Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第660夜

好奇心が爆発



 こないだ、本屋に行かなくなった、と書いたが、全く行かないわけでもない。で、久しぶりに行ったところ、方言に関わる本をいくつか見つけた。駅前の本屋なのだが、駐車券がもらえるくらい買ってしまった。
 そのうちの一冊、『東北ことば (読売新聞地方部、中公新書ラクレ)』。
 発行が 2002 年だが、読売新聞とあることでわかるように新聞連載で、それは 2001 年。まぁ、相当に昔のことである。NHK で「ふるさと日本のことば」をやっていたころ。いくつか、両方に登場している話題もある。

 文章は 4 種類ある。
 連載記事、有名人のインタビュー、方言を使ったスキットの紹介、ミニ百科である。
 まずは「ワンポイント方言」というスキット紹介から語彙をいくつか。
 新庄の「しゃこまぶり」は、ネットの紹介例なし。「白粉まぶり」で、由貴で真っ白になっている状態らしい。
 相馬の「ちゃっぱ」は手拭。「福島県の浜通り北部のみに分布する比較的新しい語」とあるが、「週刊ことばマガジン」の記事によれば、関連する語は「和英語林集成 (1867)」に見つかるそうな。
 仙台の「ほでなす」は、ここでは「忘れる」とされているが、ネットではほとんどが「ろくでなし」「バカ」と説明している。意味が変わったのか?
 また、和歌で本来の題材からそれることを「傍題」と言うらしく、それに語源を求めているが、「忘れる」からはちと遠くないだろうか。
 ぎょっとしたのは、北上の「墓がり」。もとは「墓上がり」で、仕事が終わったあとに先祖の墓参りをしたことから、仕事を終えることを言うらしい。逆に、仕事を始めることを「墓降り」というのだとか。
 一方、「墓上がり」について調べてみると、姥捨て山の話がたくさん見つかる。ひょっとして遠まわしに表現している?
 福島の「こじゅうはん」は「おやつ」。「小昼飯」なんだそうだが、漢字の音読みが方言になるというのは、あんまり多くないんじゃないかな。
 同じく福島で、「きなす」は「梨」のこと。「なす」だけでは「茄子」と区別がつかなくなるから「木梨」としたものだが、大阪の泉州では「水茄子」以外の茄子は「木茄子」と呼ぶ、という話もあるようだ。

 次、「ミニ百科」。
 福島・檜枝岐村の言葉は、周囲とは異なる特徴を持っているため、「うぐいす言葉」と呼ばれる、と書いてあるが、この意味がわからずググってみたところ、「聞こえるけど、何を言っているかわからない」という意味だ、という記事を見つけた。そりゃ、表現をぼかしたくもなるわ。
 ひでぇ話だと思ったが、落人伝説のある土地なので、それも関係あるのかもしれない。
 もう一つ、「言語の島」として、山形市の香澄町弁も取り上げられている。浜松から転封されてきた水野家の言葉らしい。今はもう確認できないとか。そりゃそうだろうね。
 最後、仙台弁、「気づかない方言」の典型例として取り上げられる「ジャス」。若年層での使用率は下がっているらしい。どうする、仙台。

 さて、連載。
 盛岡での方言カルタを使った授業の話。最初は戸惑っていた小学生達も、日常会話で使うようになったとのこと。それを担当の教師が、「好奇心が爆発したような学び方」と表現している。
 それはそうだろう。好奇心が服を着て走り回っているようなものだから、ものすごい吸収力であろう。読んでいるこちらの頬も緩む。
 一方、「方言とわたし」という、有名人へのインタビューへの節で新沼謙治が「後から、『方言は大事だ』と教えるようでは遅い」と述べている。それもまた正しいだろう。子供達にとって、最も身近な人たちである親兄弟が方言を使っていなければ、それが血肉となることを期待することはできない。「好奇心の爆発」というのは勿論、肯定の表現ではあるが、「好奇心」の対象であるということは、生活に根ざしていない、ということでもあるのではないだろうか。
 大館鳳鳴高校図書委員会は毎年、「大館のむがしッコ」という民話集を販売しているらしい。若年層のことで自分達の中に伝統的な方言はないだろう、と思われるのだが、祖父母の言葉は「まだ耳に残っている」ということでさほどの苦労はないらしい。
 この三つのエピソードは有機的につながっていると思う。
 残したいのであれば、まず大人が方言を使うべきなのである。確かに、子供や孫には通じないかもしれないが、それはどこかに残る。そのことが、なんらかのきっかけで芽吹いたり爆発したりする。方言が消えていく、と嘆くより先にそっちであろう。

 長くなったのでこの辺にするが、演劇を取り上げた話題で、「芝居は標準語でやるものだ」という反対意見が必ず出る辺りも興味深い。
 文章も読みやすく、手軽なので手にとってみてはどうか。
 その後の経過などはネットで調べることもできる。紹介されているホームページがなくなっていたり、会社名が変わっていたり、終了した番組があったり。そうかと思うと、当時よりも活躍の場を広げている人がいたり。そういう読み方も面白いだろう。




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