Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第658夜

ネイガーにらんき



 業爆状態が一向に解消されない。解消されないどころかむしろ悪化している。最近では、家に帰ってメールチェックしながら舟をこぐ有様。
 その場合、影響を受けやすいのは読書量である。
 就寝前の読書時間は短くなり、昼休みも睡眠時間に当てるのでそこも削られる。
 こないだ積ん読の山がやっと減ってきたので追加の本を注文したのだが、前回の注文控えを見てビックリ。3 月だった。一山減らすのに 4 ヶ月もかかってやがる。
 山解体が遅れる理由としては、そうやって買った書籍のほかに定期購読してる雑誌があったり、すっかり足が遠のいてしまったリアル書店で本を見つけてその場で買ったりすることがある。
 そのうちの一冊が、「『超神ネイガー』を作った男」。
 文字通りで、「超神ネイガー」を作った人、あるいは、ネイガーの「中の人」、海老名保氏が書いたもの。
 ネイガー誕生の裏話というより、帯の「地域ビジネス成功の秘密を全公開!」という煽り文句が示す通りの内容で、まぁ、純然たるヒーローファンにはちと肩透かしかも。

 見たところ、秋田弁はほとんど出てこない。ネイガーの台詞やネーミングを別にすると、二ケ所のみ。
 一つは、氏が子供の頃に食らった小言、「テレビばり見でねで勉強せ」。
 意味はわかると思うが、「ばり」が強烈に秋田弁。「ばっかり」だが、「ばっかり」に「ばっかし」というバリエーションがあるのと同じように、「ばり」には「ばし」もある。
 どうやら「ばっかり」とイコールと考えていいようで、この例のように限定の意味もあるし、「わずかばかり」と同じ使い方もある。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』や『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』で調べてみてビックリしたのは、「少し」という意味の「ばっこ」がこれの変形だということ。「ばり」に指小辞の「こ」がついたものらしい。地域によっては、「びゃっこ」「べっこ」などとも言う。

 もう一つの秋田弁。
 海老名氏はヒーロー熱が高じてプロレスの道に進む (そういう人は多いらしい)。そのときに怪我をしてプロレスの道は断念せざるを得ないのだが、後遺症に苦しんだらしい。ただ、今はもう出ていないのことで、それを:
   そったものわらしがたのらんきの声でどっかさいったんでねーが
 と述べている。最初に読んだときは、平仮名ばっかりだったこともあって読み流したのだが、改めて読み直してみて、知らない単語があることに気づいた。ちなみに:
   そったものわらしがたのらんきの声でどっかさいったんでねーが
 と切る。真ん中の「らんき」である。
『語源探求』によれば「心が狂い乱れたようになること。無我夢中」、『本荘・由利のことばっこ (本荘市教育委員会、秋田文化出版)』は「夢中になる。取り乱す。狂気になる」としている。
『語源探求』はもう一つの意味を挙げていて、「怒り暴れること。乱暴」とあるのだが、『秋田のことば』の方はこっちしか取り上げていない。
 ただ、どれも「乱気」であることにかわりはないらしい。

 ついでなのでその前後を見ていたら、「らんごく」という語を見つけた。「らんこ゜ぐ」とも書いてあるが、これも「乱れること」で、「混乱すること。大騒ぎ。乱脈」などとある。
 目に付いた理由は元の語で、「乱飛乱国 (らっぴらんごく)」という語があって、それの後半らしい。じゃ、と思って「乱飛乱国」をググってみたが、一例しかなかった。どないやねん。
 同じ語として挙げられている「乱飛乱外 (らっぴらんがい)」は多数見つかるが、どうも漫画のタイトルばっかり。
「乱」って字は状況によって「らっ」とも読むんだな。忍者のこと「乱破」って書いて「らっぱ」っていうんじゃなかったっけ。

 基本的にビジネス本ということで書かれているらしいので、秋田弁濃度はこんなもんである。
 80:20 の法則なんてのはもう有名すぎて説明の必要もないくらい。
 中小企業は社員がイエスマンでないと成り立たないとか、社内で競わせない、それよりは個人の特技を生かす、とかいうあたりはユニークか。
 海老名氏の元には全国から声がかかっているらしく、青森の「跳神ラッセイバー」、岩手の「岩鉄拳チャグマオー」、山形の「速新拳ガ・サーン」、新潟の「超耕21ガッター」、ぐっと飛んで沖縄の「琉神マブヤー」が、彼らのデザインらしい。ネイガーは基本的に秋田でしか活動しないが、作品の方がそこまで広がればもう何も言うことはない様な気がする。




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