Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第578夜

ALL UP 2007



 今年はなんだか平坦な年であった。特に大きなイベントもなく、かと言って暇をもてあましたわけでもなく。年賀状には例年、前の年に俺がやったことを並べているのだが、トピックになりそうなものが見当たらなくてちょっと困った。
 自分の老化を自覚する年ではあった。
 物忘れというか「うっかり」が多くて、秋くらいだったか、仕事に出かけるときにケータイを忘れるというのはまぁよくあることだと思うにしても、その日、家に帰るとき、メガネを職場に置いてきてしまったのには本当にビックリした。車さえ運転しなければメガネなしでもさして困らない、という視力だからこそだろうが、あれはちょっと泣けてきた。

 日本のメガネの 9 割が福井の鯖江で製造されているらしい。
 鯖江といえば朝ドラの「ちりとてちん」で、そのうちに取り上げようと思いつつ半分が終わってしまった。福井弁についてまとめた本が見あたらないのだ。「さくら」の時は岐阜新聞社の本が見つかったんだけど。
「乱視」でググっても俚言形が見当たらないのは、そんなもんかな、と思うが、「近視」もあんまりない。なんでだろう。静岡で「めっかち」というのはあった。「ちかめ」はいくつか見つかる。
「近眼」に対して「遠眼」の普及度がイマイチなのも不思議。いや、正直言うと、「『遠眼』って単語がないのはなぜだろう」と書こうとして、念のために調べたらあったので慌てて直したんだが。
「物忘れ」もあんまり出てこない。「うっかり」だと、沖縄辺りの方言札に関する記事が多くヒットする。「うっかり使ってしまうと」みたいな形。

 自転車の方は、レース 3 回。
 本当は秋口にもう一つあったのだが、会場になる大鰐スキー場が閉鎖されるということで、中止になってしまった。でも改めて調べたらスキー場としてはやってるみたいじゃん。自転車だけがつぶされたのか。なんてこった。
「閉店」とか「店じまい」にかかわる俚諺形はありそうな気がしたんだが、見当たらず。
「しもたや」って大元は方言なんじゃないかと思ってるんだがどうか。

 ちょっと驚いたのは、HDD レコーダを 2 度、修理に出したこと。一年に 2 度も修理に出さなきゃいけない機械ってもう末期じゃないかと思うんだがな。しかも、二度目の修理から帰ってきた直後にデータ吹っ飛んだし。でも、まだ 3 年目だよ。多分、ものすごく脆い代物なんだと思う。中はパソコンなんじゃないかと思ってるんだがどうだろう。
「壊れる」はたくさんある。秋田の「ぼっこいる」、大阪の「つぶれる」「いわす」。
めげる」という形はかなり範囲が広い。中国・四国がメインかと思うと、大阪辺りまで含まれるらしい。
もじける」「もじる」は和歌山だが、「みしける」という形もあるようだ。変形か?
そずる」は福岡のようだが、「擦り切れる」「ちょっと痛む」くらいの意味が九州南部にかけて見つかる。
 北海道に「ちゃける」という語があるらしいが初耳である。

 学術的にはどうか知らないが、数年前の方言ブームも過ぎ去り、この世界は静かである。
 ただ、方言を一つのツールとして捉える、という見方を割と頻繁に見聞きするようになった、という気はする。いや、真面目に流れを追ってないから前からそうだったのかもしれないが。
 つまり、たとえば田舎では標準語で話すことは一種の敬語表現なわけだが、そうではなく方言で話すことで、あなたには親しみを感じているんですよ、という意思表示になる、というような。そこまで明確に意識しているかどうかは別だが、方言の範囲内での使い分けも含めれば、してない人はいないはずである。
 こないだ紹介した NHK の「なっトク! 古今東北」の話で触れられていたとおり、そういう使われ方をしていると、完全な置き換えが可能な自立語の類は消えてしまうことになるわけだ。
 勿論、新聞の投書とか見てるとやっぱり情緒的な姿勢で方言を語る人は少なくない。国体関連でもそうだった。好きずきだからそれを否定する気はないが、好きずきに留まるんだ、ってことは忘れないでいただきたいと思う。
 そこに理屈をくっつけるのはもうやめるべきだ。よく、昔の都の言葉が残っている、とか言って褒め称えてることがあるが、だったら京都弁が最高の言葉ってことになっちゃうじゃないか。直系なんだから。
 そもそも、自分の好みにそれっぽい小理屈をくっつけた時点で揉め事の種になる。

 七月には、柴田武氏他界。これは大きいニュース。
 趣味の世界では、「月光仮面」「シルバー仮面」「アイアンキング」で知られた宣弘社の小林利雄氏、「仮面ライダー」オープニングがあまりに有名な中江真司氏、ソガ隊員こと阿知波信介氏、ジャンル俳優の塩沢とき氏、音楽関係では羽田健太郎氏、「デビルマン」の三沢郷氏。我々は、今年も多くの人を失った。合掌。
 とは言いながら、Wikipedia の一覧を見ながら、「え、この人もだっけ」というほかに、「この人、現役だったんだ」と思うこともあり、人間ってなぁ薄情なもんだ、と思ったことであった。

 それでは、よいお年を。




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