Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第577夜

ことマガまとめ



 東日本放送の「週刊ことばマガジン」。
 こないだ久しぶりに見たら、秋田朝日放送の油井亜衣という、まるで芸名のような名前のアナウンサーが出ていた。なかなか美人じゃないかい。
 東北七県が範囲なので、二ヶ月で 1〜2 回という感じで秋田が回ってくるわけ。今年の分をちょっと振り返りつつ、お茶を濁してみたい。

 2/3 が「もへしょう」。
 おだてにのる、という意味。当然、褒め言葉ではない。陰口なんかで使われることが多いだろう。
 サ行とハ行の交代については何度か触れてきたが、これもそう。「もへ」は「おもへ」で、「おもしぇ」という地域もあるが、「面白い」である。
 ニュートラルに見えて実はなんらかのニュアンスを持っている単語というのは、たとえば「結果」「天気」、秋田弁で「こぐ」などがあるが*1、この「しょう」もそうらしい。確かに、「負債」「責任」「義務」など、マイナス イメージの単語を伴うことが多い。
 不思議なことに、「もへしょう」をググってもほとんどヒットしない。「ことマガ」のホームページにある「もへ箱」にいたっては一例のみ。

 3/24 が、「たんぽ」。
 勿論、「きりたんぽ」の「たんぽ」だが、料理前、つまり、切らない状態のものは「きりたんぽ」ではなく「たんぽ」だ、という指摘には虚を突かれる。確かにそうかもしれない。ミソをつけて焼いた奴って普通は一本丸まんまで、あれは「ミソたんぽ」だもんなぁ。
 県南ではお銚子のことを「たんぽ」と言うらしいが、それは「湯たんぽ」と同じ「たんぽ」だそうな。

 話は変わるが、足が冷たくて寝られないことがあるので、数年前から湯たんぽを使っている。最初は D.I.Y. ショップあたりで買おうと思ったのだが、千円弱する。お湯を入れるだけのものにそんだけ払うのは、と躊躇していたが、そこでひらめいた。ペットボトルでいいじゃん。冷たい飲み物用のにお湯を入れたらまずそうな感じがするので、キャップがオレンジ色の奴を使う。
 夏の間は不要、大事に保管しておくほどのものでもないから捨ててしまっていたのだが、この冬は 500ml のボトルが見つからなくて往生した。どこに行っても 350ml ばっかり。
 去年辺りから、ペットボトルは開けたらすぐに飲んでしまえ*2、という風潮になっているから、そのせいだろうか、と思ったりする。冷たいのならゴクゴク飲んでしまえるが、あったかいお茶なんかはそうもいかない。
 12 月中旬になってやっと見つけたが、あるいは寒さが厳しくなってから出回るのか。

 5/26 が「まめなる」。
 県南方面で、出産することを言う。
 この「まめ」は、「まめでらが (元気か)」と同じ「まめ」で、「忠実」と書き、体調がいいことを示す。めでたいことではありつつ、妊婦は体調良好というわけではない、そういう状態から脱却することを意味する。
 オフィシャルには、「なる」を「生る」として、「健康に生まれる」「安産である」という意味もある、としているが、これはひょっとしたら民間語源と言うか、周囲の希望が含まれる解釈ではないだろうか。
 なお、こないだ病気の話をした。秋田県だけでもないらしいが、産婦人科が壊滅寸前の状態であることに触れようとして、産婆のことなんかを調べたんだが、産婆のことを「こなさせばば」という。
ばば」は「婆」でいいとして、「こなさせ」は「子生させ」である。「数をこなす」とかで妙な妄想を繰り広げないようにしていただきたい。
 唐松神社に触れてもいるが、近くには「女一代守神」と啖呵のような幟が立っている。

 7/14が、「しったげ」。
「死ぬほど」で強調の副詞。プラスの意味にも使われる。俺の両親が、知らない、と言ってた様な気がするので、ひょっとしたら新しい表現なんじゃないだろうか。若い者が作り出しそうな極端な表現ではある。

 8/25が 、「よんだ」。
 これは、俺が A ターンしてきてはじめて触れた、「俺の知らない秋田弁」。職場で、「これ、よんだが」と聞かれ「は?」と聞き返してしまった。
 横手方面の言葉で「要だ」、つまり「必要だ」という意味。
 そのときの記憶では「よんだ」だった。オフィシャルにあるまぎらわしい単語は、俺の感覚では「呼んだ」「んだ」「んだ (四だ)」でゴチャゴチャということはないはずなのだが、最近、「三」や「四」を、「ん」を高くして(「よ」)発音する人が増えている。日本語の音韻規則に対する挑戦である。

 10/13 は「ねまる」。
 座る、休む、という意味とされているが、状況によっては本当に「寝る」「横になる」という意味の場合もある。
ねまってけれ」の場合は、「けれ (ください)」がくっついていることから、「横になる」ではないと考えてよかろう。

 12/8 が「あやすか」。
あやしか」「あいしか」という形もあるのだが、「しまった」「なんてことでしょう」と言うときに使う間投詞。
 本来は「あら、しかたない」と、取り返しのつかない事態を表現する「文」だったと思われるが、それが短縮されたもの。
 この回の解説は、今年めざましい活躍の「んだがらしゃ」氏。
 先週、紹介した、「秋田人変身プロジェクト」にも「んだがらしゃ」のキャラが使われている。
 NHK の「ちりとてちん」のロゴを見るたびに、これを思い出す。

 ホームページの記事が放送回を網羅しているとすれば、3 年目と結構、長い。
 まとめて本にする、とかいうことを考えてもいいんじゃない?





*1
「結果を出す」というのは「プラスの成果を上げる」、「明日、天気になーれ」は「明日は晴天になってほしい」。
こぐ」は、「ばすこぐ (嘘をつく)」「じんぴこぐ (おしゃれなんかする)」と悪い意味にしか使われない。 (
)

*2
 口をつけて飲むものだから、長時間、ほうっておくと雑菌の繁殖が心配されるし、炭酸なんかは破裂の危険もある。(
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第578夜「ALL UP 2007」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp