Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第738夜

きざみうろん



 こないだ大阪に行ったときの話。

 @nifty がまだ「パソコン通信」に「フォーラム」を持っていたころ、「ビジネスマンフォーラム」の全国オフで行って以来。2000 年のことで、なんと 11 年ぶり。その数字よりも、11 年前には俺は既に物心ついていたのだ、という事実には、いい年こいてしまった今でもびっくりするな。
 今はなき JAS で行ったのだが、たしか往復で 5 万くらいかかったはずである。
 今回は ANA. これは羽田で乗継がある。
 本当は、まだ前を通過したことしかない大館能代空港だと直行便があるので、それを利用したかったのだが、断念した。*1
 俺は秋田市在住なので、鷹巣にある大館能代空港に行くには、車か列車を使うことになる。車だと二時間くらいかかるのだが、行きはともかく、遊び疲れて戻ってきてまた二時間も運転というのは嫌だった。レンタカーで行って空港に乗り捨てて列車で帰ってくる、ということも考えたが、乗り捨てした場合の料金が往復 (つまり二日) 使ったのと大してかわらず、あほらしてやめた。
 そもそも列車がどうかというと、大阪便との接続が恐ろしく悪い。バスへの乗り換えを大館でするにしろ能代でするにしろ、大阪便とつながる特急がない。各駅停車で行って鷹巣でバス、しか手がない。確かに、県北にある空港なんだから秋田市と接続は二の次なんだろうけど、観光振興する気あるのか、と思ってしまった。
 なにより、飛行機の運賃。秋田空港−羽田が往復で 3 万というのに、片道 3 万超というのはつらい。
 だが、パックというのがある。どういう収益構造になってるのかは不明だが、往復 7 万のところが、宿代も含めて 4 万くらいになる。
 これはこれで問題があって、発着空港が同じでなければらない。大館能代から羽田へ行って、羽田から秋田空港ということができない。さっきはああ書いたものの、空港から家まで二時間かけて帰ってくる、というのも気乗りしない。結局、じゃまくさくなって、秋田空港から羽田乗り継ぎってことにした。長い前置き終わり。

 前回は関西空港を利用したので、伊丹空港は初めて。到着出口のすぐ横に売店があって、ローカル色を感じる。そこからリムジンバス
 リムジンの運転手のイントネーションは標準語だったが、バスと本部との無線では時折、大阪弁になる。例えば、「了解です」が「りょうかいですー」とちょっと伸びて、かつ平板。

 第一目的地は堺市立文化館。アルフォンス・ミュシャの美術館がある。俺の理解では、そこに行くには天王寺から JR で行くのが最も簡単 (一番早いのかどうかは知らないが、田舎者なので、乗り換え回数は増やしたくない)、ということでバスはあべの橋へ。
 降りた途端に大阪弁が耳に飛び込んできて、ちょっとうれしくなった。俺、前に来たときは、「ほとんど耳にできなかった」とか書いてるけど、何を聞いてたんだろう。

 昼は駅うどん。ここで大阪弁を耳にできなかったのは、みんな一心にうどんをかっこんでるから。
「きざみうどん」という、油揚げを細く刻んだものを入れたうどんは、はじめての食感。なお、俺は東日本出身だが薄味も平気である。

 美術館の受付の女性は、語彙こそ標準語だが、イントネーションは完全に大阪弁。ひょっとして、意図してそういう味付けでやっているのだろうか、と思ったくらい。
 予想外に小さな美術館での鑑賞を終えて天王寺に戻る。宿へ行くには地下鉄に乗る必要がある。
 前に行ったときにも一緒だった知り合いに言わせると、「東京の山手線内と同じくらいの駅が、それよりも小さい範囲に詰まっているので、おそろしく便利」ということらしいのだが、天王寺と宿の最寄り駅とは、四角形の対角線上の頂点みたいな関係にあって、ルートはいくつか考えられる。さて、どうやって行ったもんかと自販機上の路線図を眺めていたら、駅員が話しかけてきた。
 素人考えのルートが早いかどうかを確認すると、その駅員の最初の答えが、「いえ」。
 否定である。普通、客商売のときに、そういう入り方はしないと思う。「そうですねぇ」とか「○○駅ですと」とか言ってやわらかく受けるのではないか。
 ただし、これがまったく不愉快に感じられない。
 早い行きかたを教えてくれた口調も、おそらくはやわらかめの大阪弁で、その駅員の顔がどことなく漫才師風 (誰かに似てる、と思ったのだがもう忘れた) だったこともあいまって、聞きながら笑いそうになった。

 昼飯 2 は牛筋カレー。カレーの辛さと牛筋の甘さが溶けあって面白い味わい。
 なんで「昼飯 2」なのかと言うと、こういう旅行の場合、一便に乗るために五時起きで朝食抜きとか、効率よく遊びまわるために優先度を下げる、時間もかけたくない、というようなことで、食事はファストフード系になることが多い。さらに、立ち食い系が好き、という俺の好みもあって、一回の量が少なく、しかし回数が増える、ということが多い。それも楽しみのうちだったりする。
 会計したときに、店の主人が「おおきに」。
 その夜、別のうどん屋に寄ったときも、「おおきに」。
 これこれ。
 実に自然に出てくる「おおきに」。カタカナ系の店を除くと、ほとんどの商売人がすっと「おおきに」と言う。いや、ネイティブなんだから当たり前なんだけど、その当たり前が旅行者にはうれしい。
「カタカナ系を除く」と書いたが、コンビニのお姉ちゃんも、美術館の受付の人と同じ。イントネーションが大阪弁。まぁ、この辺は人によるようだが。

 長くなってしまったので、つづく。




*1
 大館能代空港には「あきた北空港」という愛称があったはずだが、このサイトではあんまり使われていないようである。運営しているのは大館能代空港利用促進協議会。 (
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第739夜「りょくちこうえん」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp