Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第476夜

アイドルを語れ



 恥ずかしい本を買ってしまった。
 方言をテーマにしてるはずのホームページで、これまで浅香唯だのケータイ刑事*1だの散々書いておきながら、何を今さら、ってご指摘もあろうが、この本を買うのは本当に恥ずかしかった。
産地直送! アイドルまるかじり名鑑 2005 (小野澄恵)』。
 ご当地アイドルの本だ。出しているのは、ぴあ

 恥ずかしいのできっかけから書くが、今を去ること数年前、『プレジデント』を読んでいたときのこと。話題の人を紹介するコーナーで、酒田の SHIP を仕掛けた人のインタビューが載っていたのだ。へぇぇ、と思い、記憶にも残っていたわけだ。
 実は、こないだ、ローカルヒーローをネタにした時、これも話題にしようと思ったのだが、名前を忘れてしまっていた。暮れに別の本を買いに行ったらたまたま隣にあったので手に取った、というわけである。
 正月、テレビを見ていたら青森のスキー場 (大鰐?) の CM でりんご娘.も出ていたし、頃合だろう、と。

 この本には、全部で 45 ものユニットが登場するが、インタビュー記事の冒頭には必ず「○○弁でお届けしてます!イントネーションを想像してみて。」とある。
 ということから想像がつくように、方言丸出しのアイドルはあんまり多くない。あるとしても、やはりこれまた想像通り、日本の両端と近畿に偏る。尤も、方言丸出しにするかどうかはそれぞれのユニットの方針もあるわけだから、どうこう言う筋合いのものでもない。
 なお、読んでいること自体が恥ずかしいので、ここでの紹介にはヌケや読み違いがあるかもしれない、ということは書いておく。それから、方言がメインテーマなので、関東は斜め読みに近い、ということも付記する。

 最初に方言丸出しで来るのは、りんご娘.
ヨーカ堂はわんどがむったど遊びに行ぐどごだはんで
 読み返さないとわからん。「ヨーカ堂は、私が頻繁に遊びに行くところなので」。
 新潟の Negicco は「なまら (非常に)」を多用する。これ、新潟から北海道に伝わったものらしい。
 近畿勢は、そりゃそうでしょうね、という感じなのでスルー。
 岡山・香川 (さすが瀬戸内) の Bachicco! の「てんごせんように、めげん人になりたい」。めげない人になりたい、だろうが、「てんご」は? いや、「てんごする」は「ふざける」なんだが。
 後は九州で、SEED/DOLLS/桃/PEPE/PEPE2 の合同インタビュー、宮崎の Lip's (昨年夏に解散). 後者の「てげーおもれー、ふたりやっちゃが!!」は、ニュアンスに自信ないが、「とても面白い二人なんだよ」?
 ほかにも、個々の単語、語尾などは多いのだが、一々取り上げてられないので、詳しくは現物に当たってください。目次・索引込みで 240p もありますが。

 時折、「○○が教える□□弁講座」というのがある。そこからいくつか。
 山梨の NSP による、「わにわに」。
わにわに」そのものは「ふざける」「いたずらする」という意味のはずだが、「わにわにしちょし」となると「ふざけるな」という意味らしい。「〜しちょ」が禁止の意味なのか? どう分解すればいいんだろう。「ももっちい」は「くすぐったい」らしい。
 長野の NEXT GENERATION からは「ボタンをかう」。「鍵を支う」と同じだと思うが、長野でも松本方面の言葉らしい。洗濯物を取り込むことは「よせる」。
 高知の S@C☆LLECTION (えす・これくしょん) からは、「ぼっちり」で「ちょうどいい」、「じゅんわるい」。後者は「調子悪い」だが、高知全域ということではないらしい。Google では一件だけ見つかる。

 意外に、方言ベースのユニット名は、滋賀の SOLIA-YOIT しかない。江州音頭の掛け声らしい。Bachicco! もそうなのかなぁ。
 ついでだから名前の話をすると、前述の NSP には、“New Sadistic Pink”を知っている年寄りはギョッとする。
 静岡の六花姫 (ろっかひめ)。6 人編成だからだと思うが、「六花」で「りっか」と読むと、これは雪のことである。
 長野の HAPPY&PAPY は、「ハピパピ」という略称も含め、語呂も語感もよい。

 ご当地自慢のコーナーもある。
 この本を一読してビックリするのは、小学生がやたらと多いことである。90 年代生まれの芸能人にはもう驚かなくなったが、さすがに後半となると怖気づく。
 そのため、「店が多い」とかいう微笑ましい発言が散見される。
 かと思えば、「静岡には ORANCHE がいます!」という見上げたプロ根性の子もいてあなどれない。なお、彼女たちの写真は、ウルトラマンに登場する高原竜ヒドラ*2の前で撮影されたものであることを付言しておく。

 この本に注文をつけるとするなら、「ユニット」という単語を使ってきたことでわかるとおりグループが多いのだが、メンバーが欠けた写真が少なくないことである。流石にトップの写真は全員だが、それに続く写真が、メンバーを網羅していない。一部だけの写真が複数で全員を網羅というのではなくて、欠けたままなのだ。可愛そうに。

 さて、東北では、青森・岩手 (LOVE YOURS (解散))・宮城 (SOUL MATE)・山形がエントリー。秋田と福島は空白である。
 秋田は、バラエティ系の人は多い。自称「いんちき手品師」ブラボー中谷*3は割と全国区に近いかもしれないが。アイドル系には記憶が無い。
 アーチストというくくりでは、つばさ というシンガーがいる。あちこちのイベントで名前を見かける。こないだも、超神ネイガーと一緒のイベントに出ていた。

 俺がご当地アイドルというのを知ったのは、最初に書いた『プレジデント』がきっかけ。2 年ちょっと前で、まさに「ふーん」という感じだったのだが、“BOMB”が特集を組んだのがその年の 1 月、つまり 3 年も前。東京発の雑誌が特集を組んだ、ということは、その時点で一定のムーブメントになっていた、ということだ。今回の本でも、既に 10 枚も CD を出しているユニットがあったりして、「え、そんなに広がってたの?」と、素直に驚いている。
 中には、東京と行ったり来たりの人もいるようで、その「行ったり来たり」を大事にして欲しい。
「外に出ない」でもなく「行きっぱなし」でもないという柔軟なスタンスが、今後の田舎には必要だと思うので。
 とりあえず、応援させてもらう。恥ずかしいので気持ちだけ。





*1
 現在、「
ケータイ刑事 銭形雷 (らい)」放送中。()


*2
 伊豆の大室山シャボテン公園にヒドラという竜の像がある。これを元にしたエピソードが「恐怖のルート 87」。(
)


*3
「いんちき」はあくまで自称。秋田弁丸出しで怪しげだが、
日本奇術協会に所属する、立派な手品師。()





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第477夜「愉快で問題な日本語」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp