趣味で自転車をやってる、と言うと、俺をスポーツマンだと勘違いする人がいるので困る。
基本的に「運痴」だし、「スポーツ」というもにのまとわりつく胡散臭さも嫌。したがって実は「スポーツ」って嫌いなのである。俺は単に自転車に乗っているに過ぎない。
こんなことを言うと不愉快に感じる人は多いだろうが、「スポーツ」の世界はある種の「ムラ」と捉えることができる。
したがってそこには「方言」がある。株の世界で、「下げ止まる」「好感する」というような、「
正しい日本語」の点からは問題のある表現が使われるのと同じように、外の世界とは使い方の異なる表現が山ほどある。
自転車の世界で挙げるとすると、「前」「後」である。勿論、漢字ではなくカタカナで「フロント」「リア」だが、後輪が「リア」であることは言うまでもない。これは問題ない。
「フロント ホイール」が前輪だが、「フロント ギア」というのはペダルがついているギアである。これ、「前」とは言いながら、自転車の中央部にある。「リア」よりは前だが。
さて、今月の「日本語学 (
明治書院)」はオリンピックということからか「スポーツのことば」という特集である。
上に書いたように、スポーツには関心ないものの、これは面白かった。
小西いずみ氏の「スポーツにおける『技 (わざ)』」は、「技」と言う言葉の使われ方について述べている。体操における「技」と格闘技における「技」とは示すものが異なる、などの着眼に目のうろこが落ちる。
鑓水兼貴氏の「陸上競技のことば」では、リレーを昔「継走」と言ったが、それが関係者の間で使われる「ヨンケー (400m リレー)」という形で残っている、という話などが面白い。砲丸投げ (正しくは「砲丸投」と書く) は 、砲丸を押し出すのが正しい動作で、腕を回して投げてはいけないのだそうである。
田中彰氏の「水泳競技のことば」では、例の「前畑頑張れ」を音声的に分析している。
中東靖栄氏の「テニスのことば」によれば、テニスのいろんな面が諸説紛々である、というのに驚く。11〜12 世紀に生まれたらしいのだが、名前にしてからが不明、というからすごい。
島津暢之氏は読売新聞で校閲をやってる人らしいのだが、「新聞でのスポーツのことばの扱い」で出てくる例がことごとくジャイアンツだというのがほほえましいというか大人の事情というか。
取り上げられているのは、「かわす (追い上げてくる選手を振り切る、という意味に使われることがある)」「追撃 (本来は、逃げる敵を追いかけてさらに叩くことを言うが、負けているほうが反撃するという意味に使われることがある)」など以前から指摘されている表現が多いが、「伸びしろ」「キャプテンシー」など、新しい表現もある。
塩田雄大氏の「放送でのスポーツのことば」は、外来語の多用について触れている。戦前からそうだったらしい。外来語は耳で聞いてわかりやすい、というのは、日本語の漢語には同音異義語が多い、ということと考え合わせると納得がいく。
で、方言だが。あ、地域方言の話ね。
単純に「スポーツ AND 方言」でググったのだが、ほとんどヒットしない。
特にアマチュア スポーツとかいうところでは、ローカル ルールってのもあったりするだろうし、特定の地域でしか使われない言葉があるのではないかと思ったのだが、そういう記事がない。
ある地域でしか行われないスポーツ、というのはあった。ぱっとウィンタースポーツが思い浮かぶと思うが、たとえば「長靴ホッケー」なんてのがそう。
釧路が発祥らしい。
*1
長靴投げも思い出したのが、これはフィンランド発だそうだ。
雪合戦には国際ルールがある。
一向に方言に近づかないな。
そこで思いついたのが、チーム名。
地域密着スポーツを旗印にしている
サッカー。
札幌の
コンサドーレは、「道産子」の音をひっくり返してラテン風にしたもの。このセンスは好きだ。
佐賀の
サガン鳥栖――というのは畳語になるんだろうか。「サガン」は「佐賀の」の佐賀方言である。つまり「佐賀の鳥栖」なわけ。これも巧い。
大分の
トリニータは、県民・企業・行政の三位一体の“trinity”の後ろに「おおいた」をくっつけたものらしい。
方言からは離れるが、京都の
サンガはサンスクリット語だそうである。さすが京都。
野球のマスターリーグでは、名古屋に「
80デイザーズ」というチームがある。名古屋弁の「久しぶり」、「
やっとかめ」だそうだ。なお、「やっとかめ」を「八十日目」とするのは俗説とされている。
もう方言ネタ終わり。
実はチーム名を思いついたのは、数多あるアマチュア チームについてだったのが、ざっと探した範囲では見当たらなかった。そもそも、そういう大会に関する記事が見つけられない。おそらく、キーワードがまずいのだと思うが、あるいは、アマチュアはアマチュアゆえにかっこいい名前をつけたがるのではないか、と思ったりもする。
こないだ紹介した矢島の大会のパンフでチーム名を見てみると、「チーム負け組」「ハンガーノック (エネルギーが枯渇している状態)」“Inner Low (自転車のギアの最も軽い組み合わせ)
*2”など、笑いを取ることに主眼を置いたものが散見される。そのノリで方言チーム名もあるのではないかと思ったのだが。
本当なら、新聞のスポーツ欄を丁寧に見ていればアマチュアの市民野球大会とかそんな記事があると思うのだが、この夏はスポーツイベントが重なっていてスポーツ欄が妙に充実、見つけ出すのが大変なのだった。
おかげで番組編成がガタガタ。
まぁ、録りためた映画とかを消化できるのはいいが、いくら盆休みとは言え、非日常度が濃すぎる。