止からロック解除までに一分かかるので、バケツを持って待ってることになる。*1

 匂い。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は「かまり」を挙げている。古い形で「かむ」というのがありその変化したもの。
 ググってみると、兵庫の一部 (以下、「一部」は省略) で「かだ」、石川で「かざ」、中国地方で「かざむ (こっから動詞)」、長崎で「かずむ」、鹿児島で「かずん」というのが見つかるが、これ全部「かむ」「かまる」の変形だろう。これだけきれいに一種類という語も珍しいのではないか。いや、これしかないって言ってるわけじゃないんだけど。

 次に、うるさい。全自動は二槽式に比べると水槽が大きいからやむをえないのかもしれない、とも思うがちょっと許容範囲を越えている。ことに簡易乾燥機能がうるさかった。
 決定的だったのは、もう―つの騒音。
 つないである蛇口は全開にしてあって、開閉は洗濯機側でやるわけだが、このときにものすごい音がする。全開で出ているところを機械仕掛けで瞬間的に閉めると、その反動で水道管がドンと鳴るのである。水道管はアパートの建物の中を通っているので、洗濯機から離れた場所にいてもはっきりわかる。恐くて近所の人に「うぢほの洗濯機、うるへぐねすか」とは聞けない感じ。
 しかも、どういう洗濯ロジックになっているのか、30 分コースではすすぎの際に、ちょっと給水して止めて給水して止めて、というのを繰り返す。そのたびにドン、ドン、ドンと響くのである。10 分コースじゃダメだ、と思って 30 分を使いはじめてみたが、とてもじゃないが夜に回せない。
 蛇口が全開なのがまずいのかと思って、音が響かない程度にまで閉じてみたが、そうすると給水に時間がかかるようになる。その結果、タイマーだけが勝手に進んで、洗いやすすぎの時間が短くなってしまった。どうしようもない。*2
 押しボタンも反応が悪くて何度も押させられるなど、いいところがないので、三ケ月ちょっとで退場してもらうことになった。

「すすぐ」について調べてみると、「ゆすぐ」を方言だと断定している記事が山ほど見つかる。例によって、俗語感があるから方言だろう、というあれ。「すすぐ」も「ゆすぐ」も辞書にっている語で、どうやら「ゆすぐ」は「ゆする」と関連があるらしく、揺らして汚れを落とすことを言う語らしい。
 俺の語感では、洗濯ものは「すすぐ」もので、口に水を含んで食べ物のかすを落とすのは「ゆすぐ」である。食器はどっちだろうなぁ。
 俚諺形としては、「いすぐ」「よすぐ」「そそぐ」などが見つかる。「そそぐ」は俚諺形とは言いづらいかもしれんな。

 上記の諸々の問題は 7、8 万の洗濯機を買えば全て解消するのかもしれないが、そんなつもりは毛頭ない。

 リサイクルショップにそれを売り飛ばして、同時に二槽式を買った。店員が「どうなさったんですか」と聞いたのは当然であろう。洗濯機の悪口を言って買い取り金額を下げられても困るので、「いやぁ、うちのアパート狭くて」と言い訳をした。奥行きが 10cm 違うと結構、邪魔になるのは事実である。
 二槽式はシンプルでよろしい。量と汚れ具合を見て時間設定も思いのまま。そもそも以前から、全自動だったらいいなぁ、と思ったことがなかったのだから*3、全自動を買ったのがそもそもの間違いなのだ。
 正直言うと、これも意外にうるさい。冬まで使っていた二十年前のナショナルの二槽式は相当に静かだったのだなぁ。それでも、前の奴の簡易乾燥機能が、風呂釜を空焚きしてしまったときの様な音を発するのに比べれば大いにましてある。
 唯一の誤算は消費電力。
 全自動の奴の低格消費電力が、二十年前の二槽式の 1.7 倍だったのでかなりびっくりした。これも水槽が大きいせいだろう、と思ったのだが、今度の二槽式も大して変わらず 1.6 倍。これはどうしたことだろう。
 つまり、こと洗濯機に関しては、新しい機械のほうが省エネになる、というのは通用しないということである。高い授業料だった。




*1
 そのためのポンプが市販されているが、一度計算してみたら、給水に 10 分以上かかることがわかったのでやめた。洗濯に必要な水量はバケツで四杯。そんなの一分もあれば充分である。
 高い奴はもっと強力なのかもしれないが、それもあほらしい。 (
)

*2
 水が入っていたら給水をスキップする、という仕組みはあったようなのだが、給水が完了するまでタイマーを進めない、というようにはなっていないわけ。
 蛇口が閉まってて給水できない状態だったらどうなったんだろうね。あの感じだと水無しのまま回ったんじゃないかって気がする。 (
)

*3
 冬に、風呂の残り湯ではなく水で洗った洗濯ものを洗濯槽から引っ張り出して脱水槽に移動するときだけ思う。年に何回もないが。 (
)





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