Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第609夜

バイクとババヘラ



 矢島のレースに参加してきた。
 数年前までは矢島町の主催だったが、市町村合併の結果、由利本荘市主催ということになっている。
 こういうレースは田舎でやることが多く、したがって予算も多くはないし、首長が変わった途端に打ち切られたりすることもあるのだが、これは合併後もしっかり開催されている。なんせ、美ヶ原乗鞍と並んでヒルクライムのシリーズ戦に組み込まれるほどのレース、投げ出そうもんなら秋田県は全国の自転車関係者からそっぽを向かれること間違いなし。
 一応解説しておくと、「ヒルクライム」というのは読んで字の如し、“hill (丘)”を“climb (登る)”する種目。
 たとえば競輪は屋内のバンクを何周もする競技、クロスカントリーは山の中や泥の中を上り下りする競技、同じように山道を上からガガガっと下ってくるのがダウンヒル。ヒルクライムは、一般道を使って、スタートからゴールまで登り続ける、という競技である。
 勿論、一般道であるがゆえにやむを得ず下りもあるが、矢島カップの場合、鳥海山ろく線・矢島駅近くからスタート、花立 (はなだて) をゴールとする全行程 13km のハーフ クラスで標高差 400m、26 km のフル クラスは祓川 (はらいかわ) がゴールで標高差 1,100m.
 この、黙って水平に歩いたって 15 分もかかる距離を登って行こうと言うのだから、お前ら何考えとんねん、と言われてもしょうがないのかもしれない。*1

 さて、ここは方言ページなのでレースからは離れる。
 帰りがけ、あちこちでアイスクリームが売られていた。
 言うまでもない、秋田名物「ババヘラ」である。
 もはや解説の必要もあるまいが、「ババ (婆)」が「ヘラ」でコーンに盛るアイスだから「ババヘラ」である。誰が言い始めたのか不明らしいが、「ヘラ」を取り上げたのは観点として面白い様な気がする。まぁ、アイスクリームといえば、半球形の専用ツールで盛るものだ、というところから始めれば、どこにでもあるヘラで盛る、というのは着目に値する点かもしれない。
 男鹿の進藤冷菓とが児玉冷菓が元祖を争っている。特に、後者が敵愾心炸裂でほほえましい。

 当然、「ババ」というのは本人に面と向かって使っていい言葉ではない。だから、高校生が言い始めたのだ、という説にも信憑性があるわけだが、この「ババヘラ」はすっかり浸透してしまった。ひどいときには、買うときに「ババヘラアイスください」と言う人がいる、というから困ったものである。
 さらにどうかと思うのは、売っている人によって「アネヘラ」「ギャルヘラ」あるいは「ジジヘラ」と呼び方がわかる、という話。まぁ、目の前で手作業をするのだから、誰がやるのかを気にしてしまう気持ちもわからないことはないのだが。
 そうした呼び方の中に「ネネヘラ」というのがあるらしい (Wikipedia による)。若い女性なのだそうだが、俺は「ネネ」という単語を聞いたことがない。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』や『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』も当たってみたが見当たらなかった。
「ネネヘラ」でも ググってみたが、それについて触れている記事は見つからなかった。昔は「ネネヘラ」だが、最近「ギャルヘラ」になった、という発言はいくつかあった。
 そもそも「ネネヘラ」という単語の用例が全部で 27 例しかない。正確な意味があるのかどうか自体が疑問である。
 なお、「オネヘラ」は 4 例。
 俺は、まぁあんまり行動範囲の広い人間ではないからあれだが、「ババ」でない人が売っているのを見たことがない。そもそも、珍しいから話題になることはあっても、固定した表現になるほど高頻度のものではないのではないか。

「ギャル」だって決して新しい単語ではないよな。  沢田研二が「OH! ギャル」って歌を出したのが、1979/5 年 (Wikipedia)。俺の記憶では、初めて耳にしたのはそのちょっと前だったと思う。

 この文章の発端は、横浜の赤レンガ倉庫で行われた「あいすくりん博覧会」というイベントの新聞記事である。見出しに「ババヘラ」という語が含まれ、また、バラ盛りの写真も掲載されている。全くメジャーになったものである。
 博覧会は 8/10 までやっているらしい。近くの人は是非。
ババヘラ」そのものは、厳密にはアイスクリームではなくシャーベットである。難しいことをゴチャゴチャとやっていない味なのでシンプル。あるいは、その点も受けているのかもしれない。

 自転車に話を戻すと、秋田にはもう一つ、田沢湖でのクロスカントリーとダウンヒルもある。数年前から、我々のようなサンデー ライダーは参加しづらい大会になってしまっているが、これも有名な大会。
 食べ物はといえば、横手焼きそばだっていつのまにか全国区。
 秋田って実は結構、「ナショナルブランド」があるところなのだ。
 それがフルに活かせているとは言いにくいけど。




*1
 計算方法に自信がないが、平均勾配はあのいろは坂とほぼ同じである。
 尤も、いろは坂が難所だと言われるのは、勾配の問題ではなく、カーブのせいだが。 (
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第610夜「ほんなこつ、このばかちんが」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp