Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第690夜

あきたは入っているのか



 こないだ (2/12) のでまた「あきたを入れる」が紹介されていた。
 俺が前に触れたのは約 3 年前である。
あきたを入れる」というのは、昆布を薄く削るために、包丁を曲げることである。つまり、刃物の断面は刃に向かって薄くなっていくわけだが、その先が直角に曲がっている。これだけではよくわからない場合は、このページを見て欲しい。ここの昆布屋さんが魁に紹介されていた。
 つまり、その先っちょでスーッと引っ張ると極薄の手すき昆布ができるわけである。
 で、これをなんで「あきたを入れる」と言うのかは不明。
 北陸では「アキタという名前の職人が考えた」とされ、大阪の堺では「秋田の加工場で、子どもが刃先を茶碗の欠片でなでたらうまく削れて広がった」と言われている、らしい。

 で、どうも俺が書いてるのと違う。
 前は、その包丁のことを「あきた」と言うかのように書いてある。だが、今回の記事や上で紹介したページを見ると、包丁を曲げることを「あきたを入れる」と言うのであって、包丁自体のことではない。
 3 年前の記事をなんで取っておかなかったのか悔やまれる。

 今回の記事に寄れば、この「あきたを入れる」は「全国の職人の間で」使われているらしい。
 で、勇躍ググってみた。
「あきたをいれる」 4 件
「あきたを入れる」 5 件
「アキタをいれる」 0 件
「アキタを入れる」 1 件
 なんじゃそりゃ。全国で使われてるんじゃないのか。
 3 年前もこんなもんだったぞ。確か、照井昆布のページはその頃もあったと記憶しているが、あんまり数が少ないからリンクは張らなかったのだ。*1

 で、ちょっとキーワードを変えてみる。「とろろ昆布 AND 包丁」。
 これで、いくつか「秋田」が出てきた。
KOMO のこんぶページ」に、昆布の「手加工の歴史」という記事があるのだが、ここでは「アキタをかける」「アキタを引く」という言い方をしている。
 また、「をぐら屋」という店では、「匠の技」で、包丁の先を曲げるための金属片を「秋田」と読んでいる。かけたり引いたりするのであれば、その方が理屈は通る。
 なお、どちらも大阪のようである。

 厳密には「とろろ昆布」と「おぼろ昆布」は違うものらしい。「おぼろ昆布」に入れ替えてみると、「昆布の昆布こぼれ放し」が見つかった。こちらは、大阪の職人が秋田に芝居の一座と一緒に来て、という前に書いた話をもう少し詳しく書いている。
 それにしてもなんで「小倉屋」ばっかりなのだ。

あきたを引く」にすると、「おぼろ昆布」が見つかった。小倉屋ではなかったがここも大阪。
 堺の包丁製造技術とあいまって、というような説明もあるようだ。

 でも、この辺りが限界。いや、丁寧に見ていけばもっとあるのかもしれないけども。単に「昆布 AND 秋田」と入れたのでは、オンラインショッピングでの送料の説明がヒットしたりしてノイズが多いのである。それを除去したとしても、山ほどということにはならないようである。
 全国で使われている、というのが本当だとすれば、考えられる理由はただ一つ。
 そういう人たちがネットを使ってないのであろう。乱暴な言い方をしてしまえば、「職人」という種類の人たちとネットとの間の親和性が弱い、ということが考えられる。
 これは割と納得性がある。頑固一徹の職人が夜に仕事を終えた後、mixi で日記書いてるとか仲間との会合で BlackBerry 取り出すなんてイメージはかなりミスマッチな感じがする。いたらごめん。

 もう一つ可能性があるとすれば、単に説明してないだけ、というケース。
 勿論、オンラインショッピングのサイトを開設する場合、その作り方は重要なコンテンツだが、刃先が曲がっているとか、そのための道具だか行為だかを「あきた」と呼ぶということは細かい専門的なことなので書いてない、ということはありそうな気がする。
 でも、「なんでそう言うんでしょうねぇ」というようなことはフックとして使えると思うから、なんで書かないんだろう、とは思うけども。

 まさか、そういう作り方が必ずしも多数派じゃない、ってことはないよねぇ…。




*1
「秋田を入れる」にすると、サッカー選手の起用の話題になってしまう。(
)





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