Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第696夜

出動せざるをえず - My Old NX (5)




 ハイブリッド車というのが一般的になる頃から、買い替えについて考えるようになる。自動車税が割り増しになるような古い (つまり、燃費も悪く環境負荷が高い) 車に乗っていていいのか、という疑問と、だからと言って、まだちゃんと走る車を捨てて買い換えることがいいことだとも思えない、というところで揺れていた。
 まぁ、去年までは後者の方の結論になっていたわけだ。だって好きなんだもの。
 それに、そそる車が一台もなかった。
 に書いたとおり、楔形以外は興味をもてないわけだが、現代の車は安全性確保のためにボンネットも運転席も高くなっている。つまり、新車で楔形など望むべくもないのだ。
 それに全体にでかい。自分の運転を信用していない俺の場合、大きな車は選択肢に入らない。カタログとかホームページとかだと、周りの風景なしで車だけの写真があったりするが、そうして想像する大きさよりも、実際の方は遥かに大きかったりする。縮尺おかしくね? と思う車が増えた。
 小さいのは小さいので丸っこくてオッサン向きでない。
 というわけで長らく放置してあったが、第二の伏線が去年の秋。車検時のことである。
 終わった後、車屋が言うには、下面にちょっと錆が見られるので注意しててください。すぐにどうということはないので、来年の 12 ヶ月点検まで様子を見ましょう。
 そのときは、なるほど来年ね、という程度にしか思っていなかった。まぁ、20 年近く経ってるしねぇ、というくらい。

 まだ買い換えるつもりもないままチラシだとかホームページを見ていて、候補に挙がったのはいくつかある。
 ホンダのインサイト。
 フォルクスワーゲンのポロ、ゴルフ。ルポだとさすがに自転車が載らない。デザインだけで言ったら圧倒的にシロッコだが、高いし、コンセプトが俺のライフスタイルと全く合わない。
 二代前のプジョー。現行は口がでかすぎて苦手。
 スズキの SX4.
 マツダのデミオ、アクセラ。現行車種で唯一、楔形といえそうなスタイル。
 スマートクーペってのも特撮的でよかったが、これも自転車が載らない。

 車のフロントは生き物の顔に見えるから不思議である。ライトが目に似た配置になっているのが決定的な要素だろうか。
 だからフロントグリルが口って感じ。
 フロントグラスに目を描いたアメリカのアニメ映画がなかったっけか。

『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば、「むがちら」という語があるらしい。「顔」のことなのだが。「向こう面」で、「卑称」だそうだから悪口。「なんだそのツラは」という使い方をする。
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は、由利地方の「むかかしら」という形を紹介している。これは「頭 (かしら)」なのだとか。
『秋田のことば』では、「つら」はもともと「頬」のことだったのだが、後に顔のことになったとしている。
 ググっても面白そうなのは見つからなかったが、ノイズが多いせいもあろう。一字の語は扱いが難しい。
「口」はもっとノイズが多いので早々と調査を諦めた。
 なお、顔面はこんな感じになる。
げほ
このげこのげ
まなぐまなぐ
ほた(鼻)ほた
(口)
おどげ
 なんで耳口鼻は明確な俚諺形がないんだろう。その癖、「あけ゜(口腔上部)」なんてのはある。

 事件が起こったのは 12 月。
 普段、車のケアを何もしないもんだから、年に二回くらいは、ということで冬前後のタイヤ交換は自分でやっている。今回もどっこらしょとジャッキを入れてグイグイと上げていった。
 しかし、上がりきる前に、メキメキメキと音を立てて車体が落ちてきた。ジャッキポイントが腐食していたのである。車はいが俺の顔が真っ青になった。
 あの日もチラチラと雪が降っていた。平日は交換できないから、その日を逃すと一週間後ということになる。どうでもその日のうちにやらないと、修理に持っていくこともできなくなる虞がある、と思った。
 そこで俺がどうしたかというと、車屋ではなく、ピットを持った用品店にタイヤを積んで行ったのである。つまり、タイヤを交換することを優先させたわけだ。車屋で見てもらう、という発想はなかった。
 パニクっていたのは事実である。
 おそらく、気になる車の登場によって、買い替えというのがいくらか現実味を帯びていたからであろう。修理しないという選択肢もある、という意識があったのに違いない。
 不思議なことに、タイヤ交換した人には何も言われなかったが、ジャッキポイント付近に木の板をかまし、重さを点ではなく面で支えるようにしたらジャッキでも上げられることを確認、数ヶ月ならしのげる、と判断してまじめな候補車のリストアップに着手した。

 さて、俺は何を買ったのか。
 いよいよ次週。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第697夜「出京の折 - My Old NX (6)」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp