言葉のことを話題にしたホームページを持ってる以上、流行に疎くては話にならないのだが、残念ながら疎い。
若い人々との接点がないのはある程度しょうがないから除外するとして、主たる原因は、バラエティ系のテレビ番組を見ないことであろう。平日夜のドラマも見ないし。
去年の後半辺りからチラホラ見るようになってきてはいて、昨クールは「生徒諸君!」と「帰ってきた時効警察」を見ていたが、これはどちらも今時の言葉遣いに触れるようなドラマではなかった。
今は、「花ざかりの君たちへ」と「探偵学園Q」。
前者が今時っぽい。いや、高校生を演じているのは二十代も中盤のイケメンたちなのではあるが。
こないだ「ピンクい」という表現が出てきた。意味は解説の必要あるまい。「ピンクの」である。
驚いた向きもあろうが、俺のところのメモではおおよそ 5 年前に実例がある。日付がないので不正確ではあるが。特段、新しい表現ではないし、テレビで耳にするのが遅かった、というくらいである。
もう一つは「どんだけ」。
台詞としては「どんだけシャンプーねぇんだよ」というもので、舞台となっている学校の寮で、寮生が次々にシャンプーを借りに来るので頭に来た主人公が言う。
「
どんだけ」つまり「どれだけ」の伝統的な (「正しい」) 意味合いから言えば、「シャンプーがない」という状態については「どれだけ」という疑問詞は使えない。「ある」とか「少ない」であれば、量を問うことはできるからいいが、「ない」については量はゼロと定まっているからである。
*1
「
どんだけ」のこういう使い方は前から耳 (目) にすることがあって、あぁここでも出たか、と思っていたら、こないだ読んだ『
言語』の 8 月号、「新語・世相語・流行語」でも「
どんだけ」がとりあげられていた。
ただし、これとはちょっと違う。
こちらは、応答の言葉である。「すごいなー」「へぇ」という程度の意味。筆者の亀井肇氏は「超○○」と並べている。どっちかと言えば「
どんだけぇ〜」みたいな感じらしい。
亀井氏によれば、もとは大阪で相手を威嚇するときに使われていた言葉が、女子高生の間に取り入れられ、それがなぜか新宿二丁目のゲイバー
(ママ) で使われるようになった、とのこと。
というわけで、上の「
どんだけ」とは別物なんだが、この言い回しが頻繁に聞かれるのは、あながち無関係というわけではないのではないか、と思ったりもする。
で、「
どんだけ」をググってみると、
シブヤ経済新聞の
記事がヒットする。
渋谷のティーンの間で使われている流行語として「
どんだけ」などを取り上げた記事だが、日付を見てびっくり。2005 年の 1 月、つまり「
どんだけ」がメディアにのったのは、(少なくとも) 2 年半前なのである。
勿論、これは渋谷の話題であって、その全国への波及については触れていない。この時点では、流行の
S 字カーブも上を向いていなかったかもしれないが、この二年半のどっかで一定の使用率、無関係の人でも耳にしてておかしくないくらいにはなっていたはずで、それはおそらく今月ではないから、最近初めて耳にしたからといって、「最近、『
どんだけ』という言葉が流行っているが」などと言うとちょっと恥ずかしい思いをすることになるわけである。
この記事で「ほんとかよ」と思ったのは、当時、シブヤのギャルの間では
2ch 用語を使うのが流行っていた、ということである。
「電車男」がブームになってテレビドラマが放送されたのは 2005 年の夏、この記事の半年ほど後だが、あの描き方を見ても、やはり外部から見たら近寄りがたいものであったはずで、まして「シブヤの女子高校生が『逝ってよし』とか言うの?」という気は相当にする。
尤も、「近寄りがたい」という描き方自体がステロタイプだったのかもしれないのだが。
ついでだから、新し目の表現を。
「〜ぐらいの勢い」。
たとえばピアノの練習で、「巨匠を超えるくらいの勢いで弾きなさい」と言ったりする。
どこが今までと違うかというと、この「勢い」はピアノを弾くという動作、弾く強さや速度を指しているのではない、ということ。気持ちの問題であって、動きの話ではない。
これがピアノではなく短距離走のコーチで、「ゴールがもっと先にあるくらいの勢いで駆け抜けなさい」というのならそれはまさに「勢い」なのだが、昨今の例では、「勢い」とは無関係な文脈で使われる。
なお、聞いたのは去年の春だから決して新しくはない。「最近、聞いたのだが」などとよそで言わないように。