Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第576夜

良い病院悪い病院普通の病院



 今年って、ここではあんまり病気の話をしてないようが気がする。確認してないけどね。
 夏場から秋口にかけて胃の調子が悪くて胃腸科に通っていた。一番ひどかったのは七月で、缶ビール一本でギブアップ、って状態。三年ぶりにカメラを飲んで、それが細くなっていることにビックリ。人差し指から小指、くらいの変化ではあるのだが、それだけでも随分と楽である。鼻からのもあったんだが、それはどうやらリクエストしないと使ってくれないらしい。
 次に歯医者。これは、飛び飛びで一ヶ月くらいかかったりするし、しかも完全予約制、会社員にとってあらぬ時間に行かなきゃならないこともあるからそれなりに覚悟したのだが、予約した翌日に痛みが治まり、レントゲンその他でも異常なし、なんなんすかねぇ、ということで様子見に。
 年取ると、どこがどうってわけじゃないけど健康って感じはしない、ってことになるんだねぇ。

 こないだの『プレジデント』で「頼れる病院 危ない病院」という特集をやっていた。
 この種の特集や本は多い。その詳細にささる気はないが、たとえば死亡率が高いから悪い病院だってことにはならない、ということは改めて言っておきたい。名医のもとには難しい病状の患者が集まり、いきおい死亡率は高くならざるを得ない、ということもあるのだ。極端な話、全く流行らず患者のよってこない医者は死亡率ゼロである*1。この特集では、経験が多ければよい結果を生みやすいだろう、ということで手術数を主な指標としている。
 回答義務のないアンケート調査だから全国を網羅しているとは言い切れない面はあるが、ベスト 50 とかに秋田の医療施設がほとんど顔を出さないのはやっぱりさびしい。

 秋田が顔を出すのは、厚生省のデータを元にした病気別の死亡率である。
 日本人の主要死因を含む 15 の病気が表になっているのだが、なんとそのうちの 8 つでワースト 3 にランキングされている。ほかも決して低いわけではなく、全国平均以下なのは肝臓ガン一つだけ。どういうこっちゃ。
 自殺率日本一、というのも聞いたことがあると思うが、こういうのは人間性に原因を求めることができるのかもしれない、という発想かどうか、秋田県では今、「秋田人変身プロジェクト」というのをやっている。記事中でも紹介されている。
 秋田県民の悪いところを見つめなおそうよ、ということだが、その筆頭が「えふりこぎ」「ひやみこぎ」「あしふぱり」。やっと方言の話になった。
 どれも前に紹介したことがあるが、「えふりこぎ」は「体裁を繕う。かっこをつける」、「ひやみこぎ」は「面倒くさがる、不精する」、「あしふぱり」は「他人の足を引っ張る」。
 秋田の「三こぎ」という場合、「えふりこぎ」「ひやみこぎ」に「かだぱりこぎ」が加わる。これは「強情」という意味。宮城でも使う由。俺、前に書いたとき「かたぱり」って書いてるな。

 そこからたどってアンケートを読んでみたのだが、大分には「ヨダキズム」という言葉があるらしい。「よだきい」は「疲れた、面倒くさい」という意味。「ひやみこぎ」方面の単語である。“-ism”だから、新しい言葉ではあろう。
 困ったことに、これも用例は多くないのだが、あちこち回ってたら「赤猫根性」という表現も見つかった。方言ではなく県民性の方に行ってしまうのがあれだが、これはなんだか意味が非常に拡散しててはっきりわからない。「ずるがしこい」「利己的」「人の足を引っ張る」「けち」。由来も諸説紛々である。商売人の気質っぽい感じはしないこともない。まぁ、褒め言葉ではないようだし、他所様のことなのでこの辺にしておく。
 秋田については「着倒れ、食い倒れ」てな言葉がある。「えふりこぎ」方面の話だ。

 秋田といえば高血圧、高血圧といえば脳卒中ということから、県立脳血管研究センターという組織もあったりするのだが、脳卒中近辺の単語を調べてみたら、「食い中風」という単語が見つかった。どうも俚言ではなさそうな感じがするのだが、意味がはっきりしない。使ってる人はどうやらきちんと意味がわかっているらしい。
 単なる「食いしん坊」としている人もいるが、これって病的に食う人のことなんじゃないのかな、と思ったりもする。たとえばボケが入って、食欲が強烈に表に出てきてるような。

『プレジデント』の特集では、秋田県民について、生野菜や果物を摂らない、という意見を紹介している。
 そのこと自体は否定しないけども、その医者が言うには、「郷土料理として代表されるしょっつる鍋やきりたんぽのように、野菜も魚も煮炊き、加熱されたものが多く、生野菜は少ない」。
「生野菜」とか「果物」って、「郷土料理」ではないと思うんだがどうかね。加熱されてない郷土料理って、刺身くらいじゃないの?
 かだぱりこいでさらに反論させてもらうなら、砂糖よりましだとは言え、果糖だって糖分、果物の摂りすぎも決して体に良くはない。まぁ、「摂りすぎ」は何にしても問題外なのかもしれないが。
 生野菜は少なくとも、納豆、漬物といった発酵食品はよく食う。これは体にいいものの上位に入る食べ物のはずだ。まぁ、発酵飲料もよく飲むが。それがまた健康を損なったりしている。ははは。
 統計と解釈には異論がつき物だ、ということで。





*1
 久しぶりに DYO さんからの感想を。
 フグの名医は山にいる、という表現があるそうだ。
 流通網が発達していない昔のことで、フグ中毒は海の近くで起きる。それで医者を探して奔走するわけだが、山奥にフグの名医がいると聞きつけて行ってみたら、見事に生還した、と。
 これは、海から山奥まで行くには当然、時間がかかるわけで、もしそれだけの間、生き延びることができれば、その人が助かる可能性は非常に高い。つまり、医師の腕とは無関係、という話。(
)





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