Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第575夜

気持ちと形



 一体いつの番組だよ、って話だが、調べてみたら今年の 4 月だった。でも、思っていたより最近。
 NHK の仙台放送局が思い出したようにやる東北向け番組「なっトク! 古今東北」の第 5 回「泣いて笑って“東北弁”2 〜お国言葉でつづる手紙〜」をやっと見た。
 なんで HDD レコーダーではなくビデオテープに録画されているのかは不明。何かとぶつかったのかな。尤も、10 月にデータが吹っ飛んだため、HDD に入っていたら見られなかったわけだが。

 司会は さとう宗幸と、元秋田放送局の一柳亜矢子。
 番組の中でも触れていたが、今回のが「2」ということは「1」があったわけで、それがこの番組の第一回、去年の 5 月。ホームページ見たら、井上史雄氏が出ている。知らなかった。
 今回の (いや、半年以上も前だが) は、その放送を受けて、視聴者から方言での手紙を募集した。その告知を見た記憶はあるな。
 その数、なんと 103 通!
 って力が入ってたが、多いんだ、それ。いや、こういう番組の投書の数ってどんなもんだか知らないけどさ。

 最初に紹介されたのは、東京オリンピックの柔道選手に父親から送られた手紙。いきなり目が潤んでいるようで、あぁやっぱりそういう方向で行くんだな、と思った。
 二通目、というか、投書の最初は、新庄市のお母さんで、結婚してイギリスに住んでいる娘に書いた手紙。声を聞くと「どっかどする」らしい。
 これは、「安心する」という意味だが、ググったところによると、「どっかり座る」のと同じ語らしい。安定した状況からきているのだろうか。
 ただ、「どっかどする」という単語は二例しかない。あらま。
「くじら餅」を作って送ったらしいのだが、青森にもあったよな。
 その娘さんからの返信はさすが NHK でイギリスで撮影したもの。文章はほとんど標準語、ただしイントネーションは東北風であった。

 次が秋田の老夫婦。
 ご主人が手術を受け、麻酔からさめたときに、「家に帰ってれば良かったのに」と言ったら、「んだって」と返事。
 奥さんの「んだって」は常に反論の狼煙であったが、そのときだけは優しく聞こえた、とストレートにいいお話。小説とかマンガとかに使えそうな感じだ。

 東北弁はフランス語に似ている、という話を科学的に分析したようだが、鼻母音が似ている、というさして目新しくない結論。

 岩手のお嬢さんは、亡くなったおじいさんに。
 おじいちゃん子だったため、周囲よりも訛りが強かったとのこと。やっぱり、こういう年齢差ってあるんだろうな。
 ずっと見ていてね、という意味で、「見ててけでね」と字幕に出ているのだが、俺には「見ででけでね」と聞こえた。

 東北大学方言研究センターの小林隆氏が出てきて学術的な説明。
 方言は、気持ちを表す単語や、同じく気持ち・ニュアンスを担う語尾にはかなり残っているが、一般名詞は減っているとのこと。もし標準語形と意味が全く同じであれば、広範な伝達という点で問題のある俚諺形を使うメリットはないわけだからな。
 小林氏の発言に注目したのは、「方言は、親しい間柄で使うものになってきている」というのもの。つまり、仲間意識とか、別の手紙のときに使われた表現だが「つながっている」という感じを共有するためのもの。田舎では、方言ではなく標準語でしゃべることが一種の敬意表現となるが、それの逆である。つまり、方言は「あえて」「わざと」使うものになっている、ということ。方言に対してやや否定的な見方ではあるが、大いに納得する。
 ここで紹介された手紙に「左語り」というのがあって、「あまのじゃくな話」ということらしいのだが、これも Google では用例見つからず。なんでだ。

 最後の手紙は、青森の青年。障害があり、今は埼玉の職業訓練所にいるらしい。
 友人達とのおしゃべりで津軽弁クイズをやっているのだが、それが聞き取れず。情けない。
 手紙は、お母さんから彼へのもの。家が「あずましぐ」思えるように、部屋はそのままにしてある、というもの。
 気になったのは、その手紙ではなくゲスト達の反応で、感動したのはいいが、お国言葉ってすごいですね、と言う。
 じゃなくて、感動の対象は、この人たち、この手紙に込められた気持ちなんじゃないの? 方言そのものではないだろ?
 ここで紹介されてる手紙だって、一生懸命、方言で書こうとしていることはわかるのだが、文章と方言というのはあんまりマッチしないから、どうしても全体的な表現は標準語のものになって、ポイントに方言が出てくる、という構造になる。方言そのものを対象とするのであれば、この手紙はどれも力不足である。
 それでも胸が熱くなるのは、その背後にある、あるいは、その源泉である気持ちを感じ取るからである。そのポイントで登場する方言に乗っている気持ちに心が動くのである。しまいには、仙台弁で言えるかな、とまで言っているのだが、番組の趣旨に寄りすぎのコメントだ。

 りんご娘.にローカルアイドル本のことで取り上げたが、このジョナゴールドってえらくかわいいね。スタイルもよさそうだし。今度、青森に行ったら CD 探してみるか。いつになるかわかんないけど。




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