Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第812夜

東京っぽい的な感じ




 こないだ御所野イオンで飯を食っていたら、俺の後から、男女が店に入ってきた。
 さして広い店でもないので彼らの会話が耳に入ってくるのだが、その男性の発話が「いかにも東京人っぽい」という感じがした。
 ふと、「なんで俺は『東京っぽい』と感じたのだろう」と思った。

 話している言葉が標準語なのは言うまでもない。
 スピードは、「ゆっくり」とは言わないまでも、落ち着いた感じである。発音も、「はきはき」というほどではないが、滑舌もしっかりしており、聞きやすい。声も高すぎず低すぎず。
 一言で表現すれば「垢抜けている」。
 おそらくこれが理由。「垢抜けている」→「都会的」→「東京っぽい」という連想。彼が、羽田空港について言及していたのも影響しているであろう。
 これで納得しかけたが、よく考えると一面的である。
「都会」には「せかせかしている」「早口」「乱暴」というイメージもあるはずだからである。
 その男性の発話が、標準語風の早口であったとしても、俺が「いかにも東京人っぽい」と感じる可能性はある。
 これは割と簡単に解決する。
 上で矢印を書いたが、この連想が一方向だからである。
「口調が落ち着いている」→「垢抜けている」→「都会的」→「東京っぽい」
「早口である」→「せかせかしている」→「都会的」→「東京っぽい」
 これはどちらも妥当な連想だと思うが、逆方向にすると:
「東京っぽい」→「都会的」→?「垢抜けて落ち着いている」
→?「せかせかしている」
 どちらも当てはまりそうで、いきなり迷うことになる。
 イメージってのはそんなものなんだ、ってことだろう。まったく正反対のイメージが並立している。おそらく、一人の個人の中でもそうだろうと思う。
「暑い」「寒い」みたいに事実とリンクしたイメージは別であろう。秋田が「暑い」土地だと思っている人はいないと思う。いるとすれば、秋田で夏を過ごしたことがあって「北国のはずだが意外に暑い」と思ってる人。尤も、こうなると実体験であって、イメージではないのだが。
 ただし、寒暑は相対的なもので絶対的な基準があるわけではない。北海道の人なら秋田に「(北海道より)暖かい」というイメージを持っているだろうし、沖縄の人はおそらく鹿児島について「(沖縄より)涼しい」と考えていると思われる。*1

 話は変わるが、科学系のテレビを見ていて「『小さい大陸』とは何事だ。日本語が間違っている。けしからん」と怒っている人を見たことがある。一文の中に大小が混在しているからだろうが、残念ながら、アメリカ大陸はユーラシア大陸より小さい、オーストラリア大陸は更に小さい、という大小関係はある。*2

 で、その男性と話していた女性のほうなのだが、「ひょっとして関西?」と思った。こっちはちょっと思っただけ。
 この根拠は、発音。
 イントネーションではない。これはしっかり標準語風だった。
 母音かと思って調べてみたが、Wikipedia で、「」について触れられているくらいで、そう顕著な違いがあるわけではないようだ。

 イメージの話。
 に、なんでも「こまち」って名前つけやがって、というような話をした。秋田を宣伝するとき、女性的なものは「こまち」で売ろうとすることが多い。反対に男性的なものというと、「なまはげ」。
 確かに、ネーミングが安易、という非難は外れていない。それしかないのか、って話はある。
 だが、これほど強烈なイメージを持った語もない。「なまはげ」と言われて、九州を連想する人はいないだろう(知らなくて青森や山形を連想してしまう人はいるかもしれないが)。「こまち」もしかり。
 上に書いたように、「東京」から「早口」と「ゆっくりした口調」のどちらも連想できてしまう、という曖昧さがない。これは貴重な武器である。
 ほかに秋田だと米とか酒とかがあるが、これは新潟もあれば兵庫(灘)もある。しかも強力。勿論、「米と言えば秋田」「酒なら秋田」と思ってもらえるようにする努力は必要だし、現にしているわけだが、「観光キャンペーン」のような対象を限定しない、広範囲のイメージ戦略を展開する場合、「なまはげ」「こまち」で統一する、というのはアリなのかもしれない。
 幸い、加藤夏希佐々木希のおかげで「秋田美人」の印象度はキープできているようではある。米と違って増産できるものじゃないけど。
 そういや、「ハンチョウ 5」の加藤夏希、出番は決して長くないけど、なんかすっごくいいね。別に制服萌えってわけじゃないのだが。




*1
 もっと実生活に即して言えば、例えば、北海道は寒い土地なので家の防寒対策がしっかりしている。南下するにつれて緩くなってくるので、「外はともかく家の中は暖かい」という環境で育った北海道民が東京あたりで「寒い寒い」と震えている、ということはある。
 この辺は、何度も紹介しているが「
御かぞくさま御いっこう」でよく取り上げられる。()

*2
「大陸」の定義は実ははっきりしてないらしい。「マダガスカル島より大きいのが大陸」だか「オーストラリア以上の大きさが大陸」だかいうのを聞いたことがあるのだが。
 固有名詞だからちょっと事情は連うが、日本で一番多い島の名前は「大島」だそうである。その中で一番大きい大島は奄美大島。一番小さい大島はどこだろう。複数ありそうな気もするね。(
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第813夜「右と左」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp