さて、擬態語である。
擬音語なら元になる音があるからまだしも、擬態語は理屈で説明できない、と
先週、書いた。つまり、それぞれの語形には必然性がない。言語には「恣意性」があり、そもそも必然性がないが (逆に言えば、擬音語は必然性がある稀な例ということになるが、それでもバリエーションが山ほど生じる)、この場合、方言間で容易に衝突するのではないか、と考えた。それをチラっと確認してみたい。
「
あだあだ」
単語は『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』の副詞のページから拾う。
この語は「
あんだあんだど」と表記されている。旧雄和町で使われた「ゆっくり」という意味の語らしい。
ここでは「
あだあだ」でググってみた。
さっそく山梨の「
あだあだする」がヒット。浮かれて軽い調子だ、という意味らしい。
かと思うと、島根の「
あだあだする」は「ぼんやりする」だそうだ。これは「
あんだあんだど」との接点がある。
「
もそかそ」
これは「のろのろ」。それにしても、『秋田のことば』ってどういう基準で語順を決めてるんだろう。いや、意味が近いのが並んでるのはわかるが。
青森の下北で「もそもそ」という意味で使われている模様。身じろぎの類ね。
そうかと思うと、お膝元の秋田は鹿角地方で「むずがゆい」という意味で使われている。
「
えこらまこら」
同じく「のろのろ」。
これは『秋田のことば』内部で似た形が見つかる。「
えこらもこら」で、言葉がとげとげしい様子だそうである。スーパーのレジなんかで前に並んでる人が「
えこらまこら」だと、こっちの言葉もつい「
えこらもこら」になったりするわけだ。
困ったことに「
えこらまこら」と「
えこらもこら」は使用地域が重なっている。衝突しなかったんだろうか。この本は調査の結果をまとめたものだから、時代が違う、ということもないだろうし。
「
ぼっちり」
今度は「急に」。「
ぼっと」という語形もあるが、こっちはいかにも「突然」な感じがする…と思うのはネイティブだけか?
土佐では「丁度良い」という意味だそうである。量だけでなく、タイミングについても使う模様。
そういう酒があるらしいが、それだけでなく、ホテルの宿泊プランや飲み屋のコースにも使われている。
かと思うと、茨城の古い方言では「少し」という意味になるそうだ。
「
ごっぽ」
これも「急に」。ただし廃語マークがついている。
庄内では、これは「体の垢」を指す幼児語らしい。体のしわに溜まっている垢やゴミ、というような説明も見かけた。
新潟ではゴボウのこと。
また、金沢では下駄の歯の間につく雪のことを言う。これをかきとるため、道に設置してある石を「
ごっぽ石」と呼ぶ。
強調表現として使われている例はたくさん見つかる。
「
わらわらど」
急いで、さっさと。
岩手、山形、新潟あたりにも見られる。なんかの本で読んだんだが、柴田理恵が芝居で、謎の呪文として「
わらわらままけはー」という表現を使ったらしい。これは「さっさとご飯を食べてしまいなさい」という意味。
実は「
わらわら」で「一生懸命」というのもある。これまた「
わらわらど」と使用範囲が重なる。
現在の語感としては、虫など小さいものがたくさん飛び出してくる様子、って感じがするのだが、それは俺だけか?
「
ややど」
これも「急いで」。
聞くところによると津軽ねぷたの掛け声「
やーやどー」はこれだそうである。
だが、言い方がゆっくりしているので、とても急いでる風には聞えない。
俗に、津軽ねぷたは戦に出るときの祭り、青森ねぶたは凱旋の祭りなんて言われるが、その辺りが関係あるのかしらん。
話は変わるが、これを調べているとき、「
ややど真ん中」というような表現をいくつか見かけた。
「やや」とぼかしているのに「ど真ん中」って。
「
べっちゃ」
これは「ぺっちゃんこ」。説明する語の方も擬態語である。
淡路島では「
べっちゃない」で大丈夫という意味らしい。兵庫県南部地震の慰霊碑は「
べっちゃないロック」と呼ばれる由。
能登では「違う」という意味だそうである。「別や」という解説を目にした。
「
べっちゃり」という形もあるが、勿論これは、他の地域、というか全国共通語としては、すっかり濡れてしまっている様子を言う。
最後、「
そっこど」。
他の地域はともかく、「こそっと」を並べ替えただけであるのが不思議。音韻交替?
衝突しまくりであることを確認しつつ、紙面が尽きた。
多分、つづく。