めでたく万城目学作品を読破した。
前に『
プリンセス・トヨトミ』について書いたことがあるが、それが最初で、そこから『
鹿男あをによし』『
鴨川ホルモー』『
かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『
ホルモー六景』と来て、エッセイ集の『
ザ・万歩計』でクリア。
と、断言するのはあれかと思って一応確認したら、案の定、『
ザ・万遊記』というエッセイ集もあることがわかった。入手しなければ。
最近、好んで読んでいる作家では、坂木司の『
和菓子のアン』が未入手、三崎亜記の『
コロヨシ!!』がもうすぐ着手というところ。
坂木司は一発目の『
青空の卵』でもってかれてしまったが、三崎亜記は『
となり町戦争』から若干の違和感を抱きながら読んでいたのが段々合うようになってきた。映画は面白くなかったなぁ。
で、万城目学である。
本人は大阪出身で、『プリンセス・トヨトミ』の舞台は大阪、『鹿男あをによし』が奈良、『鴨川ホルモー』が京都と近畿が舞台になることが多い。その割に関西弁があんまり出てこない、ということは前に書いた通り。
作者は、テレビ シリーズの「鹿男あをによし」の DVD で、オーディオ コメンタリーに参加しており、大阪弁を使うとお笑いのイメージになってしまうので使い辛い、と発言している (詳細は違ったかもしれない)。それはそれで一つの感じ方である。
奈良の方言にお笑いのイメージはないが、奈良弁の児玉清とか綾瀬はるかだと別の色がついてしまうような気はする。
『ザ・万歩計』では、「大阪弁について私が知っている二、三の事情」で方言について触れられている。
「震わして」と「震わせて」はいいとして、「すごい」についての部分が興味深い。
とあるインタビューで、「すごい面白い作品を書きたい」と言ったのだそうである。これが活字になったとき、「ものすごい、かつ、面白い作品」という意味になっていてびっくりしたそうだ。
万城目氏は「すごく面白い作品」という意味で「すごい面白い」言ったのだが、この言い方は昨今、ごく普通である。「すごい」は形容詞ではなく副詞として使われるようになっている。むしろ、記事にした人が「すごく面白い」と解釈しなかったのはなぜだ、と思う。
で、万城目氏、これは「
ごっついうまい」「
えらい安い」などと同じ、大阪弁の特徴だと考えている。
この説明が言語学的に正しいのかどうか、俺にはわからない。だが、個人個人の発話として、大阪弁の表現にひきずられて「すごい」を副詞として使ってしまう、というケースはあるだろうと思う。
Wikipedia では「
日本語の乱れ」という項目で、この「すごい」を取り上げて、関西では「
えらいびっくりした」などの形があることを付記している。
「白い花」というエッセイには、「
ぎゃらしい」という表現が出てくる。文脈でおおよその見当はつくが、説明なし。
ググってもあんまり出てこない。いや、用例はあって「いやらしい」という意味らしいということはわかったのだが、方言として解説しているページがほとんどないのにはちょっと驚いた。
「
ばんぎゃらしい」という表現もいくつか見つかったのだが、これはどうやらその「
ぎゃらしい」とは違う語のようだ。若い女性が使っているみたいなのだが、「
バンギャル」のことだろうか。
『ホルモー六景』は『鴨川ホルモー』の続編、というより姉妹編である。
これもちょっと方言に絡んでいるのだが、それにはまず「ホルモー」とは何か、ということを説明しなければならない。
京都が舞台のこの世界観では小さな鬼がいる。鬼に選ばれた人たちは、そのための言語を習得して鬼同士の戦いの指揮官もしくは補給係となる。「ホルモー」とはその戦いのことである。
『ホルモー六景』の第五エピソード「丸の内サミット」では――
ここからはネタバラシになるので、未読の人は戻って欲しい。
――かつて京都で死闘を繰り広げた男女二人が大学を卒業、東京で会社員となっており、どういうわけか合コンで再会する。
合コンというからにはもう一組の男女がいるのだが、東京の大学を卒業しているはずのその二人も実は「ホルモー」経験者であり、京都組の二人は、東京組の二人が鬼を使役しているところを目撃してしまう。
物語としては、東京でも「ホルモー」が行われている! というのがポイントなのだが、その使役しているときの言葉が:
どうんどぐぅぁ、げっぽ、げっぽ、げっぽ
である。
だが、京都組が使っていた言葉は、最後が「
げっぺ、げっぺ、げっぺ」だったのだそうである。
つまり、「ホルモー」の鬼を使うための言葉にも地域差がある、という話。
『プリンセス・トヨトミ』が綾瀬はるか主演で映画化と聞いて驚いたのだが、綾瀬はるかは誰をやるんだ? 主演ってことは、松平? ちょっとキャラ違わね? ま、続報を待つか。